HARD MODE ~自衛隊 彼の地にて 斯く戦えり 作:神谷萌
「隊長、新田さん、暗視装置持ってきました」
羽田と新田が機関銃を設置している塔に、西が両手に
一向に第4世代暗視装置の技術を寄越さないアメリカに業を煮やして、自力開発に踏み切った代物。メーカーはキヤノンとパナソニックの共同。同様の機構を海自や空自の装備品でも使用するため、形式号から陸上自衛隊を示すGが省かれている。また、欧州RoHS指令準拠となっており、戦闘で破壊されても有害物質を撒き散らす心配がない。安全保障と名が付けばなんでもやっていいと思っているアメリカ製に見切りをつけて輸入を打診してくる国もあるが、現在のところインドにしか認めていない。
「ああ、サンキュー」
羽田が言い、新田とともにV9を受け取った。
「ねぇ、ハネダぁ」
88式鉄帽を被ったままV9を装着しようとする羽田に、ロゥリィが、声をかける。
「んー?」
「どうして、敵国のはずの帝国のお姫様を助けるのぉ?」
「この街の人を護るためさ」
ロゥリィの問いに、羽田はそう答える。
「本気で言ってるのぉ?」
「そういうことになってるはずだけど?」
そう言いながら羽田は88式鉄帽のオプションスナップにV9を取り付けようとするが、すんなりと入らず、「あれ、うまくいかないな」と呟く。
それを聞いて、ロゥリィは、軽く肩をすくめて、両手を左右に開く仕種をした。それから、しゃがみこんでいる羽田に近づいていく。
「“アンシソウチ”貸して」
「お、すまん」
手を差し出したロゥリィに、羽田は素直にV9を渡す。日本の防衛機密の塊という認識が甘い。もっともロゥリィ自身にはさして有用なものではなかったが。
「この留め金にかければいいのね?」
「ああ」
ロゥリィは、羽田にきいてから、V9を88式鉄帽にかけた。
────こっちの言葉がすんなり耳に入りだしたな……さっき姫さんに扉で顔面打たれてからか?
羽田はそう思いつつ、
「サンキュー」
と、ロゥリィに礼を言って、V9の装着位置を調整した。
「ワケが気になるか?」
羽田が、V9をヘルメットの位置に上げつつ、視線を上げてロゥリィに訊ねる。
「私の主神エムロイは戦いと死を司る神、人を殺めることを否定はしないわぁ。でも、それだけに動機は大事なの、偽りや欺き、安直な殺戮は、魂を穢すことになるのよぉ」
ロゥリィのその言葉を聞くと、羽田は、少し悪戯っぽく笑った。
「ここの街の人を護るため、ってのは嘘じゃない。けどもうひとつ。あのお姫様に、
羽田がそう言うと、
「気に入った、気に入ったわぁ、それぇ!」
と、ロゥリィははしゃぐような声を上げた。
「恐怖! 全身を貫く恐怖をあのお姫様の魂魄に刻み込む!!」
羽田は、そんなロゥリィに呆気にとられてしまうのだが、
「そういうことなら、ぜひ協力したいわぁ。私も久々に狂えそうで楽しみぃ」
そう言って、ロゥリィは、改めて、フレアのスカートを摘んで、軽く会釈をした。
──まぁ正直、その意図がまったくないと言ったら嘘になるからな……
羽田は声には出さず、呟く。
──まぁ、いきなりF-7なんか出しちゃこないだろうけど……
日本で言うなら“草木も眠る丑三つ時”。
不寝番をしていた兵士も、仮眠はとっているとは言え昼間の激戦の疲労は抜けきっておらず、ウトウトとし始めた頃。
無数の炎のオレンジ色の光が、放物線を描いて“降って”きた。
「敵襲ーっ! ピニャ殿下に伝令、東門に敵襲だ!!」
そう、盗賊団はピニャの予測を裏切って、東門へ回り込み突撃を仕掛けてきた。
「弓兵、撃ち返せ!」
初っ端撃ち込まれた火矢に対し、弓手のいると思われる場所に向かって、民兵隊のクロスボウが放たれた。
南門──
「おやっさん!」
「はい、始まりました、東門です」
羽田の声に、椚野が応えた。
交代で仮眠をとっていた第3偵察隊にも総員起こしがかかる。
「〇二四七、奇襲には絶妙な時間だな」
「やれやれ、悪い予感のほうが当たってしまいましたか……」
羽田が、腕にはめたケンテックス製JSDF New Generationを見て言う。すると、椚野も、ため息混じりにそう言った。
「東門から応援要請は?」
「まだ、何も」
東門──
投石機やクロスボウによる邀撃で盗賊団の方も被害を出しながらも、ついには城壁に梯子がかけられた。
「うらぁっ!」
城壁の上で即席のバトルアクスを構えていた民兵が、盗賊団の1人がある程度登ってきたところで、梯子の先端を斧で粉砕した。梯子はバランスを崩し、甲冑姿の盗賊団は、メートル法で10メートル近い高さを落下していった。
「農夫ながらお見事!」
下でクロスボウを構えていた盗賊団の一員が、梯子を破壊した民兵を狙い撃つ。
だがそのクロスボウの射手は、今度はその“首”の部分に藁をくくりつけて、油をかけて火を点けた鋤を投げつけられ、自由を奪われながら燃え上がる。
────これこそが戦争 敗残し身を落とそうとも我らは戦士
わかりやすい殺戮、わかりやすい己の死。これこそ俺達の戦争、エムロイへの賛歌────
「くぅだらなぁい。戦いは手段であって死は結果、どちらも目的ではないわぁ」
「中で戦ってる農民や商人の魂の方が、数段興奮させてくれるわよぉ」
ドォン!
盗賊団は東門の扉を破ろうと、数人がかりで扱う攻城槌で激しく叩く。
「押さえろ!」
内側からも、元々板を打ち付けて補強されているところへ、更に民兵隊が支える。
「くそ! 生意気な! 盗賊ごときが城市を落とそうなどと!!」
ノーマは城門で上がってくる盗賊団を切り捨てながら、憎らしげにそう言った。しかし、彼はその直後に見た。
「!」
味方の放つ矢が、辻風にまかれて落ちていく。
「こっちの矢が当たってない、精霊使いか!?」
だが、そのことに気付いたことが、ノーマ自身にとっては致命的だった。
まずは正面にバトルアクスを構えた、いかにもと言った感じの盗賊が襲い掛かってくる。それはどうにか切り捨てた。
だが、城壁上の民兵は壊滅状態となり、殆ど1人まともに立っていたノーマに、無数の盗賊団が迫ってくる。
城壁を乗り越えた盗賊たちが、東門の内側で、門を支えていた民兵隊を襲い始めた。戦いに慣れてない上に、槍や刀剣類どころか鋤鍬の類すら持ってないものが多かった扉内側の民兵は、無残に惨殺されていった。
バタバタバタバタバタバタバタ……
ローター音を立てながら、ヘリが暖機運転をしている。
AH-64に代わる主力となる小型戦闘ヘリ、KYB/ユーロコプター AH-2 『萱星』。コンパクトな外観に二重反転ローターの他、双尾翼の後ろに推進用プロペラを持った複合式ヘリコプター。エンジンはヤンマー12AYE-TA航空用ディーゼルエンジン2基。コンセプトは『アパッチより安くて高機動、コブラより高い生存性』。
偵察・観測ヘリは川崎OH-1/
そして、ヘリボーン・ガンシップは、憲法改正直前に試作機が納品された富士重・ベルの調達は案の定高額になりすぎて、改正後の国防ドクトリンに合致せずバースト。結局KH500をベースとする計画案まで出るという本末転倒まで起こした結果、UH-1の耐用期限もあって、富士重工が別のライセンスを取得して製造したAUH-3が採用された。しかし、この形式号で呼ぶのはマスメディアと公式広報ぐらいのもの。隊内でも一般でもベース機を元にしたMi-24J、若しくは『ハインドJ』、『ハインド・スペシャル』の名で呼ぶ。すでに開発コストを充分回収できているMi-24Dのライセンスを取得し、さらに機体構造上の配置から双発の利点がないとされたエンジンを三菱TS5 ターボシャフト/ターボプロップエンジン
そして攻撃能力を必要としない分は結局KH500を採用してUCH-2となった。結局本末転倒である。
「第3偵察隊のいるイタリカ市の代表、ミュイ・レイ・フォルマル氏より支援要請が入った! 我が第4戦闘団401中隊はこれを受け、市の警護のため全力を以て出撃する!!」
第12師団第4戦闘団々長、
「目標は“盗賊団”、数はおよそ600。過日、我が陣地を攻撃した
そこで鯖江は一区切りし、すっと息を吸い込んだ。
「第4戦闘団の初陣だ! 気合い入れていけ!! 総員搭乗!」
「おう!」
隊員からも、一斉に威勢のいい言葉が返ってくる。
隊員が各々の乗機に乗り込む中、鯖江は一度、師団長である釁隙に向かって、直立不動の体制で敬礼する。
「では陸将、行ってまいります」
「うむ、鯖江一佐、気をつけてな」
釁隙が返礼すると、鯖江は敬礼を解いて、踵を返しながら、
「古鷹、安孫子、留守を頼んだぜ」
と、第1戦闘団長の
「ぐぅぅぅぅぅ~っ」
古鷹は顔を真赤にして悔しそうに憤怒の形相を露わにし、
「釁隙陸将、次は我々第3戦闘団を!」
と、安孫子は懇願するような声を上げる。
──よっぽど溜まってるんだろうなぁ……
釁隙は、やれやれと行った感じで眉間をもみほぐす。
──現在の編成上、出せるのは空中機動が出来る第4戦闘団だけだと言うのに……どうしちゃったんだこいつらは……
戦車と特科を擁する第1戦闘団では移動速度が遅すぎてもとより間に合わない。
ちなみに第2戦闘団は第1戦闘団とほぼ同内容が決定しているが、編成・訓練途上であり、まだこちらには来ていない。
「陽芽二佐、例のものは?」
自機に乗り込む準備をしている副団長の
「
「パーフェクトだ!」
陽芽の答えに、鯖江は笑顔とサムズアップでそう言った。
──キルゴア中佐の霊にでも取り憑かれたのか? この後の展開が予想できるな……
指揮官機に乗り込む鯖江を他所に、釁隙は声に出さずに呟いてため息をついた。
「ワルキューレリーダーより全機、出撃!」
鯖江の号令一下、ヘリたちが飛び上がっていく。
その姿を、自衛隊の手すき総員が帽振れで、そしてけたたましいヘリの騒音に目を覚ました元コダ村々民難民キャンプの人間も、手を降って、見送った。
「東門だと!?」
騎乗していたピニャは、敵襲の報告に驚愕の声を上げた。
すでに扉の破壊された南門を再度襲撃してくると思っていただけに、意表を突かれてしまったのだ。
「敵にも頭の回る人間がいるようですな」
グレイが、険しい顔で言う。
「こうしてはおられぬ、南門と西門の後段部隊を東門へ────、いや、その前に東の広場へ集合させよ! 妾らも向かうぞ」
「承知!」
ピニャとグレイは、南門の正規兵士官に指示を出し、西門に伝令を送りつつ、南門へと急いだ。
一方──
南門の上では、ロゥリィが不満そうな声を出しながら、悶えていた。
「なんでぇ、こっちには攻めてもこないのぉ!?」
そう言いながら、ロゥリィの四肢は、普段のローティーン程度の一見とは別人に見えるほど、艶かしく悶える。
「ど、どうしたんだ?」
そう言って、ロゥリィに近付こうとする羽田を、ユノが制した。
「近寄っちゃまずいのか?」
羽田が訊ねると、ユノはこくん、と頷いた。
「彼女はエムロイの使徒よ、戦いで死んだ人間の魂魄がエムロイの下に召される時、近くに居る使徒の肉体を介していくの。それが今は彼女ってわけ」
──あれ、ユノの喋り方が変わった……?
羽田はそう感じてユノを見たが、当のユノはそのまま続ける。
「それが、彼女の肉体に熱をもたらし、意識を興奮させるの」
「つまり、媚薬とかそんな感じか」
「そうよ」
聞き返す羽田に、ユノは肯定する。
「今の彼女は、敵とみなしたものを無差別に攻撃してしまうわ。誰にも、彼女自身にも止められないのよ」
「あぁん……!」
ロゥリィは、身悶えし、ハルバートを無軌道に振り回しながらも、上気した様子で、甘ったるい声をだす。
「やべー、
「俺もだ」
河津本と両塚が、他者の視線を避けながら、ヒソヒソとやり取りする。
同性の西までもが、鼻のあたりを赤らめ、自分の股の間を手で擦っていた。
ピニャが東門にたどり着いた時、そこは最悪の自体に向かって転げ落ちている最中だった。
「騎士ノーマ、討死!」
城門の上に上がり込んだ、元正規兵としての鎧兜姿の盗賊が、ノーマの亡骸を掲げるのを見て、正規兵の誰かが叫んだ。
門が中に入り込んだ盗賊によって開かれ、盗賊団が入り込んでくる。
「くそぉっ、援軍は、援軍はどうなってる!」
即席の棍棒で盗賊団を殴りつけながら、民兵の誰かが叫んだ。
「緑の人たちは、どうして来てくれないんだ!」
盗賊団は、すぐには防柵に向かって突撃を仕掛けなかった。
彼らは、昼間の戦闘や門の外にいた民兵、あるいは周辺の集落を襲ったときの犠牲者の遺体を、縄をかけて引きずってきていた。
「あ、あれはペテロのところの嫁さんじゃあ……」
「テリウス! なんてことだ……」
遺体の遺族が、その変わり果てた姿を見て、悲痛な声を上げる。
盗賊団の首領らしき人物が、その中の1体、恵体の女性の身体に手を伸ばした。
「へへっ、いい女だなぁ、生きてるときにヤっときゃよかった」
「あっ、アデリア!」
防柵越しの民兵隊の中から、1人の青年が声を上げる。
それに気づくや、その声の主に向かって、盗賊は挑発的な、下卑た笑みを浮かべた。
「何だこいつ、お前の
「てめぇら、汚い手でそれ以上彼女に触るな!」
青年は声を上げて飛び出そうとするが、
「抑えろ、突出するな、
と、ピニャが命じ、周囲にいた民兵が彼の腕を抑える。
だが、
「ほらよ」
と、盗賊は、アデリアの遺体の首を、青年たちの見ている前で切断し、
「返してやるぜ」
と、防柵の反対側に放って投げた。
それが、最後の一線だった。
「この、畜生共がぁあぁぁぁっ」
青年が、抑止を振り切って防柵から飛び出すと、
「ニコラに続けェッ」
と、彼を抑えていた他の民兵たちも、さらにはそれを指揮していた一部の正規兵も、一斉に飛び出して盗賊に襲いかかった。
防柵と門の間はたちまち乱戦となった。脳内麻薬全開状態の民兵隊にも相当の勢いがあったが、盗賊団にも犠牲を強いつつも、それは戦術も何もない玉砕当然の突撃だった。
ピニャは、自らの目論見が音を立てて瓦解していくのを目に、目眩を覚えながら、自失していた。
「ダメェェッ、おかしくなっちゃうぅっ」
南門では、ロゥリィが相変わらず悶えている。
「亜神である彼女は狂ってしまうことも出来ない、楽になることが出来ないのよ」
「なにか、解決法はないのか?」
ユノの言葉に、羽田は問いかける。
「戦いに身を任せればいいのよ」
ユノがそう答えた。
「もぅっ、我慢、出来なぁいっ!」
悶え続けるロゥリィの我慢の限界が、傍目にも見て取れ始めた。
「まずくないですか?」
畔が、羽田に向かって、問いかけるように言う。
「う~ん」
羽田は、唸って逡巡する。
──こっちには敵来そうにないし、援軍の誘導もしなきゃならないし……
そこまで考えが及ぶと、羽田は決断した。
「九里林!」
「はいっ!」
「ロゥリィについててやってくれ。それと蔵田、俺で南門に行く! 蔵田! 軽機動車を!」
「了解!」
蔵田が、防柵の内側に停車している軽機動車に向かって行った。
「ロゥリィ、もうちょっとの辛抱だからね」
九里林は、悶え苦しむロゥリィに、かがんでそう声をかけた。しかし、ロゥリィは、伸ばされた九里林の手を振り払うようにして、門の上から地面に向かって跳躍した。
「あっ」
九里林が声を上げる暇もあらばこそ。
ロゥリィはそのまま駆け出し、さらに屋根の上を跳躍しながら、南門の方へ向かっていった。
「速っ」
「まるで忍者だな」
富山が呟き、それに椚野が続いた。
そこへ、市販車仕様からシールドビームへと変更されたヘッドライトを煌々と点けた軽機動車が滑り込んでくる。
「隊長、ボクも行きます!」
「よし!」
西が言い、羽田が答えると、西はすでに羽田と九里林の乗り込んでいた軽機動車の荷台に飛び乗った。
「
羽田が椚野にそういうが早いか、蔵田が乱暴にクラッチをつなぎ、軽機動車はロゥリィを追って飛び出した。
「こちら
羽田は、無線機のスピーカーマイクを取り、PTTスイッチを押して、言った。
『こちら401陽芽、送れ』
「戦闘は東門にて発生中、詳細は信号弾で知らせる、以上」
『401了解、終わり』