迷宮町のニイさん(仮) 作:ダークエルフスキー
女子高生であるモコは、当然だが平日は学校に通う。
普段はモコを見送ったあと二度寝するニイヤだが、今朝は迷宮管理局に向かうため珍しく一緒に家をでていた。
「ニィさん、戸締りのほうは大丈夫?」
「ああ、確認しておいた」
最近この周辺にも空き巣が目立つようになって物騒である。
もっとも、迷宮の物騒さに比べたら可愛いものだが。
「ふ~ん」
「どうしたのニィさん?」
「いや、モコの女子高生姿も一年前と比べるとだいぶ様になってきたなって思って」
「そう? どうなんだろう?」
モコはスカートを片手で軽く摘まみ、自分の姿を見た。
着ている制服は今風デザインのセーラー服。
他の町の学校と違い、通う高校の特殊性から生地に特別な加工がなされている。
ニイヤがモコの頭上に手をかざす。
「身長もだいぶ伸びたんじゃないか?」
「それ、凄く気にしているんですけど……」
モコの身長は平均的な女子としては高い170㎝だ。
彼女より背の高い女子も結構いるが、それでも高校二年の花の乙女としては悩みどころ。
ちなみにモコは友人たちからは可愛いよりは綺麗、もしくは格好いい系と評され、同性から手紙をもらうことが非常に多かった。
「そうか? モデルみたいで格好いいと思うんだが?」
「…………」
絶世の美女になっても女心は分からないニイヤである。
モコは隣に立つニイヤの姿を見た。
180㎝の長身に男物の黒いビジネススーツ。
その美貌と合わせて、それこそモデルのように似合っていた。
「うん、胸とお尻がきつそうだね。ニィさんの服、新調しようか?」
「そうだな、普段着はいいんだが、この手の服とか……迷宮装備も買いたいかな」
「ああ、マッスルスーツは男と女では、まったくデザインが違うものね」
おっぱいさまが収まらなかったんだなと、モコにも容易く想像できた。
「それにしてもニィさん」
「あい」
「その眼帯と手袋は相変わらず着けていくの?」
黒髪の魔女は右目にアイパッチ、左手に薄皮のグローブを装着している。
迷宮探索のときは、青いフード付きの魔術師風なコートも着けていた。
「いやいやモコ、これを着けないと左手の悪魔が疼くし、魔眼の制御もできなくなるから」
「それ、前から言ってるけど、家に居るときは全然着けてないよね?」
「……ほら、迷宮町は魔力過剰だから、魔力に反応して大変なことになるからさ」
「もう、本当かなぁ?」
中二病と一言で片づけるのには、どうにも中途半端な兄である。
以前よりはファッションとして似合ってるからいいけど……と、モコは心の中で呟いた。
住宅街を五分ほど歩く。
やがてバス停とおぼしき場所に辿りついた。
そこには古びたレンガ作りの小さな建物……地下へと降りる階段があった。
ここだけではない、そのような入り口は、この町のいたる所に点在した。
世界中でいくつも発見された迷宮という名前の資源採掘場。
それがある場所特有の光景である。
階段を抜けて地下に足を踏み入れると耳鳴りがした。
すぐにおさまるが、長年この町で暮らしているモコでも慣れない感覚である。
見上げると天井には地上となんら変わらぬ青い空と太陽の眩い光。
整備されたアスファルトの道には車が走り、道路沿いにはコンビニなどの建物が並んでいた。
初めてこの場所に来た者は大抵驚く。
ここは迷宮町……呆れるほど広大に開けた土地に人が入植して町を造った、れっきとした地下迷宮の第一階層であった。
「お、もうそんな時期か……そういえば四月になってたな、早いもんだ」
ニイヤの言葉にモコは視線を向けた。
通学路には真新しいセーラー服を着た女の子と、その足元にゼリー状のスライムがいた。
女の子は半泣きで学生鞄を振り回し、必死の様子でスライムを追っ払おうとしているが上手くいってないようだ。
「うん、この時期の風物詩だよね」
モコと同じ高校の制服である。
というかこの迷宮町にある高校は一校だけだ。
おそらく今年入学した新入生だろう。
モコは溜息をつくと【かばん】の中から片手メイスを取りだす。
「助けにいくのか?」
「そりゃ、下手したら裸にされるし、放っておけないもの……」
迷宮一階で現れるモンスターはスライムくらいで、襲われても怪我を負うことはまれだ。
この町で育った人間なら小学生でも倒せる強さである。
ただ、外からやってきた普通の人間に関してはその限りではない。
特に新生活が始まる四月などには、モンスターに絡まれる者が多発するのだ。
「私は管理局のほうに行くから、向うの道で絡まれてる子を助けるかな」
迷宮管理局とモコの通う高校は逆方向である。
ニイヤの指差す先では、ビジネススーツ姿の新卒らしき若い女性がスライムに捕まっていた。
「あ、うん、服が溶けかけてる……あの人は早く助けたほうがイイネ、社会的に終わる前に」
「あいよ、じゃ、気をつけて」
「はい、ニィさんも気をつけてね」
ニイヤは手を振りながらスタスタと歩いていき、スライムを蹴り飛ばした。
助けた女性に紳士的に手を差し伸べたとおもったら、泣きながら抱きつかれ慌てていた。
それを溜息と共に見とどけ、モコは女の子にじゃれついていたスライムを倒しにいった。
後輩女子からラブのつく手紙をもらうことになるが、モコにはいつものことである。