HARD MODE ~自衛隊 彼の地にて 斯く戦えり   作:神谷萌

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Chapter-13:戦乙女の騎行

 払暁。

 (あけ)の光に右後方から照らされて、空飛ぶ騎兵隊が晴れ渡った空を征く。

 川崎UCH-2『バリオス』の指揮官機で、鯖江と陽芽が突入に備えている。

「一佐、あと5分でイタリカです!」

 陽芽が言う。

第3偵察隊(3レコ)からの報告では、すでに東門内で戦闘が始まっている模様です。東の正面に回り込んでから接近、門外の敵から掃討します」

「陽芽二佐、それで良い、任せる。音楽を流してくれ!」

 鯖江が言うと、陽芽の指示で待機していた隊員が、やや旧型のiPhoneで再生を開始した。

 開かれた側扉の左右に2基ずつ据えられたホーンスピーカーが、『ワルキューレの騎行』の演奏を始める。

 AUH-3、UCH-2のキャビンで、各隊員は89式小銃に弾倉(マガジン)を据え、装填する。ハインド・スペシャルの側扉が開き、21式機関銃の装備されたサイドゴンドラが張り出す。

 ある隊員が、88式鉄帽を脱ぎ、それを床の上に敷いて、その上に腰掛けた。

「なんで鉄帽(てっぱち)を下に敷くんだ?」

 正面にいた、別の同僚が訊ねると、

()()を護るのさ!」

 と、彼は応えた。

「あと2分!」

「目標視認!」

 尖兵となるAH-2『(カン)(セイ)』が推進プロペラのピッチを強くして速度を上げ、前に出る。

 

 

 イタリカ。

 民家の屋根伝いに東門へと向かうロゥリィを追って、軽機動車は路地を縫って走る。

「これなら軽の方が良かったな……」

 およそ自動車と言うものの存在を考えて造られているはずのないイタリカの街中を、それ以上の細い路地が点在する東京や大阪でも難なく駆け抜ける車幅の軽機動車で飛ばしながら、運転手の蔵田は自ら不意に呟く。

九里林(クリ)、V9外しとけ」

「へ? なんで?」

 羽田が、自らも被ったままの88式鉄帽から暗視装置を取り外しながら、後部座席の九里林に向かって言うと、九里林はキョトン、とした様子で、聞き返す。

「戦闘で壊しちゃうかもしれないでしょう?」

 運転席の蔵田が、ルームミラー越しにちらりと九里林を見ながら、言った。

「壊さないわよぉ!」

 九里林は抗議するように声を上げる。その傍らでは、直接指名される前に西が暗視装置を外しにかかっていた。

「もう夜が明ける。あっちは篝火も点いてるし必要ない。あとで怒られる前に外しとけよ」

 羽田が、理由を説明しつつ、念を押す用にそう言った。

 

 その東門の戦闘は酸鼻を極めていた。

 暴走、突撃していった民兵と盗賊団との戦闘は、まさに血で血を洗う様相を呈していた。

 民兵達も盗賊団に犠牲を敷いていたが、徐々に、スキルと数で勝る盗賊団に圧され始めていた。

 ──今は拮抗しているように見えるが、限界だ……

 ピニャは息を呑み、声には出さず呟く。

 ──一度崩れれば、こちらにはもう後がない……!

 彼女がそう、絶望しかけたとき。

 ザンッ!

 突然、乱戦のど真ん中で、盗賊団の人間()()が、首から上が血に爆ぜた。

「なっ、なんだぁ!?」

 盗賊団と凌ぎ合っていた民兵たちは、突然抵抗を失って転がる。

 そうして出来上がった、ひしめき合いながらの乱戦の中の空間に、小柄で華奢なシルエットが、僅かな音だけを立てて着地した。

 黒い豪奢なフリルのドレス。

 神紋の描かれた巨大なハルバート。

「エムロイの使徒様だ!」

 ロゥリィ・マーキュリーが、戦場に現れた。

 その巨大なハルバートと、それとロゥリィとの比較、それらからはたやすく想像できないほど、素早く大胆でありながら精微な動きで、盗賊団の命()()()()()()()()()

「ロゥリィ! 1人だけで突っ込んでいきましたよ!」

 スキール音を上げながら東門の防塁にまで達した軽機動車から飛び降りつつ、西が言う。

「着け剣!」

 羽田が言いながら、自らも89式小銃の銃口に銃剣を取り付ける。

「彼女を援護する! 離れるなよ!」

 羽田はそう言いながら、銃を構えつつ、逡巡する。

 ──俺の見立てが正しければ、彼女はとてつもなく強い。だが、あんなナリで本当にアレだけの数を相手できるのか?

 それに一瞬気を取られた瞬間、その視界の隅を突進していく姿がよぎった。

「あっ」

 九里林は、89式銃剣をつけた27式機関銃を両手ながら軽々と抱えつつ、防柵から内側に入り込み、乱戦に向かって突進していく。

「あの突撃バカ!」

「ど、どいてください!」

 羽田や蔵田、それに西が、防柵の内側に残っていた民兵たちをかき分けながら、前に出る。

「突撃にぃ、前へ!」

 今回は西も89式小銃を構え、3人は前進する。

 盗賊団の兵が剣を振り上げ、羽田達に斬りかかろうとする。

 羽田の指がトリガーを引き絞る。3点バーストで5.56mm弾が発射される。小口径の高速弾の前に、手持ち武器のエネルギーを面で受ける事を前提に作られた盾や胸甲は、乾いた音を立ててあっさりと貫かれ、あるいは電気転炉出現前の稚拙な製鉄技術による質の不均一からパカンと割れて、弾体は盗賊兵の肉体に突き刺さった。

 死をもたらす黒い疾風となったロゥリィが、駆けながら自分に向かってくる盗賊兵を斬り裂いていく。ロゥリィのハルバートは、高速弾でも音()()()()立てる胸甲や盾、それに剣や槍と言った鋼を、まるでチーズのようにたやすく切り裂く。

 隙ができたところで跳躍。巨大なハルバートで盗賊兵2人を見に付けた防具ごと押し切る。

「畜生、チョコマカと!」

「足だ、足を狙え!」

 何本かの槍の穂先が、着地したロゥリィの足めがけて突き出されるが、それ以前にロゥリィの足はそこから退っていた。返す勢いで、ハルバートが振り下ろされる。ハルバートの柄全体を使い、それに己自身の腕も伸ばし、リーチを稼げるがモーメント上不利な体勢にも関わらず、軽々とそれは振り下ろされた。

「貰った!」

 背後から盗賊兵の1人がロゥリィに迫り、バトルアクスを振りかぶる。だが、それが振り下ろされかけた瞬間、ロゥリィの脇から背後に突き出たハルバートの柄が、その盗賊兵の胸甲ごと後方に吹き飛ばしていた。

「この、死神めぇっ!」

 リーチの縮んだロゥリィの正面から、両手でロングソードを握った盗賊兵が斬りかかる。

 ヒュッ

 ロゥリィが、最低限のステップで剣を躱す。

 だが、そのロゥリィの動きを目で追いつつ、その盗賊兵はニヤリと笑みを浮かべる。

 胸甲の下に隠し持っていた大形の短剣を取り出し──

「だぁっ!」

 それをロゥリィにむけて投げつける直前の瞬間、その剣を握る右手の肩に熱い感触を感じ、同時に腕が力を失うのを感じた。鋭利な槍で貫かれたときの感触だ。

「こいつっ!」

 ロゥリィよりはわずかに大きい九里林が、27式機関銃に着けた銃剣で盗賊兵を薙ぐ。上段から袈裟斬りにし、背後に迫った盗賊兵に重い27式機関銃のストックによる強烈な一撃。胸甲ごと圧迫される胸に血反吐を吐いて倒れる。

 脇から迫る盗賊兵に腰だめの3点バースト。.300WSMを立て続けに3発も撃ち込まれた盗賊兵の身体は、その胴が木っ端微塵になる。

「うぉぉっ!」

 “切れる鈍器”バスタードソードが上段から振り下ろされてくる。九里林はそれを27式重機のシャシーで受け止める。その動作によってできた相手の踏ん張った下半身を狙って、股間へ戦闘靴の鋭い蹴り。

「うぐぉ」

 男の泣き所に強烈な一撃を貰って、反射的にかがんだ相手を、上段から27式機関銃のストックで殴りつける。

 バキン!

 その瞬間、シャシー前端部に取り付けられていたアルミ合金製の簡易二脚が、マウントが割れる音とともにシャシーと泣き別れになった。

「あちゃー、二脚取れた、武器陸曹に絞られるー」

 一瞬、それに気を取られた九里林に、背後から複数の盗賊兵が襲いかかろうとする。

 次の瞬間、九里林は振り向きつつ、破壊された二脚マウントを抱えるようにして構えながら、セレクターをフルオートに入れる。

 ドドドドドドッ

 ────まぁ、実戦で耐えられるかの評価も特地での戦闘の目的の1つだし、()()()()()()()壊すのは仕方ないか……

 迫ってきた盗賊兵にWSMを撃ち込みながら、九里林はそんなことを考えていた。

「隊伍を組め! 複数で押すんだ!」

 一旦退いて体勢を立て直そうとする盗賊団のグループに対し、すかさず九里林は手榴弾のピンを引き抜いて投擲した。

 手榴弾が炸裂し、爆風とともに弾片が盗賊兵を薙ぎ払う。

「こんな時に装弾不良(ジャム)とかっ!」

 言いながら、咄嗟に胸の脇のホルスターに仕込んでいた拳銃を抜く。リボルバー、S&W(スミスアンドウェッソン) M66『コンバットマグナム』、2・1/2インチモデル。もちろん正規品ではなく特別許可である。

 

M58(官給品)と使う弾同じなのに、なんでわざわざ特別許可でリボルバー?」

「何言ってんですか、.357マグナムって言ったら『コンバットマグナム』か『パイソン』でしょう!?」

 

 ──あれでよく俺や蔵田のことをオタクとか貶せるもんだぜ。

 羽田は、M66で盗賊団にマグナム拳銃弾を撃ち込む九里林を見ながら、その初見の時の経緯を思い出して、声には出さずに、呆れたようにつぶやいた。

 他にも、マグナム弾対応の大形オートマチックを胸部ホルスターに装備した際、九里林の体形では()()()()()()()干渉してしまうのが無視できなかったりするのだが。

 ──しっかし、今も9パラ使ってたらどうなってたことやら。

 拳銃は基本的に、相手に防御力がないソフトスキン向けの兵器である。有効射程も短い。国防ドクトリン変更前の自衛隊の標準だった9mmパラベラム弾や、日本の警察用拳銃に使われる.38スペシャル弾などの標準口径標準装薬の拳銃では、金属の防具相手には威力が充分とはいえないのだ。

 そこで、拳銃用にライフル弾並みの貫通力を持たせるために、薬莢を延長して装薬を増したものが所謂マグナム弾である。

 そして、9mmパラベラム弾仕様の9mmけん銃の代替品として、建前上は“通常時は標準弾を使用し、必要時に強装(マグナム)弾を使う”という体裁で開発されたのが、.38スペシャル・.357マグナム両用オートマチック拳銃、豊和工業製ニューナンブM58『アジャスタブルハイパワー』というわけだ。

 

 九里林のM66が回転弾倉の6発を撃ちきった次の瞬間、その背後からロゥリィが飛び出す。

 それに気付いた九里林がニヤリと笑みを浮かべると、ロゥリィは視界にそれを捉え、自分も唇の端を上向かせた。

 更にその次の瞬間、槍としてのハルバートの穂先が、盗賊兵を鎧ごと2人まとめて貫く。

 ほぼ同時に、九里林も発射不能になった27式機関銃を長巻代わりに構え、銃剣で目の前の盗賊兵を斬り裂いた。

「あの2人、息ぴったりですね……」

「ああ……」

 蔵田がつぶやくと、羽田もひとまず同意の声を出してから、

「蔵田! 西! 2人の背中を護るぞ! 死角の敵に接近を許すな!」

 と、指示する。

「了解!」

 蔵田と西は、同時に応答する。

 負けじと3人も、射撃で盗賊兵を制圧していく。

「見ろ! 緑の人とエムロイの使徒様だ!」

「助けに来てくれたんだ!」

 民兵隊から歓声が上がった。

「隊長、銃貸して!」

 代わりに、と、自分の持っていた27式機関銃を羽田に投げて渡しながら、九里林は羽田の持っていた89式小銃を受け取り、フルオートで盗賊兵に撃ち込む。

 羽田の腕に収まった27式機関銃は、銃身や半壊したシャシーから薄く煙を上げていた。

 機関部の不具合による装弾不良ではなく、九里林が槍代わりに振り回したため銃身が歪んでしまい、その状態でフルオート射撃したため過熱して焼き付いてしまったのだ。

「嘘だろ、WSM仕様の銃身を……」

 傍らの西も、それを見て目を円くしていた。

「敵は怯んでいる、この隙に体制を建て直すぞ! 隊伍を組め!」

 自らも血に濡れつつ、指揮を採っていたハミルトンが、剣を掲げて叫ぶ。

 一方の盗賊団は、ジリジリと門の外へ押されつつあったが────

「何の音だ、これ?」

 歓声を上げる民兵隊の中で、1人が、それに気がついた。

 何か空気抵抗の大きいもので叩くような連続音、そしてそれとは別の旋律。

 後者が音楽であることは誰もが理解できた。聞いたことのない曲だが、楽曲であることは明らかだった。だが、そんなものが何故、こんな場違いも甚だしいところで鳴り響いているのか。帝国の軍楽隊でもやってきたのか?

 西門内部の戦線が崩壊し、盗賊団が目の前の敵に警戒しつつ門から退こうとしたその時。

 その門が、一瞬の炎の閃光の後に爆煙、轟音と激しい衝撃とともに、門を占拠していた盗賊団もろとも崩れ落ちた。

 

 

『ハンター1、城門に命中、破壊を確認!』

「ハンター全機、よくやった、お前ら帰ったらビール奢ってやる!」

 AH-2の発射した29式小型空対地多目的誘導弾が城門を破壊したのを確認すると、指揮官機上の鯖江が無線のマイクにそう言ながら、サムズアップした。

 29式小型空対地多目的誘導弾はAH-2に合わせて制式採用されたものだが、元は地上発射式の25式中距離多目的誘導弾(ATM-6B)が母体となっており、それも憲法改正後に開発されたものですらなく、それまで部隊使用承認の形で使用されていたXATM-6が制式化されただけである。

 続いて鯖江が命令を下す。

「ワルキューレリーダーより各機、攻撃開始!」

 ハインド・スペシャルの機首銃塔に搭載されている、元々はAH-2用に開発された、40mmケースレス弾を使うリボルバーカノン、豊和工業23式40mm低反動機関砲が火を吹き、城門周囲の盗賊団を薙ぎ払っていく。

 それが何なのか理解できず、呆然としている盗賊兵に、ガンゴンドラからの.300WSMや、開放された側扉から構えられた89式小銃の5.56mm弾が降り注ぐ。

『バトラー1よりエリアス』

 管制役のOH-1/G2が、少し西側に離れた上空から城門を観察しつつ、指示を飛ばす。

『南側より侵入せよ』

『了解、エリアス1攻撃を開始する』

『続いてバーンズ、西側より攻撃侵入せよ』

 ハインド・スペシャル、さらにバリオスの編隊が接近し、地上の盗賊団めがけて銃弾を雨のように撃ち込む。

「城門の中は狙うな、味方に当たるぞ!」

「正しい引き付け、正しい頬付け、コトリと落ちるように……」

 引き金が引かれるたび、照星の向こうで盗賊兵が倒れる。

 理不尽なまでに一方的な破壊力。

 だが、肥大した盗賊団がアルヌスからイタリカにかけての一帯で集落や旅人を襲い、それこそ全く理不尽に金品から女性の尊厳、生命に至るまで奪っていたことは、第12師団司令部にももたらされている。日本人は()()()()には敬意を払っても、こういう相手には容赦しない。

 ガンゴンドラに乗った、怒りの形相の銃手が、ステアリング形グリップ仕様の27式機関銃で盗賊団を薙ぎ払う。

 盗賊兵のある者は弓を引き絞るが、到底届かないその矢を放ったところで銃弾に貫かれる。

 あるいは、占拠した城壁上の長弩(バリスタ)を、彼ら自身には正体を知り様もない“空飛ぶ敵”に向けようとする者もいた。

「お前の槍、貸せ」

「おう!」

『こちらバトラー3、城壁上に対空兵器、まだ装填前です』

 OH-1/G2の1機がそう無線で告げると、AH-2の1機が二重反転ローターの傾きと推進プロペラのピッチを細やかに変えながら、素早く器用に長弩の高さ、その真正面におりてくる。

 3点バーストで40mmケースレス弾が撃ち込まれ、徹甲榴弾の炸裂の閃光とともに長弩は跡形もなく吹き飛んだ。

『ハンター3、敵対空兵器破壊』

『上出来だ!』

 

 

 何だ、これは……

 

 その光景を、騎乗のピニャは一部始終見ていた。

 

 何者も抗うことのできない圧倒的な力、禍々しいまでに凶暴な力。

 すべてが叩き壊されていく……

 誇りも、名誉も、一瞬にして。

 

「これは────」

 ピニャは、自身が涙を流しているのも忘れて、その光景に目も、心も奪われていた。

 

 

 女神の嘲笑────

 

 

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