「なぁ、紗夜。」
「変態は黙ってください!」
キスしただけで変態扱いか。
面白い。ますます好きになっちゃうじゃないか。
それにしても、拗ねてる表情も美しい。
「その…初めてだったんですから!」
「俺も初めてだ。それにぶたれたのも初めてだ。」
「ぶったことは、謝ります。」
「いや、構わんよ。紗夜の唇が最高だったから許す。」
「変態。」
「変態でもいいよ。紗夜への愛は変わらないから。」
「しつこいですね。」
「しつこくて結構。俺は紗夜を手に入れる。」
「どうしてそこまで私に拘るんですか?」
決まっている。
一目見て紗夜に惚れた。
紗夜なら俺に釣り合う世界で唯一無二の女だと直感で思ったからだ。
俺のような天才に釣り合う女なんて紗夜位だろう。
「一目見て紗夜に惚れた。それ以上に理由がいるか?」
彼は何をいっているんだろう。
私はこれまで数々の男子に告白されてきた。
ただしそれも皆年相応に幼く、どうしようもない者だらけだった。
でも彼はどこか雰囲気が違う。
どこか強引でどこか傲慢でどこか年以上に幼い。
なのに頭がいい。というか天才だ。
先程のゲーム機や今世界トップシェアのスマホなどを一人で作り上げたのだから。
10代でこんなことが出来るなんて天才以外の何者でもない。
気づけば彼のペースに引き込まれてしまう。
まるで本に出てくる王子様のような感じだ。
容姿もどこかの国の王子様と言われても全く違和感はない。
彼のアプローチを何処か断れない自分がいた。
断りたければ彼に一切関わらなければいい。
「貴方は、全くブレませんね。」
「ブレる必要が何処にある。」
ブレる必要が何処にあると言うのだろうか。
現代社会は腐っている。
誰も自由な人間などいない。
自らの思想を表に出せば弾圧され、個性というものを嫌う。
そして大人数の有象無象がデカイ顔をして意見を通す。
こんな世界への反発か、俺は自分を曲げるつもりはない。
紗夜を俺の女にする。
そう言ったのだからもう曲げない。
「であって二日目で貴方という人間がわかってきた気がします。」
「俺はまだ紗夜のすべてを知らない。だから知りたい。」
彼はどうして私をここまで求めてくれるのか。
今はそれが知りたい。
案外、私達は似た者同士なのかも知れない。
お互いに互いのことを知りたいと思っている。
「そうですね。なら、どうしますか?」
「決まっている。紗夜、今日予定あるか?」
「ないですけど。」
ちょうどいい。
紗夜の好みを探そう。
「ちょうどいい。放課後何処かいかないか?」
「何処かって何処へ?」
彼は何がしたいのか、まだわからない。
わかってきた気がする、といったが分かっているのは私が気づけば彼に飲まれているということだけだ。
「それを決めるのは紗夜だよ。それが例え火の中水の中草の中森の中、何処へだって俺はいくぜ?」
「ふふっ、面白いですね。じゃあ放課後までに決めておきます。」
「ああ、頼んだ。」
紗夜のためなら何処へだって行ける。
それが例え地獄だって、天国だって、ファミレスだって変わらない。
俺は俺の道を貫くまでだ。
放課後。
「紗夜、行こうか。何処へ行くか決めたか?」
「はい。私の好きな所です。」
ファストフード店に行こう。
結局その案になったのは少し前だ。
理由は簡単。
ポテトが食べたくなったからだ。
「ほう、それは一体何処だ?」
「ファストフード店です。」
「ああ、スマイルバーガーか。俺が今所有している。さて、オーナーである俺が店舗の調査でも行くか。」
紗夜のいきたい所はスマイルバーガーだった。
偶然にも最近スマホで儲けた金で購入した会社だった。
オーナーとして実態調査も悪くない。
「迎えが来ている。紗夜もそれに乗るといい。」
「はい。それにしても迎えってあれじゃないですよね?」
「あれだが?」
嘘でしょ!
何でリムジンでファストフード店まで行かなければいけないの?
あと貴方オーナーだったの。
さっきから驚かされっぱなしね。
「まあリムジンでファストフード店なんて目立ち過ぎる。徒歩で行こうか。」
「そうですね。そうしましょう。」
迎えが毎回リムジンはやめてほしい。
目だってしょうがない。
俺は別にいいのだが紗夜が困りそうだ。
よって徒歩にしよう。
こうして俺達は徒歩でファストフード店に向かった。
「注文、どうする?」
「私は決まりました。」
「俺は店員におすすめでも聞くとするか。じゃあ、行こうか。」
「そうしましょう。」
私達は列に並ぶ。
私達の番がやって来た。
「ポテトを二つ。」
「かしこまりました。」
一方隣の彼は店員さんにおすすめを聞いている。
「おい店員、おすすめを教えてくれ。」
「ふえぇ…おすすめはダブルチーズバーガーです。」
「わかった。それを頼む。」
「かしこまりました。」
こうして私達は少し待って注文を受け取った。
「ようやく来たな。少し待たせている。改善点はここか。」
「あくまでもオーナー視点なんですね。」
オーナーとしての感想もいいが、実際に味はどうだろうか。
「さて、食べてみよう。どれどれ……うん、なかなかいいじゃないか。」
ジャンクフードとはここまで旨かったのか!
いつもの料理とは違って雑さがある。
だがそこがいい!
俺の感覚ではかなり新鮮だ。
それにしても紗夜、ポテトが好きなのか。
覚えておこう。
「気に入ってもらえましたか?」
「ああ。新鮮でいいな。あとポテトを食べている時の紗夜の表情も好きだ。」
「何言ってるんですか!恥ずかしいです……」
「そうだ、紗夜。」
「どうしました?」
「またここに二人で来ようぜ。」
「それなら、お安いご用ですよ。」
最初は変な人だと思ったが、話してみると意外といい人だと言うことがわかった。
今私達は道を歩いている。
すると泣いている子供を発見した。
気づけば隣にいた彼はいなくなっていてその女の子に話しかけている。
「どうした?」
「猫が……木から降りられなくなってるの。お兄ちゃん、助けてあげて……」
「わかった。俺に任せろ。すぐに助けてやる。」
彼は木に上り始めた。
そして猫を抱えてすぐに降りてきた。
「もう大丈夫だ、元気だせ。」
すると女の子は笑顔になった。
「そう、その笑顔だ。笑顔が似合うじゃないか。」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして。紗夜、行こうか。」
「はい。」
きょうは、彼への印象が少し変化した日だった。