機動戦士ガンダムSEED unlimted blade works 作:時代錯誤
少年はその顔を覚えている。
目に涙を溜めて、生きている人間を見つけ出せたと。
心の底から喜んでいる男の姿。
それがあまりにも嬉しようだったことを。
まるで救われたのは少年ではなく男の方ではないかと思ったことも。
少年が目にしたものは赤い空。
何故なのだろう。
先ほどまで、確かに空はいつもと同じ青であったはずなのに。
夕暮のそれとは違う赤い空が目の前に広がっている。
そして、違うのは空の色だけではなかった。
知らない景色が果てしなく広がっており、目に映るのは瓦解した建物と、空と同じ色をした焔。
見慣れたはずの街並みが跡形もなくなくなっている。
目の前に広がるのは確かに自分の日常であったもの。
何故、何故、何故。
そんな疑問が少年の頭の中を巡る。
しかし、少年は歩みを止めない。いや、もはや自分でも歩いていることに気づいていないのかもしれない。
周りのもの全てを見ないようにして、聞こえてくるものに耳をふさいで、前へ前へと歩いていく。しかし、それでも限界が来て少年は崩れる。
地獄の光景の中に少年が1人。
なんとか身体を動かし、身体を起こす。
しかし、身体は上を向くだけで、もはや一歩も動くことは出来なかった。
見える景色は変わらない。
赤い空とそこに立ち昇る、黒い煙。
そして、そこで初めて少年は理解した。
これは戦争なのだと。
この地獄は戦争なのだと。
だが、その瞳には憎悪も悲哀もなかった。
潰えようとする命の前では、そのような感情は何にも意味をなさないと知っているのか。
それとも、もはやそんな感情さえこの地獄の中に取りこぼして来てしまったのか。
そして、赤かった景色はなりを潜め雨が地上へと降り注ぐ。
少年は目を閉じる。
もう良い、もう良いんだ。
そう心で呟く。
だが…
「生きてる、生きてる、生きてる…」
そうして、少年は決して忘れることはないだろう。
自分を救った男のその言葉とその羨ましくなるほどに満たされたような顔。
そして、何かに感謝するように握られた手の感触を。
コズミック・イラ(以下C.E.)30年
パレスティナ公開会議と銘打たれたそれは、各宗教界の権威者が一堂に会し、コーディネイターに関する議論を行うがまとまらず、宗教界は権威失墜した。
以後、コーディネイター寛容論が世界に蔓延し、第一次コーディネイターブームが到来する。
しかし、C.E.40以降、極秘裏に精製されたコーディネイター達が、学術・スポーツ・芸術の各方面で成果を上げ始めると、「ヒト」としての能力差が顕著となり、ナチュラルの反コーディネイター感情が悪化を始める。
狂信的カトリックやイスラム原理主義過激派、ブルーコスモス構成員等の武装遺伝子差別主義団体が地下で結集し、反コーディネイター運動が過激化し、C.E.44年に完成し、建造拡大が行われていたプラントにも反コーディネイターのテロ行為が発生する様になる。
そして、C.E.53年、コーディネイターに生まれなかった事を悲観したナチュラルの少年の銃撃によりすべての発端となった最初のコーディネーター、ジョージ・グレンが暗殺され、世界はこの日を境に二分した。
これ以降、コーディネーターのほとんどはプラントへ移住。その後S2インフルエンザの流行し、多数の死者を出す。しかし、コーディネーターにその発症者は見られず、プラントはワクチンにの開発に成功し、地球へと供給したものの、インフルエンザの流行を「神の鉄槌」とした宗教界が権威を復権した影響もあって、地球はコーディネイターアレルギーを再発し、C.E.55年に「遺伝子改変禁止に関する協定」(通称「トリノ議定書」)が採択され、遺伝子操作は再び法律で禁止される。
以後、C.E.65年、プラント最高評議会の政権与党、黄道同盟がさらなる党勢拡大のうえ発展する形で、自由条約黄道同盟ZAFT(ザフト)が結党されたこともあり、世界は名実ともにナチュラルとコーディネーターの一触即発の事態となり、争いの方へと動き出す。
しかし、ほとんどの者は思わない。
それよりも前に戦争の火が燻っていだことを、テロリズムという正義のためとして振るった剣。その剣が取りこぼした1つの火種が、いずれ双方を襲うことになる《正義の味方》という剣を鍛える炎となったことを。