HARD MODE ~自衛隊 彼の地にて 斯く戦えり   作:神谷萌

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Prolog:それは戦闘か、それとも……

 30式152mm自走榴弾砲がモーターのようなエンジンを上げている。

 時間は──日本時間なら22時。実際に陽は落ちて既にあたりは夜の帳に包まれている。

 マツダが設計したせいか、それまでの自衛隊車両離れしている28式装甲車ファミリのシャシー。ロータリーディーゼルエンジンの咆哮と共に砲が動き、照準を合わせる。

「道頓堀より安治川。射撃開始せよ」

「安治川了解、どうぞ」

 無線での指示とともに、十数門の榴弾砲が火を噴く。中には一度日本では絶滅した牽引式榴弾砲もあった。

 国産としては久々となる27式155mm榴弾砲。これを搭載したものが28式である。

 オリジナルにはない……というか、世界初のセミアクティブシーカー搭載の有翼スマート弾を撃てることが最大の特徴だったが、現在地ではGPSによる補正が受けられないため、今は高額なスマート砲弾ではなくコンベンショナルな榴弾を射撃している。

 大規模な夜襲──ハイテク装備の自衛隊と言えど制約の生じる夜間を選択して阻止線突破を試みようとする敵軍団の戦術眼は悪くなかった。

 だが、悲しいかな装備の較差はその程度で埋められるようなものではなかった。なにせ相手は、中世からやって来たかのような剣・槍・甲冑・盾で武装した軍団だったのだから。

「走れ! 走れ! 止まるな!」

 榴弾砲の強力な砲撃に晒される中で、中世軍団の、1人の初老の指揮官がそう言いながら、自らも騎馬に鞭を入れて疾走する。

「特科各員、射撃終了」

「了解」

 そんなことは知らず、自衛隊も戦闘を進めて行く。

 22式・ファミリである29式装輪戦闘装甲車が、10式E戦車と共に、後続に軽機動車──市販車名JB74L マツダ ジムニーシエラ スカイアクティブD ロングボディ──を従えて前進する。

 10式E型戦車は、10式戦車のバリエーションで、主に輸出用を想定した形式だ。主砲を低反動105mm砲とし、反動を低減させた分サスペンションのメンテナンスサイクルを延長している。

 29式が20mmチェーン・ガンを発射する。相手の軍勢の盾防護を無慈悲に落ち抜いていく。29式のガンポートや阻止線の塹壕に潜む普通科隊員からも、89式小銃や、62式にかわる支援用三脚式軽機関銃である27式機関銃による射撃が浴びせられた。

「姫様ー、姫様っ」

 阻止線からと車両からの十字砲火を避けながら、ある一団が声を発していた。

 155mm砲弾の着弾点の穴を塹壕代わりにして弾をよけつつ、そこに彼らが“姫様”と呼ばれる少女が連れ込まれた。

「エルベ藩王国の軍勢も敵の炎に飲み込まれました。デュラン候への伝令も戻りません」

「デュラン候の危惧が当たってしまったか……」

 軽甲冑をつけた少女は、親指の爪を噛んで言う。

 アルヌスの丘に陣取る敵は2万もいない。にもかかわらず、“帝国”は10万からの自国軍のみならず、諸侯国軍まで収集した。その動きに武人でもあるエルベ藩王国のデュラン公王は不信感を抱いていた。

 一団はジルスチュアート藩公国の騎士団、その指揮官たちだった。少女は姫と呼ばれているが、公王本人である。

 ピューッ

 空気を切り裂くような、無気味な甲高い音が聞こえる。続いて、炸裂音。

 彼らはそれがいったい何なのか、解らなかったが、常識はずれの攻撃であることは、もう嫌と言うほどわかっていた。

「姫、敵の攻撃です、ここから離れてください!」

「くそっ」

 姫公王は他の騎士と共にその場を離れようとする。

 だが、その時、至近に迫撃砲弾が命中した。

 

 

 2030年某日。

 大阪、船場センタービル前に突如出現したそれ──(ゲート)と呼ばれる異世界との門から、侵略者たる“帝国”軍が出現した。

 少なからぬ犠牲を出しつつ、大阪府警と陸上自衛隊によって撃退されるものの、再度の“敵”の侵略に怯えつづけることはできないと、時の首相、北条重次は防衛省に対しゲートの反対側の敵対勢力から日本を防衛するとの目的で、有事事態、自衛隊の防衛出動を宣言したのだった。

 

 その日、インテックス大阪で開催されるコミックマーケットに参加するはずだった羽田(はねだ)大樹(たいじゅ)二等陸尉は、大阪市営地下鉄本町駅で御堂筋線から中央線に乗り換える最中にこの事件に遭遇した。

 地下鉄駅構内になだれ込んでくる避難者を誘導し、御堂筋線で多くの避難者を避難させその生命を守ったとして、“本町駅の英雄”と呼ばれた彼は、万年三尉と言われた立場から感情付きで昇進することになった。

 してしまったのである。

 

 

「しかしどうなってんのかね……船場で10万、こっちで10万……合わせて20万だよ」

 元々東京出身である羽田は標準語で言う。

「敵の心配ですか? 二尉」

 二尉昇進・特地派遣部隊以来の同僚となった蔵田剛雄(たけお)三曹が、自衛隊が基礎を固めなおした(ゲート)の床に呆然と座り込んでいる羽田に声をかけてきた。

「だってそうでしょう、俺ら一体どんな相手に戦争してんの。いくら装備に格差があるったって、船場や昨日みたいな戦闘が際限なく続いたらこっちだってたまんないよ」

 回収できた遺体は安置所で葬儀を行ったうえ、火葬の余裕がない為薬物消毒して埋葬する計画を立てている。だが、死者が多すぎて安置所はもはや安置所と言うより倉庫の様相を呈していた。いくら今の日本でも、マスコミにでも映されたらコトだろう。

 そう、日本は2025年、ついに憲法改正を実行に移し、交戦権を回復した。

 自衛隊の名称については、当時の事情から自衛隊及びその各名称が引き続き使われた。だが、その後自衛隊は、表向きは周辺諸国の軍事的脅威への対抗措置として、本音では日本の景気対策として、増強が実施された。

 遺体処理の終わった地帯から、次々に重機が入り、整地を始めている。防衛省はこの一帯を、自衛隊の根拠地として整備する計画を立てていた。

 戦闘車両の方は整備を行っている。動いているのはOH-1ヘリ。そして……

 キィィィィィン……っ

「おーお、空自さんも新しい機材思い切り使えると思って」

 航空自衛隊に新たに採用されたその機体が、早くも特地の空を舞っていた。本田技研工業 F-6 『雷電II』。和製フリースタイル(Yak-141)とも言われるVTOL戦闘機だった。

 さらに羽田がボーッ、としていた時だった。

「おおいっ」

 と、声が上がる。

 羽田は我に返り、何があったかと、その場に駆けて行った。

「この娘、まだ息があるぞ」

「っ……よし、医務班に回せ! 車両と担架を持ってこい!」

 その場で最上位の羽田がそう叫ぶ。

 そこにいたのは、あのジルスチュアートの姫公王だった。右腕がなく、顔も血色がなかったが、心臓はまだ確かに動いていた。

 

 

「親父ならどう判断していただろうか……」

 永田町。

 2024年に制定された首都機能移転特措法に基づきほとんどの首都機能が大阪に移転した今も、国会だけは移転せず、移転する目処も立たず、移転させることに対する批判も和らげられず、この地にあった。

 内閣総理大臣・北条重次は、良かれ悪かれ伝説級の首相となった北条重則のことを口に出す。

「今更言ってもはじまんねぇや」

 同室していた、防衛相の海田誠一が、どっかりとソファに腰をおろしたまま、べらんめぇ口調で言う。

「親父さんの時とは状況が全く違う。あの前もあの後にも日本はどん底だと思わせるような事態になったが、それでも今ほどじゃなかった」

「わかってるさ……」

 北条は吐き出すように言った。

「ゲートの向こう側……特地にはなんだってある。それは今や国民の共有意識だ。そして……」

 そう言って、外を見た。

 道路沿いに設置された表示機には、デジタル電光表示が無機質に数字を出している。

『只今の線量 1.25μSv/h』

「綺麗な環境も……だ……」

 

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