1
茶箱から茶菓子、茶葉を取り出し、茶を淹れる。
『レオーネねえちゃんだ~!!あそぼー!!』
『あ、ずるいぞ!!おれがあそんでもらうんだ!!』
『じゃあさ!!じゃあさ!!しゅぎょーをいっしょにしよーよー!!』
「あははは~!!こらこら、ちゃんと鍛錬しないと師匠の拳骨が飛んでくるぞ~!!」
『キャッキャッ!!』
レオーネが子達に顔を見せた瞬間、皆、鍛錬の事は何処へやら、彼女の周りに群れ、遊んでくれ、と、せがむ。
茶葉と湯を入れた急須を傾け、その様子を見守る。若い衆も先程の怒りを忘れたように、笑顔になっておる。
レオーネは面倒見が良い、子にも老人にも、何人も差別、区別せずに。あれは天性の一種のカリスマに近いと言っても過言ではなかろう。
儂は手を叩くと、皆を注目させる。
「それ、皆、休憩だ。茶を飲め。」
『おかしだ~!!わーい!!』
すると、どうであろう。子は大喜び、レオーネを引っ張りながらこちらに寄ってくる。
「外の者にも声をかけろ、せっかくだ、皆で頂こう」
「御意!!」
若い衆にも、そう声をかけ、外で鍛錬をしている者も呼ぶ。
ふと、レオーネを見る。
「あははは!!よ~し!!皆でお菓子だ~!!」
『キャッキャッ!!』
あれは、確かに陰に傾いておるが、陽もまだ、残しておるな。
おそらく人を本格的に殺したばかり。……故に此処を訪ねてきたか。
ならば、育てた者の責務、というものが儂にもあろうて。
煙管を取り出し、そっと、火種を落とす。
「……レオーネ」
そして紫煙を吐き出し、彼女を呼ぶ。
「こらこら、皆ちょっと待ってなって……はい?なんです、師匠?」
子らの相手をしながら此方を向いた彼女の、双眸をじっと見据える。
「……あはは~。参ったな~、こりゃ……」
「うむ、少し付き合え。……皆、菓子は兄が来るのを待つのだぞ。」
『は~い!!』
――……影を落とした笑顔になったレオーネを連れ、庭先へと向かった。
2
「……」
「……」
この季節にしては珍しい、冷たい風が庭先を吹き抜ける。
「殺したか」
「っ!!……はい」
「何人殺った?一人二人ではない、な。いつものゴロツキ相手でもなかろう。」
「あはは~。やっぱり、全部、わかっちゃいます……よね……」
「かかか!!生娘が儂に隠し事なぞできるわけなかろうて。儂は无二打ぞ?かか!!」
そう言って笑うと、彼女も、どこか、悲しげに笑った。今にも泣き出しそうな顔、こやつにしては珍しい。
「……師匠、ごめ――……」
「謝るのだけはよせよ、レオーネ。」
「っ!!でも、でも私は……!!師匠から教わった技を……!!」
「……だから、なんだ?」
「え……?」
「儂はぬしに、生きるための術を教えたに過ぎん。それをどう使うかは、ぬし次第であろう?なんだ?儂に叱って欲しかったか?拳骨の一つでももらうために此処に来たのか?」
「ちが……」
「ぬしは、“覚悟”を決める、きっかけが欲しいと。これからはこうして生きる、と。違うか?」
「……」
「なぁに。ぬしのような奴はこれが初めてではない。既に……5、6人は同じように訪ねてきたわ!!かかか!!今そやつらは生きてるのかも分からんがなぁ。」
「……」
「だから、なぁ、ぬし、レオーネ。――そんなみっともない顔をするな。」
儂が一人で次々に弾丸のように言葉を放っていると、レオーネはポロポロと、涙を流し始めた。……若い、若いなぁ。そして、ようやく原石の光が視えた、か。
「は、破門され、る、かと……思ってた!!」
「はて?儂がこれまで誰かに破門なぞした事があったかのぅ?」
「叱って、欲しかった……!!馬鹿、野郎って!!」
「ふぅむ。確かに儂はお前を育てた、が。親ではないからのぅ」
――刹那、儂の胸に、レオーネが飛び込んで来た。
「……“覚悟”を決めろよ、レオーネ?おそらく、ぬしの往こうとしている道は修羅道ぞ?こんな時世、ぬしのような若者が出てくるのは、そう珍しい話ではなかろうて。しかし、“覚悟”だけは決めろ。揺らぎない、確固たるものを。さもなければ、いつしか心は死に、修羅道、天狗道を往く鬼と化し……閻魔様からも見放される。」
「……は、い!!はいっ!!絶対に……絶対に!!師匠の弟子なのを誇る事の!!できる……!!」
「かかか!!そんなもんは誇らんでよいわ!!……ならば、景気祝いだ。……儂にできる事、お前が望んだものでもくれてやろうて。」
そう言うと、彼女の胸を、軽く突き、後方へと下がり、拳を構える。
「し、師匠……?」
「……一戦、我が“无二打”を馳走してやろう。なぁに本気は出さん。これを見て、いつしか儂に追いついてみせろ。……かかか!!こういうやり方の方が、ぬしには似合うだろうて!!」
「!!は、はははは!!はい……!!では……一戦、お願いします!!」
ふっと、屈託ない笑顔に戻った彼女を見て――。
「……いきます!!」
「かかか!!……我が拳に“无二打”!!餞別だ!!これを見事モノにしてみせよ!!」
互いに拳を構えて――。
「「はぁぁぁぁ!!」」
――……希望を持ってしまうのだ。――いつしか、儂を殺してみせよ、と。
序章:~終~
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