迷宮町のニイさん(仮)   作:ダークエルフスキー

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色々と説明不足なことがおおいですが、あえてそうしてます


一限目の迷宮説明会が終了したあと

「一年、マッスルスーツは着れた? すでに【かばん】を習得して早着替えが出来るようになった子も慣れるまでは注意。落とし物は嬉し恥ずかしイチゴパンツなんて迷宮あるあるだぞ~」

 

 ユカリの言葉に一年女子たちから笑いが起きる。

 二時限目、女子更衣室。

 二年二組の女子六名が、一年二組の二十名ほどの女子にスーツの着用指導をしていた。

 その中には着替えを手伝うモコの姿もあったが、スーツのベルトやプロテクターの調整をしてあげると、体を触られた後輩たちは例外なく頬を染めるのだ。

 

「ええっと、私も一応女だから、恥ずかしがる必要はナニもないからね?」

「あ、す、すいません、神崎先輩。そんなつもりじゃないんですけど、つい……」

「いや、まあ、いいんだけど」

 

 やはり、顔を赤くしてうつむいてしまう下級生。

 毎度のこととはいえ、モコは何とも言えぬ気持である。

 

 

 先ほどマッスルスーツの着け方を下級生たちに教えるため、ユカリが皆の前で景気のよい脱ぎっぷりをみせた。

 しかも全裸のまま、スーツを着けたときの注意点について五分以上も説明していた。

 別に、一風堂ユカリに露出趣味があるわけではない。

 迷宮の学校にいると、同性の前で一人だけ裸になる程度はなんともなくなる。

 命がかかった状況だと、慎みや羞恥などは二の次になるのだ。

 実演してみせて、では小娘どももワテクシのように華麗に着替えてごらんなさいオホホホ……といったところで、下級生全員の視線がボーと立っていたジャージ姿のモコに集まった。

 そして、学級委員長をしていそうな雰囲気な子が小さく挙手すると。

 

「あ、あの……、一風堂先輩……その、男の方? いるんですけど……」

 

 まるで、生まれて初めて男を見た乙女のように、恥ずかしげにモコの様子をうかがう少女たち。

 モコは腕組みすると、無言で天井に顔を向けた。

 クラスメイトたちの「あぁ、然もあらん」といった視線が痛かったからだ。

 というか、モコと同じ中学出身の後輩もちらほら見えるのに、いったいこれはどういうことかとブルーになった。

 その事態を、そこはかとなく予想していた幼馴染は眼鏡を光らせる。

 

「あ~、新入生諸君。こちらにいる男前(いけめん)様はれっきとした女子だから大丈夫よ? 女の子を捕食したりしないからマジで大丈夫。中性的で男装が似合って学芸会では毎回王子役をしてきたモコ王子様だけど、ノーマルだから安心してすっぽんぽんにおなりなさい。といいますか、時間ねーんだよオラァ! 早くてめえらの可愛いちっぱいをさらけだしやがれ!!」

 

 何故か再びユカリが脱いで全裸になるという、そんな一幕があった。

 

 迷宮探索の必需品であるマッスルスーツは、パワーアシストなどの機能を備えた防護服である。

 外装筋肉を肌に密着させ、反応ロスを少なくするために裸で着る必要があるのだ。

 見た目はプロテクターのついたウェットスーツだが、動きを阻害しない薄スキンのため、体のラインがもろにでてしまう難点があった。

 まだ迷宮に慣れぬ新入生たちにとって、そんなエロコスプレのようなスーツ姿を見られるのは、例え同性といえど恥ずかしいのだろう。

 

 モコはそう結論づけて、精神の安定をはかった。

 

「よし、スーツの着替えは終わったな! では、ジャージを着て校庭に移動!」

 

 モコよりもよほど男前なユカリの指示に従い、全員が更衣室をあとにした。

 

 

 

 校庭に着いて、それぞれクラスの集合場所へと向かった。

 別れ際、モコが後輩たちから「あとでメアド教えてください!」と雪崩のように次々言われたのは詮無きことである。

 外での作業組だったクラスメイトの女子がモコたちに声を掛けてきた。

 

「ねえねえ聞いて! 新しく来た迷宮指導の教員を見てきたんだけど凄かったよ!」

「うん? 凄かったってなにが?」

「それがなんと女なんだけど、もう驚愕するくらいの美人で! 乳もケツもむちむちのばいんばいんでエロエロさ! 男子どもは猿になって大喜びだよ!」

 

 彼女は興奮した様子で語りながら、空中に高低差のあるヒョウタンを両手で描く。

 

「え、新しい先生って、女の人なの?」

「へぇ、そんなに美人なんだ」

「あんた、乳、ケツって、言い回し下品だからもう少し考えなさいよ」

「女の探索者って珍しいんじゃない?」

「というか、探索者なのにガテン系じゃなくて、セクシー系お姉さん?」

「まあ、ムチムチ美人なら男子は喜ぶ、私でも喜ぶ、仕方がないネ」

 

 いつの間にか集まってきていた他の女子たちも、そんな話題できゃいきゃいと盛りあがる。

 モコが教員たちがいる昇降口付近を見ると、確かにジャージ姿の人だかりができて、男子生徒たちが多かった。

 

「あ、工藤先輩……」

 

 その中には工藤マサルもいた。

 彼の様子にモコは、ちくちくとした焦りにも似た気持ちを感じてしまう。

 

「へへっ、青春していますなモコさん?」

「わっ……ユカか、突然驚かさないでよ」

 

 モコの肩に手を回してきたのはユカリだった。

 

「いやいや、熱く工藤先輩を見つめていたから、私の接近に気がつかなかったんじゃないの?」

「ゆ~か~!」

「へい、黙りますぜ!」

 

 そう言ってユカリは、笑いながらおなざりな敬礼をしてみせる。

 

「まあ、それはともかくとして、行ってみない?」

「え、あそこに?」

「そうそう、工藤先輩がいるからじゃなくて、新しい指導員ってどんな人か興味あるじゃない?」

「え、ええっと……」

「別に工藤先輩は関係ないのよ~」

「もう、ユカってば……はいはい、一緒に見に行きますよ」

 

 幼馴染がこういうことを言いだすとき、モコには拒否権がないのだ。

 このような強引とも思えるユカリの行動は、どちらかというと引っ込み思案なモコにとってプラスに働くことが多いので尚更である。


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