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セイバーを見送った後、2人を追尾しようとも考えたがこの姿が見られてしまった手前それは悪手だろう。
「大人しく晩飯でも作っておくか」
今晩の戦闘は、士郎にとっても大きな経験になるだろう。今まではただ使うだけだったが、今回は違う。考慮し、見極め、戦闘における使い方を知る。それに今回俺がいたらイリヤスフィールが出くわさない可能性がある。
「頑張れ、士郎」
士郎視点
半ば強制的に遠坂に引きづられて外に出ると、遠坂は少し焦っているように見えた。
「…っ!!」
「何焦ってるんだよ、遠坂!別に焦らなくたってよかったじゃないか!あれじゃ、余計不自然に思われるぞ」
すると、遠坂は胸ぐらを掴んできた。
「衛宮くん、あれは何!」
「あれって何だよ」
「貴方の兄弟の隼人の事よ!」
切羽詰まった表情で、聞いてくる遠坂に俺は驚いていた。
「隼人の事?」
「えぇ、人間として、いいえ魔術師が持ってていい魔力量じゃないわ!貴方は気づかなかったかもしれないけどアレは、明らかに異常よ」
遠坂が言っていることが、いまいち理解出来なかった。隼人が異常だとしたら何故、俺と切嗣が今まで気づかなかったのか。
「例えるならそうね…英霊が何人か同時に居るような者よ、出くわしたら最後助からないレベルの」
驚きを隠せない俺だったが、そう言えばとセイバーを家に置いてきてしまっていたのを忘れていた。
「マスター」
「なっ…セイバー!」
「すいません、所用で少し外していました」
セイバーはそれだけ言うと、隣に並んで歩いていた。
「隼人のことは置いといて、さっきの続きだけれど、今から教会にあなたを連れて行ってあげるから聖杯戦争についての詳細はエセ神父にでも聞きなさい」
「何でそこまでしてくれるんだ?普通これから敵になるやつのことなんか助けないだろ?」
「別にただ助けた手前、何も知らずに死んだら後味悪いってだけよ。それに衛宮君の家には隼人がいるでしょ?家で、その話の続きをしようにも無関係の人間は巻き込めないもの」
「意外と律儀なんだな」
何食わぬ顔で遠坂について行くとそこにあったのは、普通の教会だった。そこの扉の1つを開けるとそこにいたのは一人の男だけだった。
「再三の呼び出しにも応じぬとも思えば変わった客を連れてきたな。彼が7人目というわけか、凛?」
薄気味悪い表情を浮かべている神父を見た俺は、遠坂の名前を呼んでいたため後ろを振り返った。だが遠坂が何も言わないため、仕方なく俺が1歩前にでた。
「私は言峰綺麗。君の名はなんと言うのかな?7人目のマスター」
「衛宮…士郎」
「衛宮?ふっ…ふっふっ… 」
俺の苗字を聞くや否や笑い始める神父。正直少し不快だ。
「衛宮士郎…君は、セイバーのマスターで間違いはないか?」
不意の問いに、俺は少し考えた後話し始めた。
「確かに俺はセイバーと契約した、だがそんなことを言われてもマスターとか聖杯戦争とか俺には点でわからない。マスターっていうのが、ちゃんとした魔術師がなるものなら、他にマスターを選び直した方がいい」
「なるほど…これは重症だ」
「その辺、1から躾てあげて」
「ほぅ、良かろう。お前が私を頼ったのはこれが初めてだ…衛宮士郎、マスターというものは他人に譲れるものでは無いし、なってしまった以上辞められるものでもない。マスターとはある種与えられた試練だ、その痛みからは聖杯を手に入れるまでは解放されない。衛宮士郎、君が巻き込まれたこの戦いは聖杯戦争と呼ばれるものだ」
「7人のマスターで殺し合うっていうふざけた話だろ?」
「全ては聖杯を得るに相応しいものを選抜するための儀式だ」
儀式だと?それに今聖杯と言ったなこの神父は。
「聖杯って…まさか本当にあの聖杯だって言うんじゃないだろうな?」
「この街に現れる聖杯は本物だ、その証拠の1つとしてサーヴァント等という法外な奇跡が起きているだろう?これだけの力を持つ聖杯ならば持ち主に無限の力を与えよう…ものの心眼などその事実の前には無意味だ」
「なら何だって聖杯戦争なんてものをさせるんだ?それだけ凄いものならみんなで分ければいいだろう?」
「もっともな意見だが聖杯を手にするものはただ1人。それは私たちが決めたのでは無く"聖杯"が決めたことだ」
どういうことだ?聖杯戦争って言うのは神父達が取り決めたことじゃないのか?
「全ては"聖杯"自体が行うこと、彼らを競わせ、ただ1人の持ち主を選定する。それが聖杯戦争だ」
「納得いかないな、1人だけしか選ばれないにしたって殺すしかないって言うのは気に食わない」
「殺すしかないってのは誤解よ、衛宮君。この街に伝わる聖杯って言うのは霊体なの。霊体である以上私達には触れられない、つまり他のマスターのサーヴァントを聖杯に近づけさせないように撤去する事が聖杯戦争なの、だからマスターを殺さなければならない、と言う決まりはないの」
「衛宮士郎1つ訪ねるが、君は自分のサーヴァントを倒せると思うか?サーヴァントはサーヴァントを持ってしても破り難い、ならばどうするか?実に単純な話だろう?如何にサーヴァントが強力であろうがマスターが潰されればそのサーヴァントも消滅する。であれば?」
簡単な話だ、マスターを倒した方が早い。
「それじゃあ、逆にサーヴァントが先にやられたら?聖杯に触れられるのはサーヴァントだけなんだろう?ならサーヴァントを失ったマスターには価値がない」
「いや、令呪がある限りマスターの権利は残る…例えば主を失い行き場に迷ったサーヴァントがいれば再起の可能性が残るという事だ。だからこそマスターはマスターを殺すのだ」
「じゃあその令呪を今ここで使い切ったら?」
「たしかにマスターの権利は失われるな、最も強力な魔術を行える令呪を無駄に使う…等という魔術師がいるとは思えないが、いるとしたらそいつは半人前どころか、ただの腑抜けということだろう」
またしても、薄気味悪い笑みを浮かべる神父。
「さて、それでは初めに戻ろう…衛宮士郎。君がマスターを放棄するというのなら、それも良かろう。令呪を使い切ってセイバーとの契約を断てばよい、その場合君の安全は私が保証しよう」
「何だってあんたに、安全を保証されなきゃいけないんだ」
「私は繰り返される聖杯戦争を監督するために派遣された、マスターでなくなった魔術師を保護するのは監督役の最優先事項だ」
繰り返される?どういうことだ、聖杯戦争って言うのは今に始まったことでは無いのか?
「前回が10年前であるから今までで最短のサイクルという事だ、過去に繰り返されてきた聖杯戦争は尽く苛烈を極めてきた。マスターたちは己が欲望に突き動かされ、ただ無差別に殺し合いを行った」
「じゃあ聖杯を手に入れたマスターが最悪のやつだったらどうするんだ?」
「聖杯に選ばれたマスターを止めるすべ等、私達にはない。何しろ望みを叶える万能の杯だからだ、それが嫌だと言うのなら衛宮士郎。君が勝ち残れば良い、君が勝ち残れば少なくとも無差別な殺人者に渡ることはなくなるだろう」
「俺には戦う理由がない」
「では、聖杯を手に入れた人間が何をするか。それも興味が無いのだな。ならば、君は10年前の出来事にも関心を持たないのだな」
「10年前?」
「そうだ、前回の聖杯戦争の最後に相応しくないマスターが聖杯に触れた、そのマスターが何を望んでいたのかは知らない。我々に分かるのは残された災害の爪痕だけだ」
「待ってくれ…」
途端に思い浮かべたのはあの最悪の厄災。1面の炎と死にゆく人々。
「大丈夫?衛宮君」
「あぁ…」
少しふらつきながらも、どうしても聞いておきたいことがあった。
「今まで聖杯を手に入れた者はいるのか?」
「一時的に本物を手にした男はいた」
「そいつは一体どうなったんだ?」
「どうにもならん、その聖杯は完成には至らなかった。馬鹿な男が至らぬ感傷に流された結果だよ、聖杯を表すだけなら簡単だ、7人のサーヴァントが揃い、時が経てば聖杯は現れる。凛の言う通り、確かにほかのマスターを殺める必要は無い。だがそれでは、聖杯は完成しない。アレは自らを得るにふさわしい持ち主を選ぶ、故に戦いを回避した男には聖杯など手に入らなかった」
「要するに、他のマスターと決着を付けずに聖杯を手に入れても無意味ってことでしょ?前回、1番最初に手に入れたマスターは甘ちゃんだったのよ」
「話はここまでだ、聖杯戦争に参加するか否かここで決めろ」
そんな事は決まっている。こんな不毛な殺し合いに意味などないのだから。
~教会前~
「喜べ少年、君の願いはようやく叶う。分かっていたはずだ、明確な悪がいなければ君の望みは叶わない。例え、それが君にとって容認しえぬものであろうと、正義の味方には倒すべき悪が必要なのだから」
そう言われた、神父の顔は心底薄気味悪いものだった。
帰り道の途中で、遠坂が突然こちらを振り返った。
「衛宮くん、悪いけどここからは1人で帰ってくれる?ここまで連れてきてあげたのは、貴方がまだ敵にもなっていなかったからよ、でもこれで衛宮君もマスターの1人」
「俺遠坂と喧嘩する気なんかないぞ?」
「参ったなぁ…これじゃあ連れてきた意味が」
「凛、倒しやすい敵がいるというのにそれを見逃すとは愚かな選択だ。それとも何か、君はまたこの男に情けを掛けるつもりか?」
再びあの赤いヤツ、遠坂がアーチャーと呼んでいたヤツが現れた。
「アーチャー…でもコイツには借りがあるじゃない?それを返さない限り気持ちよく戦えないってだけよ」
「ふむ…また難儀な。では借りとやらを返したのなら呼んでくれ」
そう言うとアーチャーは霊体になって消えていった。
「遠坂、借りってもしかして」
「そうよ、形はどうあれ衛宮君は令呪を使ってセイバーを止めたでしょ?」
「遠坂、意外と律儀なんだな。俺、お前みたいなやつは結構好きだ、じゃあな」
そう言って帰路に着こうとしたら、前方に何やら巨大な男?と女の子がいた。
「ねぇお話は終わり?」
「バーサーカー!?」
遠坂が確かにそう呟いたことを俺は聞き逃さなかった。