HARD MODE ~自衛隊 彼の地にて 斯く戦えり   作:神谷萌

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Chapter-14:後始末

「化物だぁっ!!」

「にっ、逃げろぉ!!」

 盗賊兵たちは、自らの仲間を薙ぎ払う、空飛ぶ鉄の化物を前に、騎乗する者から我先にと算を乱して闘争しようとする。

『バトラー2よりワルキューレーリーダー、城外の敵騎兵と歩兵約100、東に後退しつつあり』

 OH-1/G2の1機が、逃走する盗賊の群れ──すでに“集団”ではなかった──を追跡しつつ、鯖江や陽芽の乗る指揮官機に伝える。

「ワルキューレリーダーより、バーンズ1・2、ハンター1・2、後退する敵集団を攻撃せよ」

 鯖江が下令すると、ハインド・スペシャルとAH-2が2機ずつ、城門前から離れ、逃走する盗賊兵の背後から襲いかかる。

「来るなぁっ!!」

「追いつかれるっ!」

 盗賊団の騎乗兵がそう叫んだ次の瞬間、ハインド・スペシャルの40mm機関砲が彼らを薙ぎ払った。

 さらに、ハインド・スペシャル2機は機首の銃塔を自動追尾で掃射しながら、左旋回をかける。サイドドアやガンゴンドラから89式小銃の5.56mm弾、機関銃の.300WSMが掃射され、更に多くの人馬が倒れ、赤に染まっていく。

ハインド・スペシャルが旋回した後ろから、AH-2がM260ロケットランチャーから各々14発ずつのM151J『ハイドラ70』ロケット弾を発射する。

 高爆発威力弾頭が炸裂し、逃走する騎乗兵の経路を焼き払った。

「あれも“科学”によるもの?」

 ユノは、盗賊兵とともに爆煙に包まれる草地を見ながら、傍らの椚野に訊ねた。

「ああ、爆弾……という概念はこちらにはまだ無いのかな? 火薬を詰め込んだ塊を撃ち出しているんだ」

 椚野はそう答えた。

「隊長たち、大丈夫ですかねぇ」

 富山が、ユノとは反対側から、椚野に心配そうな声をかける。

「私は、ロゥリィがイタリカ兵まで襲ってないか心配」

「…………」

 ユノの言葉に、椚野と富山は共に視線を向けて、呆然とした。

「もうこっちにはこないだろう、後片付けもいるだろうし、我々も南門に移動するぞ。新田と両塚、それに河津本は念のためにここに残れ」

「了解」

 椚野の指示で、残っていた自衛隊員は、3人を残してユノとともに26式高機動車に乗り込む。

 

 

 一方、その南門では相変わらずロゥリィと九里林の無双劇が続いていた。

「二曹、2丁も壊さないでくださいよ!」

 銃剣による白兵戦を続ける九里林に向かって、西が、89式小銃で援護射撃しつつ、そう声をかけた。

「アンタねぇ、あたしを何だと思ってんのよ!」

 目の前の盗賊兵が倒れた瞬間に、一瞬、視界を西の方に向けて怒鳴り返す。

 その隙を突こうとした盗賊兵は、ロゥリィのハルバートに、その穂先で突き刺された──

「み、認めんぞ……」

 最早、死から逃れようが無いだろうその盗賊兵は、最後の力を振り絞るように、呻くような声でロゥリィに語りかける。

「こんなものが……戦であってたまるか……そうだろう……? 答えろ……エムロイの使徒よ……答えてくれ……」

 半ばすがるような、ロゥリィへの問いかけ。だが、

「そうね、これは戦などではないわ」

 と、ロゥリィはそう言った。

「戦いのための戦いなどありはしない──あなた達は、戦いに来たんじゃない。自らの破滅にこの街の人間を巻き込もうとしただけ──戦いを愚弄したのは、あなた達自身よ」

 ロゥリィは突き放すように言う。それに対し、盗賊兵はそれを聞いて絶望したのか、あるいは聞くこともなかったのか、すでに絶命していた。

第3偵察隊(3レコ)、こちらハンター3、これより10カウントで門内を掃討する。退避されたし』

 羽田のレシーバーに無線越しの声がそう告げられたかと思いきや、可燃物が燻る煙を引き裂いて、AH-2が姿を表し、城壁の内側に入って反転する。

『10、9……』

「蔵田、西!」

「はいっ!!」

 羽田は、腕を振りながら部下に退避を促す。それを聞くが早いか、蔵田は自分より小柄な九里林の肩を捕まえようとする。

「退避してくださいっ二曹!」

「まだやるーっ!!」

 蔵田の声に耳を貸さず、九里林は更に暴れようとするが、体格に勝る蔵田はそれを捕まえて抱え上げた。同様にロゥリィも、羽田が“お姫様抱っこ”の要領で抱え上げた。

「空の兵が門の中の敵を攻撃する、みんな退避してーっ!!」

 すでにロゥリィと九里林が暴れたことにより、イタリカ兵や民兵隊と盗賊団との間には隙間ができていたが、西はそう叫んでから、自らも退避した。

『2、1、0!!』

 ゼロ、の声とともに、毎分1820発の発射速度を持つ28式リボルバーカノンが、破壊された城門から脱出を試みる盗賊兵に向かって40mmケースレス弾を浴びせた。

 その射撃が終わった時、盗賊兵は朱に染まった肉の山と化していた。まだ息のある者もいたが、五体満足な者は皆無に等しかった。本来自身が打ち据える衝撃に堪えうる武具も、40mm弾が命中したものは木っ端微塵に砕かれていた。

 その光景を、やや高台の馬上から見ていたピニャは、しばしの間動くことも忘れたかのように、自身の騎馬とともに呆然と佇んでいた。

 

 

 やがて引き返してきた、ハインド・スペシャルとバリオスから、空挺隊員が降下用ロープで城門外側の周囲に降り立つ。

 自衛隊員は直ちに展開して、盗賊兵の行動に備える。だが、生き残った盗賊兵は、すでに戦意を喪失し、ただ自衛隊員のジェスチャーによる降伏勧告に従うだけだった。

 やがて何機かのバリオスが着陸した。指揮官機の“ワルキューレリーダー”も含まれている。鯖江は大地に降り立ち、手に腰を当てた仁王立ちに近い姿勢で部下の報告を受ける。

「一佐、敵集団の残余は壊走した模様です。現在は要救者の捜索救助を実施中」

「うむ」

 一方、城門内部では、AH-2の掃射の威力に唖然としていた民兵やイタリカ兵たちが、ようやく我に返りつつあった。

「あ、あんたらは一体、どこの軍隊かね……」

 民兵隊に参加していた老人の1人が、蔵田に向かって訊ねた。

 すると、傍らで「白兵戦もっとやりたかったのにー」とグチグチ言っている九里林を他所に、蔵田は柔らかく笑って、いくらかたどたどしい“こちらの言葉”で言う。

「自分たちは、日本国自衛隊です」

「ニホン……ジエイタイ……」

 鸚鵡返しにする老人とともに、しばし自衛隊員の活動を呆然と見ていた民兵隊だったが、やがて自衛隊が生存者を救助し始めると、自分たちも慌ただしく付近の片付けに取り掛かった。

 半壊した城門からノーマの遺体が回収され、自衛隊員と民兵の手で担架に乗せられた。畔がそばに寄って脈を取るが、それは儀式に過ぎなかった。

「〇六三一、死亡を確認しました……」

 畔がそう伝えると、グレイが遺体に“帝国”の国旗を被せた。

「戦いの神エムロイよ、勇敢なる騎士ノーマの御霊に栄誉と安らぎを与え給え……」

 ハミルトンやイタリカ正規兵、そばにいた民兵たちも、胸に手を当てて祈った。

 その様子を、羽田はどこか他人事のように観察していた。

 AH-2や、着陸していないハインド・スペシャルは、しばらく周囲を警戒していたが、やがて先に帰投につく。

 羽田に抱えられていたロゥリィは、そのローターの風に煽られ、髪が乱れたのを直そうとして、あることに気がついた。

 ローティーンに見える年格好のロゥリィだが、その割には出るべきところが出ている。

 羽田の右手は、偶然だが、それを鷲掴みにしていた。

 

 

 何だこの惨めさは……

 勝利の高揚感もない。

 

 フォルマル伯爵邸の客間で、ピニャとミュイ、鯖江と羽田、そして各々の周囲の人間が対峙するように面を合わせている。

 しかし、帝国側の最高責任者であるピニャは、未だ心ここにあらずと言った感じだった。

 

 ……当然だな、勝利したのは我々ではなく、使徒ロゥリィと──

 敵であるはずの、ニホン国ジエイタイ。

 

 ピニャの脳裏に、イタリカの城塞の門前で、守備にあたっていた帝国軍が無残に焼き尽くされる光景がよぎる。

 

 鋼鉄の天満、大地を焼く、あの強大な魔導、

 あの力が牙を剥けば、帝国の穀倉地帯たるイタリカは陥ち、

 妾とミュイ公女は、虜囚の辱めを受ける。

 

 だが民は単純だ。イタリカを防いだジエイタイを歓喜の声で迎え、

 ニホン国の支配を受け入れるだろう。

 

 彼らが開城を迫れば、妾はその足元に取りすがって慈悲を乞い────

 

 妾が敵に慈悲を乞うだと!?

 帝国の皇女たるこの妾が!?

 

 その時、ピニャの表情が憎々しげに歪んだ。

 

 ああ、今の妾なら、どんな屈辱的な要求にも屈してしまうかもしれない。

 

 

「捕虜の権利はこちらにあると心得ていただきたい」

 やや険しいハミルトンの声で、ピニャは我に返った。

「我々は情報収集のために5名ほど確保できればいい。ただ、せめて人道的に扱うという確約をいただきたい」

 ハミルトンの言葉に対し、鯖江が日本語でそう言った。両者のやり取りは、現状、唯一通訳ができるユノを介している。

「ジンドウテキ?」

 ハミルトンは、怪訝そうな顔をして、鸚鵡返しに聞き返す。

「友人、知人のように……無碍に扱わない、こと」

 ユノは、独自の解釈でその言葉の意味を説明した。

 すると、ハミルトンは急に憤りの表情になり、

「友人、知人が街、村を襲い、殺しや略奪などするものか!」

 と、怒声を鯖江にかけた。

 しかし。

「では、“帝国”は我が国とは友好的な関係は望めないということですね」

 と、ユノの翻訳を聞いた陽芽が、鯖江の背後から呟くように、しかしはっきりと聞こえるように言った。

 ユノは、ハミルトンの指示でそれを翻訳する。

 そしてそれを聞いて、ゾクッ、と背筋を凍らせたのは、ピニャの方だった。

「魔導師殿、門の向こうはどうなっている……」

「殿下?」

 ユノに訊ねたピニャに対し、まずその声に、ハミルトンが驚いたように振り返った。

「まだ直接見たことはないが、ニホンという国のオオサカという都市が存在していると言う。少し事情があって正式な帝都ではないが、最大の都市」

「…………っ!」

 ピニャは一瞬に絶句してから、ハミルトンに顔を寄せるように仕種で指示する。

「ハミルトン、おまえの言っていることは間違ってはいない、だが、ここで押し通せば──」

「ニホンにとっては、我々は盗賊と同じ……」

「そうだ。相手は一晩で盗賊団を壊滅させ、帝国軍と侯諸国連合軍、20万強を消した程の戦力だぞ。間違いなくイタリカは戦場になる。いずれ雌雄を決するにしても、今は無理だ」

「わ、分かりました……」

 ハミルトンはそう言って、口元を隠しながら身を引く。

「分かった」

 ピニャが、視線を鯖江に向けて言う。

「帝国第三皇女の名において、努めて過酷に扱わないように約束しよう」

 ──しかし……

 言いながら、ピニャは思う。

 ──この男は何者だ? 羽田と同じ格好だが、明らかに格が違う。

 まぁ、実際1個戦闘団を率いる一佐と、小隊長の二尉だから、文字通り格が違うのだが、()()()()階級制度やその階級章を知らないピニャ、が今すぐ理解できないのは無理もなかった。

「すまないハミルトン、他の条件はどうなっている?」

 ピニャは、状況を認識できていなかった間のやり取りについて、ハミルトンに説明を求めた。

「では、今一度条件の確認を……」

 ハミルトンは、フォルマル家の執事長バーソロミュー・デル・ノートから、フォルマル家の信箋に認められた協定書を受け取る。

 そこには、以下の内容が書かれていた。

 

 

1.日本国自衛隊は今回の戦闘で得た捕虜から、情報収集のため5名乃至8名を選択して連れ帰れるものとする。

2.日本国はイタリカ市の安全及び中立性の確保のため、陸上自衛隊より12名からなる小隊1個乃至2個をイタリカ市に常駐させる。

2-1.イタリカ市に常駐する自衛隊が必要とする物資は、原則として日本国が供給する。食料その他の生活物資に限り、やむを得ず、イタリカ市を含むフォルマル伯爵領内でこれを調達するときは、正しく対価を支払うこととする。

3.前項に関して、帝国はイタリカ市に駐屯する自衛隊の部隊に限り、その規模、交代の状況、現地住民との商取引の情報などの情報を確認し、報告を受ける権利を持つ。

4.イタリカ市を含むフォルマル伯爵領内においては、帝国、日本国間の武力もしくはそれに準じるものによる戦闘を禁ずる。双方は互いの安全を脅かす行動をしてはならない。但し、双方いずれかに害意を持つ第三者の介入がある場合は、これを排除する行為について例外とする。

5.前項に関して、アルヌス~イタリカ間のテッサリア街道の往来について、帝国と日本国は互いに自由と安全を保証する。

6.日本国が後見するアルヌス協同生活組合は、今後、イタリカ市を含むフォルマル伯爵領内において、関税、売上、金銭の両替等、商取引に関する一切の租税を免除される。

7.帝国は日本国との文民交渉による戦争終結のための準備に努力する。

8.以上の協定は即日発効される。

 

 

 ──やはり部隊を駐留させるか、当然だな……しかし、12人から24人? ずいぶん少ないな。

 たとえ極少数であっても、軍事力としてのフォルマル伯爵領の軍を無力化することが、不可能ではないことは実証済みだ。

 だが、占領するとなると話は別だ。

 数千を数えるフォルマル伯爵領の人口を、たった12人から24人で統制するなど不可能である。

 ──ジエイタイから事を起こす気はないと考えて大丈夫か……

 ピニャは思った。

 確かに帝国に不利な内容ではある。が、あの圧倒的な武力を見せつけての、勝者の権利としては、些か……否、だいぶ控えめのようにも見えた。

 ──金銭や物資の類も要求していない。いや、損益だけで見ればジエイタイの方が不利ではないか。

 だんだん頭に入ってくると、そう理解できた。

「よろしければ、こちらにサインを」

「あ、ああ」

 バーソロミューから渡されたペンで、ミュイのサインの下の連名の署名欄にサインをした。

 日本側の責任者の名前を見る。

 3名ほどの名前がかかれており、その代表者として「鯖江鉄筋」の直筆サインが書き込まれていた。

 ──なんともカクカクした字だな……

 漢字でそのまま書かれている鯖江の文字を見て、ピニャはそう感想を抱いた。

 ──それにしても、これほどの条件で相手に妥協させるとは、意外と使えるな、ハミルトン・ウノ・ロー……

 ピニャがサインした信箋を受け取るハミルトンを見て、ピニャは声に出さずに呟いた。

 ふとピニャが視線を上げると、羽田の顔には何故か痣があり、その傍らでロゥリィがむくれていた。

「?」

 

 

「それじゃ、あの娘と、あの娘」

 ハーフエルフらしい少女に、人間の女性。

「それから頭に羽の生えてるあの娘」

 羽田が、捕虜の中から自衛隊が連れて帰る人員を選んでいる。

 情報収集は第5軍団に所属する羽田の役目であり、その一旦である捕虜の扱いも、鯖江や陽芽ではなく羽田の“縄張り”だった。

「いいですねぇ、それっぽいですねぇ」

「西ちゃん……」

 羽田の人選に対して、傍らで興奮した様子を見せる西に対し、更にその背後にいた九里林が、がっくりと肩を落とす。

「女の子ばかり選んでませんか?」

 九里林の隣にいた、畔が、羽田に向かって訊ねる。

「気のせい気のせい」

 羽田は、軽くあしらうように言う。

「本当ですかぁ?」

 九里林が、羽田が人選するたびに、その対象に興奮の眼差しを向けている西を見ながら、眉間を歪ませ、まとめて呆れたようにして言う。

「気のせいだって」

 羽田は、あくまで偶然を主張する。

「たしかに、彼女らの今後のことを考えると、ここに残していけないのはわかりますけど……」

 畔は、痛し痒しと言った感じで、険しい顔をして言う。

「それじゃ男も、そっちの若い人間と、狼男」

 羽田が指名した捕虜を、バリオスの1機に載せる。

 そして、第4戦闘団のヘリも、帰投に就くため次々に離陸していく。

「ありがとう~」

「緑の人~」

 離れていくヘリの群れを、イタリカの兵や民兵隊は手を振って見送った。

 

 

 イタリカ市街中心部、リュドー商会の店舗奥、応接室。

 壮年期から初老に入りかけの、長髪の商人が、応接セットにかけたユノとロゥリィ、ナイルと向かい合っている。

「商材は確認させていただきました。翼竜の爪50本と鱗200枚、シンク金貨200枚とデナリ銀貨4000枚になりますな」

 店の主でもある商人、リュドーは、商材リストに目を通しながら言うが、その顔はすぐれない。

「ですが……200シンクと1000デナリは現金で用意できますが、最近のこの情勢で、貨幣が不足しておりまして」

 日本政府が“特地”と呼ぶこの世界は、未だ金本位制度であり、貨幣の価値は貴金属の含有量で決められる。

 最も価値があるものがスワニ金貨で、その大きさは日本の500円硬貨より一回り大きい程度。その下にシンク金貨、デナリ銀貨、大規模な商取引の基軸となっている。その他、兵士の給与として払われるために作られた、穴の開いたソルダ銀貨があり、兵士や日本で言うところの公務員の給与として支払われている。その下にアクス銅貨がある。更に日本での硬貨、小銭の地位に当たる各種銅貨や、鍍金銀貨がある。これらは工作精度を低めるため方形である。

 問題は死亡した兵士の現金貯金が、遺体ごと、土葬されたり、日本側に回収されたりしたため、貨幣の流通量が不足していることだった。

「残りは為替でならすぐに発行できますが……」

 リュドーは言いにくそうに言った。

「わかりました。それでは1000デナリ差し引くので、それで別の仕事を受けてくださいませんか?」

 金貨袋を確認していたユノが、顔を上げて視線をリュドーに向けると、そう提案した。

「仕事、ですか。どのような?」

 リュドーが聞き返す。

「各地の市場の相場の情報を。穀物や生活必需品を中心にできるだけ広範囲、多品目に」

 ユノがそう言うと、リュドーは、一瞬、あっけにとられたように、キョトン、と目を円くした。

「つまり相場の情報を買うと?」

 リュドーが聞き返し、ユノが答える。

「ええ」

「1000デナリで?」

「そうです」

 ユノの答えに、リュドーは口元で不敵に笑った。

「わかりました。大賢者カトーの愛弟子様の頼みだ、引き受けましょう。調査結果はどちらに?」

「アルヌスの丘の南──アルヌス協同生活組合宛で、お願いします」

 

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