1話
1
「……暖かいのぅ」
「はい、先生。今日は良く陽がでております」
目の前には茶、蜜柑、そして二つの
「かかか、ついぞ革命軍は儂のような老いぼれまで頼るか。」
昨今俗に言う、悪政、を敷く帝国に対し剣を向け、急激に勢力を増す革命軍。その心意気や好し、と、言いたい所ではあるが、“革命”とは綺麗事ばかりで成るモノではない。
陰陽とは表裏一体、一つの陽だまりには一つの影が、必ずやついてまわる。これは世界の理、何人も破る事叶わん。
「……そして……ふん。あの坊め、ついぞ儂を殺すのではなく、利用する気になんぞになりおって。」
そして宮廷からの文には、儂を召還する旨が書かれており、念を押すように、皇帝からの印までも――。しかしそれよりも儂の興味を引き付けるモノはそれらではない。共に宮廷からの文で、差出人は――オネスト、帝国の政の実質的な頂点に立つ男、そして――。
「かか!!ここで云十年前の約束事なんぞ持ち出しおって!!しかしやはり帝国を牛耳るだけはある、儂の信条すら未だ覚えておるか!!」
遠い昔、皇拳寺での修行時代、儂の、弟分で
その時、儂は坊と、一つ、約束をした覚えがある。
【に、无二打……!!約束しろ!!俺が、俺が……!!お前よりも上に立つ事ができた時……!!俺の言う事を一つ!!どんなに理不尽で残虐なモノでも……!!一つ、かなえろ!!】
【かかか!!そんなボロ雑巾のような死に体でよく吠えるわ!!しかし……おうさ!!その時が来たら、この无二打、全霊をもって叶えてやるわい!!】
――……その時は思いもしなかったわ、地面に血だらけで伏している坊が儂より上に座する時が来るなんぞ。
しかし、坊のこの在り方、真理だとも、思っている。人知れず己の牙を磨き、頂を目指し、そして事実、頂に立ってみせた。目指す頂が、陽か陰かに関わらず、自然の道理――弱肉強食の理を以てして、立つ。
儂とて、嬉々として死合を重ね、多くの傑物を屠った末に、前皇帝の護衛として、側近に召し入れられた。その時の坊はただの文官の一人、悔しそうに儂を見ていたのも、はっきりと覚えておるわ。
「かかか!!おうさ、約束は約束、叶えてやるとも!!」
そう独り言ち、宮廷からの文を懐に、革命軍からの手紙は燃やす。
「先生……?」
「少しばかり、留守を任せるぞ。儂は宮廷へ行く。」
「……御意」
不満気に応える若い衆。だが仕方あるまい、此処に居る子の親のほとんどは、今の政のせいで死んでいる。
だが、それから引き取り、育てたのは儂だ。道理は守るさ。
「さて……坊め、どんな“お願い事”を口にするやら――……」
2
「大臣!!本当に、かの“无二打”は来るのか!!余は楽しみで今にも駆け出したい気分だぞ!!」
「ヌフフ、陛下、そうご心配せずとも必ずや来ましょう。」
――帝都、皇帝の座す、宮殿。
玉座に座す、まだ幼さが多大に残る現皇帝は目を輝かせ、心此処に在らず、といった具合である。
そしてそのすぐ横では、巨大な肉を引きちぎるように頬張る巨漢が一人。――多くの奸計をめぐらせ、ついにこの帝国を実質的に支配するに至った傑物――オネスト大臣。
『……』
その眼下には、多くの文官や武官達。ある者は冷や汗を、ある者は深い笑みを……。
各々が様々な表情を浮かべ、約束の刻を待つ。
――その一方で。
「ヌフフ……それにしても、貴方まで来るとは思いませんでしたぞ……ブドー大将軍。」
「……ふん」
ただ一人、一点の曇りもない表情で立つ武人が一人。
帝国に属する将軍達の頂に立ち、皇帝がオネスト大臣と同等、いや、武においてはそれ以上に信頼する猛者。
――ブドー大将軍。
「う~ん。まだか、まだなのか!!衛兵からの連絡はどうなっておる!!」
『はっ!!いまだ、ありません!!』
徐々に、皇帝の表情から輝きは消えていき、そして――。
『……指定した刻にございます!!』
「ヌフフ……」
「……」
静かに、衛兵が約束の刻になった事を告げる。
「――はぁ……仕方あるまい。余はとてもざんね――……」
――皇帝が無表情になり、何かを告げようとした時であった。
「――……恥かしながら、召還に応じ、この无二打、馳せ参じた所存でございます」
『なっ……!!』
皇帝陛下の前で膝を折り、頭を垂れた人物が一人、まるでたった今、転移したかのように、現れたのだ。
「……来ましたか」
「……」
多くの文官、武官達がどよめく中、オネスト大臣、ブドー大将軍のみが冷静に彼を見る。
「お、おぉ!!何だ!!いつからそこにおったのだ!?かの无二打は帝具使いでもあったのか!!」
一方で、皇帝は年相応にはしゃぎだし、何と、玉座から立ち上がった。
「……この老骨、帝国の宝である帝具を纏う資格は満たしておりませぬ。」
「何と!!ではどのようにここまで来たのだ!?大臣、大臣!!余は今、かつてない程心踊っているぞ!!」
「ヌフフ、陛下、これは皇拳寺の技の一つ、圏境、と伝わる技です。无二打殿はこれを極めた者として広く知られております。」
「おぉ!!そうなのか!!流石は大臣、博識だな!!」
「いえいえ、褒めるべきは、その技を陛下に披露した、この无二打殿でありましょう。」
「うむ!!うむうむ!!そうだな!!良くぞ余に皇拳寺にて極めた技を見せてくれた!!褒めてつかわすぞ、无二打!!」
「……もったいなきお言葉、老骨にはこの上ない喜びであります。」
紅い、真っ赤な血の色の礼服に、黒い色眼鏡をかけた彼、无二打はそう言うと、オネスト大臣の双眸を見る。
「ヌフフ、ヌフフフフ!!」
「……」
狂気の宿った瞳を不気味に光らせ、更に勢いよく肉を頬張る大臣は、ただただ嗤うのである。
【――……今度こそ、自分が上に立つ事ができた】、と……。
感想等お待ちしております。