鎌の勇者(仮)は殺人鬼【凍結】   作:聖奈

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大変遅れて申し訳ありません。この時期、仕事が忙しすぎて…。


三十九話 幼女

(さて、どうしたものか…。とりあえず、外見に関しては特別大きいんですとか今ならまだ誤魔化せるぞ…)

 

しかし、尚文の思惑とは逆に成長音が鳴り響いている。

 

「まだ音がしてるぞ…」

 

「まだ、大きくなるんじゃあ…」

 

成長音に尚文とミーシャは冷や汗を掻く。大きくなるのと比例して食べる量も増えるのではないかと。

 

「あの、もしかしてナオフミ様の盾の力でこんな成長をしているのではありませんか?」

 

「可能性は十分あるな。魔物使いの盾Ⅲにも成長補正(中)というボーナスはあった」

 

「なるほど、それであんなに大きく…家より大きくなるんじゃないかしら」

 

「な、ナオフミ様…確か奴隷の盾もありましたよね?」

 

「ああ、奴隷使いの盾という似たボーナスの付いている盾がある」

 

「……その、力は私に?」

 

「ああ、とっくに解放済みだ。ラフタリアも少しは影響を受けている」

 

「それで、こんなに成長したのね」

 

「いやああああああッ!」

 

ラフタリアは尚文から聞かされた言葉に叫びながら馬小屋から走り出した。

 

「ら、ラフタリア!?」

 

「最近、体が軽いなぁって思ってました。ナオフミ様の所為だったんですね!」

 

「お、落ち着け!」

 

「わ、私もフィーロな大きさになっちゃうんですか!?怖いですけど!」

 

「お前からは成長音がしないだろ」

 

「そ、そういえばそうでした。良かった…ほんとに良かった!」

 

ラフタリアはしばらく取り乱したが、尚文に宥められ、平静を取り戻した。

 

「奴隷使いの盾があれば、私もあんなに大きく…」

 

ミーシャはラフタリアへ視線を向けてごくりと片唾を飲む。主に胸に。

 

「なりますか?お揃いですね。それじゃ、これからは呼び捨てで…ミーシャって呼びますね」

 

「遠慮しとくわ。よくよく、考えてみれば奴隷になる方がデメリット大きかったわ。成長した貴女のスタイルの良さに釣られてしまったけど。それと、年下から呼び捨てにされるのは結構イラってくるからやめなさい」

 

「じょ、冗談ですよ。ミーシャさんも、良いと思いますよ!」

 

「嬉しい事言ってくれるじゃないの」

 

ミーシャとラフタリアが談笑している横で尚文はムキムキマッチョに育つラフタリアとミーシャを想像しながらフィーロへ視線を向けた。

 

「なんか失礼なこと考えてませんか?」

 

「同感。私も失礼な事考えられた気がするのよねー」

 

「…どうしたものか」

 

ラフタリアとミーシャに詰め寄られるが尚文はそれを無視して話を続行する。

 

「一度、あのテントに行って確認を取りますか?」

 

「そうだな。それが良い」

 

「決まりね。それじゃ、ついでに買い食いでもする?」

 

「良いですね。しましょう!」

 

「おいコラ。無駄遣いするんじゃない」

 

「ま、私の銀貨で奢るから大丈夫よ」

 

「それなら、いいが…」

 

尚文は意味も無く城下町に戻るのは嫌だっだが行くしかないので、荷車に乗る。

 

「グア!」

 

元気良く、荷車を引くフィーロと乗り物酔いと戦うラフタリアを心配しつつ、尚文達はリユート村を後にした。

 

途中、フィーロが飢えを訴えたのでエサをやったり、魔物と戦ったり、ミーシャが生えていたキノコを食べたりして腹痛を起こしたりしたので、城下町に着いたのは昼過ぎだった。

 

「おいおい…」

 

尚文が気が付くとフィーロの外見がまたも変わっていた。足と首が少しずつ短くなり、気がつけば短足胴長のフクロウのような体形に変化していた。

 

それでもなお、荷車を引くのが好きで楽しそうに荷車を引いている。引き方にも大きな変化が生まれており、前は綱で荷車と結んで引いていたが、今は手のような翼で器用に荷車の取っ手を掴んで引いている。

 

「クエ!」

 

鳴き方すらも変わり、色は真っ白になっていた。

 

「…体格かなり、変わっちゃいましたね」

 

「そうね。狭い所通れるかも心配になってきたわ」

 

ラフタリアとミーシャは一旦、荷車から降りてフィーロの身長を目視で測る。身長は2m30cmまで縮んでいたが、横幅が広がっており、遊園地のマスコットのように不自然に肥っていた。

 

「クエ?」

 

「なんでもないわ」

 

(フィーロは変化に気付いているのか?もはや何の生物か分からないんだが…)

 

尚文が心配してる間にも、奴隷商のサーカステントに到着した。そして、荷車から降りて奴隷商の元へ向かった。

 

「いやぁ…どうしたのかと思い、来てみれば驚きの言葉しかありませんね。ハイ」

 

奴隷商は冷や汗を何度も拭いながらフィーロをじっくりと観察している。

 

「クエ?」

 

今のフィーロは全体的に太くなり、フクロウのような魔物になっている。人懐っこいダチョウの面影は姿はほぼないと言ってもいい。

 

「正直に聞く。こいつはお前の所で買った卵が孵った魔物だが、本当にフィロリアルの卵を渡したんだろうな?」

 

「嘘吐いたら殺すって言ったわよね?」

 

「クエエエッ!!」

 

ミーシャが奴隷商の首に鎌の刃を向け、その後尚文が指を鳴らすとフィーロが今から襲い掛かると言わんばかりに威嚇する。

 

奴隷商は、焦り何度も書類のようなものを確認している。

 

「…おかしいですな。私共が提供したくじには勇者様が購入した卵は確かにフィロリアルの卵と記載されておりますが…」

 

「これが?」

 

「クエ!」

 

「とても、そうには見えないけど?やっぱり嘘?みじん切り確定ね」

 

「ミーシャ、ステイ」

 

尚文が大きなエサを投げるとフィーロは器用に口に放り込み食べた。その後、襲い掛かろうとするミーシャを尚文が制止する。

 

「えーっと…」

 

(ん?そういえば、さっきからフィーロの方から成長音がしなくなったような気がするな…やっと身体が大人になったという事なのか…?)

 

「しかし、まだ数日しか経っていないのにここまで育つとはさすが勇者様ですね。脱帽です」

 

「世辞でごまかすな。さっさと教えろ。俺に渡した卵が本当にフィロリアルなのかを」

 

「…最初からこの魔物はこの姿で?」

 

「いや…」

 

尚文は奴隷商にフィーロが生まれてから、今までの話をした。

 

「…途中まではちゃんとフィロリアルだったのですね?」

 

「ああ、間違いない」

 

「クエ?」

 

(お前の所為だろ)

 

フィーロが首を傾げながら、ポーズを決めると尚文は若干の苛立ちを覚えて、心の中で悪態を吐いた。

 

「クエ」

 

(…暑苦しいな)

 

スリスリと尚文にフィーロは全身を使って擦り寄る。かなり大きな翼で抱き付かれ、尚文にとってはフィーロ自身の体温が鳥ゆえに高いせいか熱さを感じていた。

 

「む…」

 

ラフタリアはその光景を見ると眉を寄せて尚文の手を取って握る。

 

「クエ?」

 

「この流れは…私もね」

 

ラフタリアとフィーロが見詰め合ってるとミーシャがフィーロの翼とラフタリアの片手をそっと握った。

 

「どうしたんだ、お前等?」

 

「いえ、なにも」

 

「クエクエ」

 

「えっ?かごめかごめやるんじゃないの?」

 

「かご…何ですか?それ」

 

ラフタリアとフィーロは首を振って意思表示をしている。その最中にミーシャの発言にラフタリアは首を傾げた。 

 

「かごめかごめっていうのはね、ジャパンの…」

 

「おい、冗談じゃないぞ。二十にもなってこの面子でかごめかごめするって、黒歴史確定だろ」

 

「尚文は嫌みたいね。しょうがない」

 

「…そうですね」

 

(嫌に決まってるだろ…残念そうな顔するなよ)

 

尚文が拒否してる間にも奴隷商は困っていて、書類と睨み合っていた。

 

「とりあえず、専門家を急遽呼んで調べさせますので預からせて貰ってもよろしいでしょうか?」

 

「構わないが、間違っても解体しないと分からないとか言って殺すなよ」

 

「クエ!?」

 

「分かっていますとも。しかし、専門家が来るのに少々お時間が必要なだけでありまして」

 

「…まあ、良い。任せたぞ。フィーロに何かあったら慰謝料を要求するだけだからな」

 

「クエエッ!?」

 

尚文の返答にフィーロが異議を申し立てるように羽ばたく。しかし、尚文はそれをスルーして奴隷商の部下がフィーロに首輪をつけて檻に連行する様子を眺めていた。尚文の視線から大人しくしてろよという意志がフィーロは感じ取り、素直に檻に入る。

 

「ねえ、前来た時に居た子達が何人か居なくなってるけど…」

 

「あの奴隷は先日ですねーー」

 

「おい、そろそろ行くぞ」

 

「はいはーい。また今度ね」

 

ミーシャは飽きたのか、奴隷達が閉じ込められている檻でウィンドウショッピングをしており、奴隷商から居なくなった奴隷達の行方を尋ねたが尚文がそろそろ宿に行くようなので、中断してミーシャは尚文の元へ向かった。

 

「明日には迎えに行く。それまでに答えを出しておけよ」

 

「フィーロ、良い子にしてるのよー」

 

尚文が念の為に釘を刺して、ミーシャはフィーロに釘を刺してラフタリアを連れて、そのままテントを出た。

 

「クエエエエエエッ!!」

 

フィーロの大声がテントを出てもまだ、聞こえて来ており尚文達は知らない顔を貫いた。その日の晩に宿に泊まっていると、突然尚文は宿の店主に呼び出された。

 

「あの…勇者様」

 

「どうした?ミーシャのヤツが迷惑でも掛けたか?」

 

「ひどくない?」

 

「いえ…鎌の勇者様は落ち着いてました。そうではなく、お客様がお見えになっています」

 

尚文の発言にミーシャが抗議しながら、二人でカウンターに顔を出すと、そこには見覚えの無い男が立っていた。

 

「何の用だ?」

 

「誰かしら」

 

「あの、私…魔物商の使いのものです」

 

男の正体は、魔物商もとい奴隷商の使いだった。。

 

「どうしたんだ?」

 

「実は、お預かりしている魔物をお返ししたく…」

 

「もう?」

 

「はぁ!?」

 

フィーロを預けて数時間。そこまで時間は経っていない…にも関わらず、返すとはどういう事だと尚文は怪訝な顔を浮かべて、ラフタリアとミーシャを連れてテントに行くと、フィーロの鳴き声が木霊していた。

 

「いやはや、夜分遅く申し訳ありません。ハイ」

 

尚文達が顔を出すと、くたびれた様子の奴隷商が尚文達を出迎える。

 

「どうした?明日まで預ける約束だったはずだが…」

 

「何かあったの?」

 

「そのつもりだったのですが、勇者様の魔物が些か困り物でして」

 

「クエエエエエエッ!!クエエエエエエッ!!」

 

フィーロはジタバタと暴れて、檻を壊そうとしていたが尚文達を見つけると大人しくなった。

 

「鉄の檻を三つ程破壊し…取り押さえようとした部下5名を治療院送り…使役していた魔物三匹が重傷を負いましたよ。ハイ」

 

「弁償はしないぞ」

 

「そうね。フィーロを大人しく出来ない貴方達が悪いんだし」

 

「こんな時でも金銭を第一に考える勇者様方に脱帽です。ハイ」

 

奴隷商から、経緯を聞いてもなお、尚文とミーシャは弁償を拒否した。

 

「で、何か分かったのか?」

 

「いえ…ただ、フィロリアルの王に似たような個体がいるという目撃報告があるのを発見しまして」

 

「王?」

 

「正確にはフィロリアルの群れにはそれを取り仕切る王がいるとの話です。冒険者の中でも有名な話です。ハイ」

 

 奴隷商は使える限りの情報網を用いて調べていたらしく、野生のフィロリアルには大きな群れが存在し、それを取り仕切る王がいると言う話だ。人前に滅多に現れないフィロリアルの主であり王がフィーロなのではないかという憶測だ。

 

「なるほどな」

 

魔物紋を解除して、盾に吸わせれば真相が分かる可能性があったが、それはフィーロを殺す事になる。羽根や血を吸わせても、尚文の魔物の為か、魔物使いの盾しか出てこない。ミーシャに吸わせるという手段もあったが、魔物の鎌しか出ない可能性が濃厚だった。

 

必要レベルとツリーが足りない事を、嘆かわしく思いながら、フィーロを見つめた。

 

「…クエ?」

 

敵対関係の相手であれば表示されるが、仲間の魔物はステータス魔法で種族名が表示される事は無い。

 

「で、なんて呼ばれているんだ?」

 

「フィロリアル・キング…もしくはクイーンと呼ばれております」

 

「フィーロは雌だからクイーンのようだな」

 

「ですな…ここまで勇者様に懐いていますので、この状態で売買に出されるのは困りますねえ」

 

(鳴いて暴れて、鉄の檻を三つ破壊だったか。凄まじいパワーだな。元より売る予定は無かったが…)

 

「…さま」

 

「ん?今、声が聞こえなかったか?」

 

「聞こえたわね」

 

「私もそのような声が聞こえた気がしますね、ハイ」

 

「あ、あの…っ」

 

ラフタリアが口元を押さえて、プルプルと震えながらフィーロの居る檻を指差した。それと同様に奴隷商の部下も唖然として指差していた。尚文とミーシャと奴隷商はどうしたのかと首を傾げつつ振り返った。

 

「ごしゅじんさまー」

 

そこには淡い光を残滓に、白い翼を持った少女が裸で檻の間から尚文に向けて手を伸ばしていた。

 

(は?)

 

尚文はその自分を呼ぶであろう声に頭が追い付かず、放心する。

 

「貴女…まさか。フィーロたんッ!!?フィーロたんなのねっ!?」

 

ミーシャは我に返ると、檻へとキャーっと黄色い声を上げながら檻へと抱き付いた。

 

(フィーロ…なのか?というか、元々頭のおかしい奴だと思ってたが更に頭がおかしくなったのか?ミーシャの奴。フィーロたんとか…)

 

檻に抱き付くミーシャを見て、尚文は呆れながらも少女がフィーロだと気付き始めた。

 

「今、出してあげるわ!フィーロたんっ!そこのあんた、何やってるの?早く鍵持ってきて出してあげなさい。フィーロたんが可哀想よ。嗚呼、可愛いわねえ」

 

「は、はい!只今!」

 

ミーシャは近くに居た、奴隷商の部下の尻を軽く蹴ると睨み付けながら鍵を開けるように催促して、鉄格子に頬擦りをしている。

 

「……」

 

当のフィーロはというと、急に豹変した仲間の年上の少女にドン引きしていた。

 

(ふ、ふふ。今日から私は最年少脱却…)

 

ラフタリアに至っては、混乱しながらもそんな事を考えていた。


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