迷宮町のニイさん(仮) 作:ダークエルフスキー
モコの手を取って校庭を進むユカリ、女子の中では、やや小柄なほうだ。
野暮ったい丸眼鏡に男のようなショートカットの髪型の彼女。
女らしさがないかといえばそうでもなく、どんなファッションでも女の子な見た目になる。
モコは、そのように補正のかかる、幼馴染の柔らかい容姿が羨ましくて仕方ない。
よくモコが男前と言われるのは父親似の顔立ちだからだろう。
家族の集合写真に映る父は、バトルアックスと毛皮の腰布が似合いそうな大男だ。
「あっ……」
「どうしたのモコ?」
「今さらなんだけど、ニィさんって母さん似なんだと思って……」
赤ん坊のモコを抱く若い母の姿は、にこにこと微笑む日向のような美人であった。
それに対し女になったニイヤは月の夜を連想させる妖艶な美女。
二人は姉妹と言えるほど似ているのに、雰囲気が真逆すぎて結びつかなかった。
「本当に今さらね、親子なんだし似てて当然でしょ?」
「ユカは気づいてた?」
「初めて女のニイヤさんを病院で見たとき『モコのオカンだ!』って思わず叫んじゃったもん」
「そ、そうだったの?」
「うん、ニイヤさん苦笑いしてたよ」
ユカリは、えへっと笑いながら続ける。
「それに十代の頃のニイヤさんって線の細い、すげぇ美少年だったじゃん?」
「……そうだっけ?」
「そりゃ最近まで、薄暗いBARでバーボン飲んで、スタイリッシュに銃ぶっ放してそうなワイルドな細マッチョだったけどさ」
「ニィさんお酒飲めないし、そこまで中二病ではないと思うの……」
人だかりに近づくと、校舎のほうを向いている工藤がいた。
そして集まっている男子たちの大半が工藤と同じ方向を見ている。
おそらく彼らの視線の先には、おっぱいとお尻がむちむちのばいんばいんでエロエロという、噂の迷宮指導教員がいるのだろう。
しかしモコはそちらではなく、肩幅の広い工藤の背中を見つめてしまう。
ナチュラルに乙女になるモコをよそに、ユカリが工藤に呼びかけた。
「工藤先輩~今晩の
「は? ……ユカ!?」
「……一風堂、いきなりなんだ?」
振り向く工藤……彼の顔は普段どおり精悍で、周りにいる男子たちのように鼻の下を伸ばす緩んだものではなかった。
モコはそのことに、何故だかひどくほっとしてしまう。
「あれ、むちむちでエロエロな女教師を見にきたのでは?」
「むちむち……まあ、確かに指導教員を見にきたが」
「やっぱりエロ鑑賞じゃないですかぁ~やだ~?」
「いや違うって、お前、俺に変なイメージを植え付けようとしてるだろ?」
「マー君ってば、昔からエロエロなんだからっ!」
バンバンと、関西系なおばちゃんのノリで工藤の背中を叩くユカリ。
二人の身長差は頭一個分に近い。
工藤とユカリは家が近所で、モコを含めて小さい頃は三人でよく遊んだ。
まるで、兄と妹たちといった関係。
年齢が上がるにつれ疎遠になったが、それでもこういうときに遠慮がなくなる。
困ったように頭をかく工藤の様子に、モコはユカリの手を軽く引っ張った。
「ユカ、いくらなんでも失礼だよ?」
「あ、はーい」
「もう……本当にすいません工藤先輩」
「止めてくれて助かったよ神崎、流石は出来のいいほうの
「あ、いえいえ、そんなことは!?」
モコはばたばたと手の平を振る。
工藤に褒められ感謝されて、一瞬で頬を緩ませてしまう。
その程度のことで満足してしまう安上がりな女に、ユカリは呆れたように首を振った。
「んじゃ、工藤先輩はナニが目的できたの?」
「ん、ああ、新しい教員は元探索者だろ? どんな感じの人なのか興味あったからさ」
「あ、それは私も知りたい、工藤先輩の目から見て女先生はどのくらいの強さ?」
「一風堂よ、俺は戦闘力を測るスカウターか? まあ、正直に言うと見ただけでは流石に分からん。ただ、ちょっとした重心の移動が安定しているというか、物凄く綺麗だな……あ、別に変な意味でなくてな? ええっと、歩き方からスカウト系ぽいが、聞いた話だと魔法系らしいし……もしかしたら複合クラスの持ち主なのかも?」
「普段は口数多くないのに、迷宮関連になると饒舌になる工藤先輩って隠れオタクぽいネ!」
「………………」
「ユ、ユカってばっ!?」
モコとしてはユカリの容赦ない突っ込みに、工藤が気分を害してないか気が気ではない。
もっとも傍目で見ると、工藤も彼女たちとの会話を楽しんでいるようであったが。
そんな三人に声をかける者がいた。
「工藤く~ん、ちょっと食材運びを手伝ってほしいんですけど~?」
和美人な風貌にジャージの上からでもわかる豊かな胸。
ストレートな黒髪の大人びた少女。
水木シズカ……迷宮町の住人で、モコたちとも小学校の頃から顔なじみの先輩であった。
「あら、あなたたち。ふふ、あまり
「ウッス! 了解ですシズカ姉さん!」
「は、はい、シズカ先輩」
穏やかな微笑みに、敬礼をするユカリとモコ。
シズカは申し訳無さそうな顔をすると。
「それとごめんなさいね、工藤君は借りていくわね」
「じゃ、二人とも、またあとでな」
そう言って工藤はシズカと話しながら歩いていく。
モコには二人の雰囲気が、とても良いものに思えて溜息を洩らしてしまう。
「恋のライバルは強敵だね?」
「なっ……そ、そんなのじゃないよ!?」
「照れるな照れるな、モロバレだから照れるな、私はモコを応援するからさ!」
「も、もう……」
モコの肩に手を回しニヒルに笑うユカリ。
モコにとってユカリは幼馴染以上の家族未満といった存在。
なので、へたな隠し事が通じぬのは昔からである。
工藤に対して、まだ恋と言えないような淡い思慕をもつモコには、ユカリの応援宣言は少しだけ迷惑であり同時に心強くもあった。
「まあ、それはともかく、エロ女先生がどれだけエロいか見ましょうかね?」
「エロで固定されちゃったのね、新しい指導教員の人は……」
呆れながらも、モコも人だかりの間から昇降口に目を向ける。
教員たちと一緒にいる、背の高い女性の姿が見えた。
腰まである長く艶やかな黒髪をもつ女性だ。
一人だけジャージを着ていないマッスルスーツのみの格好。
それは探索者の場合だと別に珍しくない。
体のラインがでる程度の羞恥心など、実際の現場では不要なものだろうから。
他の教員たちと、なにかを話しているらしく背中しか見えない。
しかし、それでも明確に分かる、むちむちでばいんばいんな横乳とお尻であった。
ぼんきゅぼんっな、ラノベアニメのキャラクターのような見事すぎるスタイルである。
エロ女先生は、噂にたがわずエロかったのだ。
しかしモコの感想は……。
「ねえ、ユカ……」
「うん、どうしたの?」
「あのエロ女先生、私の知っている人に凄く似ているんですが?」
「あー……やっぱり? 私もなんとなくそう思ってたんだ?」
そのとき、エロ女先生がモコたちのいるほうに振り向いた。
たゆんたゆんと、メロンサイズの二つのたわわが魅惑的に揺れる。
エロ女先生は、疲れたような表情をしていた。
彼女は、左手に見覚えのある薄皮の手袋を着けていた。
彼女は、右目に見覚えのあるアイパッチを装着していた。
エロ女先生と目が合い、モコは、思わず大声で叫んでしまった。
「ニィさんっ!!」
突然の叫び声に、周りの視線が、モコとエロ女先生に集まる。
「や、やぁ……モコちゃん」
距離が離れている……しかし、エロ女先生の小さい声がモコにははっきりと聞こえた。
エロ女先生こと神崎ニイヤは、その美貌に引きつった笑みを浮かべていたのであった。