バーサーカー戦後、俺は士郎たちより一足早く家に戻ろうと急いでいた。
「アーチャーのヤツめ、離れていたから被害は出なかったものの。もう少し近ければ俺まで巻き込まれる所だったぞ?」
「私が何だって?」
丁度、反対側のビルの屋上にアーチャーがいた。
「げっ、アーチャー…」
「そんな事より、何だその格好は?」
「変装のつもりだが?士郎は兎も角、無関係の人間を巻き込むのはお前のマスターの主義に反するんじゃないのか?」
実の所、士郎に戦闘に参加していた"正体不明の何者か"が俺だとバレると、その後の展開が色々と変わる可能性があるが故に、したくもない格好をした訳だが。
「気を遣ってくれるのは嬉しい限りだが、生憎凛はその辺の魔術師よりも格が違う。貴様が魔術を使った瞬間に何者であるか等バレていてもおかしくはない、だが約束は約束だ。受け取るがいい」
そう言ってアーチャーは1冊の本を渡してきた。
「これが…」
「そうだ、英霊召喚について纏めてあるものだ。そうだな、ついでにこれも渡しておこう」
アーチャーが投げてきたのは複数の宝石。
「これを何故俺に?宝石魔術など習得すらしていないが?」
「サービスだ…っと言っても重要そうなものではなく適当に置いてあったものを取ってきただけだがな。何…凛とて助けられた身だ、その様なものをくれてやったとて大した痛手にはなるまい」
英霊以前人としてどうなのだろう、その行為は…。だがまぁ、経緯はどうあれ、くれると言うのであれば、ありがたく頂いておくとしよう。
「ではマスターが呼んでいるので失礼する」
「あぁ、ではな」
取引終了後、自宅へ戻る。不自然に思われない様自分の部屋に戻る。しばらくすると、遠坂とアーチャーの話し声が聞こえてきた。
「凛、この様な男放っておけばいいのではないか?」
「そうもいかないでしょ、大体今日一日は見逃すって言ったじゃない?」
「致し方あるまい、この男はどこに寝かせればいい?」
「そっちの居間でいいでしょ?」
遠坂はそういうと、ちょうど俺の隣の部屋に士郎を寝かせたようだ。
「士郎を治療する前に、セイバー。あなたに私の服一着あげるわ」
「しかし、凛。私はあなたにそこまでしてもらう訳には」
「いいのよ、どうせもう着てないものだったし。クローゼットの中で使われずに置いておくよりも着てもらった方が助かるもの」
「そういう事なら…」
渋々と言った様子で受け取ったセイバー。
「それで、士郎の容態は…」
「これまた、ぱっくり言ってるわね…」
士郎の背中には、ざっくりと傷跡が入っていた。
「凛、何とかならないのですか?」
「一応試してみるけど、治癒魔術に関しては、自信ないのよ私…」
「待ってください凛、士郎の傷が!」
「嘘!?殆ど塞がって来てるわね…」
あっという間に傷は殆ど塞がっていき、浅い傷だけが残った。そのため、処置としては包帯を巻くだけで済んだ。
「俺も少し仮眠を取るか」
俺の意識は深い闇の中へと沈んで行った。それは聖杯戦争始まって以来初の夢だった。
I am the bone of my sword.
―――――― 体は剣で出来ている。
Steel is my body, and fire is my blood.
血潮は鉄で 心は硝子。
I have created over a thousand blades.
幾たびの戦場を越えて不敗。
Unknown to Death.
ただの一度も敗走はなく、
Nor known to Life.
ただの一度も理解されない。
Have withstood pain to create many weapons.
彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。
Yet, those hands will never hold anything.
故に、生涯に意味はなく。
So as I pray, unlimited blade works.
その体は、きっと剣で出来ていた。
要するにこれは、カードを使用したことによって得た英霊エミヤの記憶が今回の戦闘によって一部解放されたのか。あの時カードと同調した時は大まかな内容しか流れてこなかった。
何も無いはずの丘で、何度も剣を刺している男の姿がそこにはあった。その男の表情は、複雑そうだった。助けられなかった、助けたはずのものでさえ裏切られ、再び殺す事を強いられた。
この終わることの無い地獄を何故自分は見せられているのかとふと疑問に思う。答えは簡単だ、これは何れも俺のあったかもしれない可能性だからだ。経緯は違えど、似たような経験は生前あった。
これ以上は、踏み込んでいい問題ではないと。頭では理解している、だがそれでも苦しんでいる目の前の人間を見捨てる事など俺には出来なかった。
だから何度も助けた。何を犠牲にしたとしても、そいつが幸せならそれで良いとその結果だけを求めて、慈善行為を繰り返し続けた。一時は全てを助けた気にもなっていた、だがそれは傲慢だった。
確かに、本当の意味で救えた人間は数人いた。だが、その他は違う。人の主観は常に変動する、状況が最高の状態で保たれるはずなどない、俺自身それはわかっていたことだ。いつかこの報いが来るのだろうと、見捨ててきた、いくつかの過ちは俺に牙を剥くのだろうと。
人間らしく憎むこともあった、こいつなど助けなければよかった。この程度の存在に俺は頭を悩ませていたのかと。だがそれでも俺は理想の形であり続けた。
その結果がそれだ。皮肉なものだな、英霊エミヤとは似ても似つかない、全てを救うという理想こそが英霊エミヤだとしたら、絶対悪と成り果てた前世の俺はどうなのだろうな。
今回も形はどうあれ、士郎があぁ言う運命を辿るというのであれば、何があっても士郎を死なせないように悪になるのかもしれない。だが、それもいいのかもな、善と悪は必然。例え、俺の理想の形と士郎の理想の形が反していて相容れぬ存在になってしまったとしても。
「…胸糞わりぃな、こんな夢見たくなかったんだがな」
士郎がどうなっているか気になったが、どうやら遠坂が部屋にいるようだ。
「お疲れの様だし、朝飯作っておくか」
寝間着から普段着に着替えた後、部屋の戸を開けてリビングの方へ向かう。
「朝飯の前に顔を洗うか」
洗面台の方に行き顔を洗い、歯磨きもついでに済ます。
「何だこれ…」
鏡を見て気づいたことだが、俺の頭髪は現代日本人らしく黒髪なんだが1部分、色が脱色して白くなっている。
「大した、力は使ってないって言うのに」
少し頭痛がしたが、振り切って朝飯を簡単に作る。一応3人分だ、俺とセイバーと士郎。遠坂はどうやら、帰宅したみたいだ。
「ごめん、隼人遅くなったー。昨日も晩飯作れなくてすまなかった」
「別に気にしてないよ、それよりそちらの方は?」
セイバーを紹介する様に促すと、士郎の挙動が少しおかしくなった。
「あ、えぁ、切嗣の親戚の子でさ、留学でしばらく家に泊まることになったんだよ!」
下手な言い訳をする士郎に対してセイバーは冷静だった。
「失礼、隼人…だったか?あなたの事をこのまま士郎に隠し通すのは正直難しいと思う、もし良ければ話をしてくれないだろうか?」
「"事"と言うのは、具体的に役目みたいなものを指すものなら話せないことも無い。答えを言っているようなものだが、1度聞けば、俺はセイバー達に肩入れすることも難しくなる。それでも聞いたいのか?」
無言で頷くセイバーに対して士郎は又もや慌てている。
「待ってくれ、事ってなんだよ?そもそも、何でセイバーの事知ってるんだよ!」
「士郎、それは今から話すことを含めて聞きたいということか?」
ここで、ようやく士郎も頷きを返す。
「では、話そうか。俺の役職について」
あくまでここで話すのは、役職についてだけだ。特別なことを話さないのであればルール上問題は無いはずだ。
「俺は、聖杯戦争において今回限定的な立場ではあるが、教会に雇われた"裁定者"の立場にある」
「なるほど、これまでの行動。そして、昨日の一件はそういう事だったのですね」
セイバーは納得の言った様子だが、士郎はご不満の様子。
「申し訳ないんだけど、"裁定者"って何だ」
「"裁定者"とは聖杯戦争を取り締まる役割を担う人物のことです。今回士郎の兄である隼人は言わば、私達サーヴァントまたはマスターを、ルールで禁じている事を破ったものに対してペナルティを与えるもののことを指します」
「もう一つ質問なんだけど、もしかしなくても昨日俺たちの前に現れて、助けてくれたのは…」
「それは、俺だ。あの時は色々と事情もあったし、何より正体不明だったからギリギリセーフだったんだよ」
本当は、間接的に関わるのもアウトだったと思うが、あの神父もルール破って参加してんだからこれくらいは別にいいだろ。
「それで、お前ら色々話し合わなくていいのか?」
「これから会議しようと思ってたんだよ。丁度いいから、裁定者である隼人にもいて欲しい、聞きたいこともあるから」
渋々、俺も席に座り聞く体制を取る。
進むにつれて途方もなく立ちどまりそうになっております。最近、私の悩みは白髪が増えたことです。まだ、年齢若いはずなのにどんどん白髪になってきてもうコレ何てエミヤ(語彙力)。
あと、バレンタイン(笑)と言うリアルイベント(憎悪)がありますが当然今年も母チョコ貰いました。美味しかったです。