HARD MODE ~自衛隊 彼の地にて 斯く戦えり 作:神谷萌
「ふぁ……」
あくびを噛み殺そうともせず、羽田は、軽機動車の助手席にもたれかかるように腰掛けて、言う。
「疲れたよ、蔵田……」
「無理もありませんよ。結局徹夜になっちゃいましたし」
運転席の蔵田は苦笑しながら言う。
「隊長、撤収準備完了しました」
セカンドシートに乗り込んできた椚野が、そう報告した。
すでに第4戦闘団は第5戦闘団からの駐留部隊への引き継ぐ小隊のみを残して撤収している。
「んじゃ、ぐるっと回って帰りましょ」
羽田は、軽く身を起こしながら、そう言うが、
「なんだ、寝ちゃったのか」
サードシートを振り返ると、畔の隣でユノとロゥリィが、お互いもたれかかりながら寝息を立てているのが見えた。
「無理もありませんわ」
畔が苦笑しながら言う。
「俺も眠いよ……」
羽田はそう言ってから、キリッ、と急に姿勢を正して、表情を引き締めた。
「前へ!」
羽田が下令すると、蔵田がギアを1速に入れて、軽機動車はゆっくりと走り始めた。26式高機動車、27式MRAPがそれに続く。
昨晩、近所が戦場になったとは思えない、のどかさを取り戻した──日本なら農道程度にしか見えない街道をのんびりと走る。
羽田は、かろうじて目は開けていたものの、ほとんど睡眠状態で意識は薄く、ウトウトとしている感じだった。運転席の蔵田は、それに気づいていたが、苦笑しつつ敢えて起こさずにクルマを走らせ続けた。
が、しばらくして、突然急ブレーキがかかり、羽田はその動搖で覚醒した。
「どうした?」
「前、前からなんか来るっスよ!」
蔵田の少し泡を食ったような様子を見て、羽田は、身を起こし、双眼鏡で前方を伺った。蔵田も双眼鏡を取り出し、前方を見る。
その双眼鏡の中に捉えられたものは、銀の甲冑を付けた騎乗兵の一団だった。鎧や着衣などの絢爛さを見ると、中世ヨーロッパ的な騎士とか、貴族とかいう存在のように見えた。また、もうひとつ特異なのは、その騎士は女性ばかりなことだった。
「ベルばらか宝塚か……姫様の言っていた“騎士団”か?」
羽田は呟くように言う。
「え、え、どんな感じです?」
やはり、セカンドシートでウトウトしていた西が、一気に覚醒したように、興奮した声を出しつつ、運転席と助手席の間から首を突っ込んできた。
羽田も蔵田も、そして西までも、双眼鏡のズームを深めてより詳細を伺う。
「ほんと、美人ばかりでベルばらまんまですね」
「隊長、俺、縦巻きロールの実物見るのって初めてっスよ」
西が、どこか息を呑むようにいい、それに、軽く興奮したような蔵田が続く。
その、蔵田が言った、長髪に、装飾品にしてはゴツいティアラ、ボリューミーな前髪の左右、もみあげにかかる部分を縦巻きロールにした金髪の女性騎士と、美人と言って差し支えないが、女性にしては短髪で、凛々しい顔つきをした女性騎士が、並んで先頭を駆けている。特地の軍事レベルだと、この2人が指揮官格だということは羽田たちにもすぐ理解できた。
そして、続く騎乗兵が騎士団の団旗であろう旗を掲げている。
「旗章は赤、白、黄色の薔薇ですね……」
西が言うと、羽田は、それを肯定する様子で続いた。
「間違いない、姫様の言ってた騎士団だ。旗章からすると、縦巻きロールが黄薔薇様、ショートは白薔薇様ってところか。赤はあの姫様だな……」
「総員警戒!」
椚野が、無線機のスピーカーマイク越しに小隊に指示する。“帝国”の中央方面からやってきた軍事部隊であることは間違いないからだ。
だが、
「おやっさん、待った!」
と、羽田がそれを制止した。
それから、羽田は、自身がつけていたハンディ式無線機のスピーカーマイクのPTTスイッチを押して、言う。
「総員、敵対行動と取られる動きは控えろ。協定違反になるぞ。特に
『なんで私だけ名指しなんですかぁ!』
先に、九里林の不満そうな声が返ってきてから、
『2号車富山、了解』
『3号車湯川、了解』
と、返答があった。
「ユノさん達、起こしますか?」
畔が、サードシートから、自分の横に座っているユノとロゥリィを見つつ、羽田に訊ねた。
すると、羽田が答える。
「いや、寝かしといてあげてよ。俺、言葉話せるようになったみたいだし」
イタリカに急ぐ薔薇騎士団の、先頭を行く、ボーゼス・コ・パレスティーと、パナシュ・フレ・カルギーの2人が、それに気付いたのは、相手が彼女たちに気付くよりやや後からだった。
「前から、なにか来るぞ」
パナシュが言い、手綱を引いて騎馬の速度を落とさせる。
──この、急いでいる時に……!
ボーゼスは焦れながらも、パナシュ同様に速度を緩めた。
「敵かもしれん! 全員、気を抜くな!」
パナシュが、後続に向かって声を張り上げた。
後続の騎士団が、停止しつつ、構えを直したのを見てから、パナシュとボーゼスは、相手の一団に、騎乗したままゆっくりと近づいていく。
──奇妙な形の荷車だな、それに、鉄製か?
パナシュはそう思いながら、先頭の荷車の最前席に乗っている人間に近づいた。
「貴様達、どこから来た?」
パナシュが問いかけると、問いかけられた蔵田は、片言の言葉で答える。
「えーと、私たち、イタリカから帰る」
「隊長のこと言えないじゃないですか……」
セカンドシートで、西は、いつものゆるい雰囲気で呆れたように言いつつも、────────────────────────────────────────。
「どこへ?」
そんな西の様子には気づかず、パナシュは、さらに蔵田に問いかけた。
「アルヌス・ウルゥ」
「なんだと!」
パナシュが、険しい様子で驚愕の声を上げた。
「! 異世界の敵か!」
旗手であるスイッセス・コ・メイノが、パナシュの声を聴くと、そう声を上げた。すると、騎士団に緊張が走り、一斉に色めき立って
一方、自衛隊の車列に近づいた2人は、パナシュの問いかけに対する蔵田の答えを聞くと、今度はボーゼスの方が、騎馬から降りて、般若のような表情で蔵田にずいと迫る。その胸倉をつかみ、
「今の言葉、もう一度言ってご覧なさい」
と、圧迫するように問い質した。
「い、イタリカから来て……あ、アルヌス
ボーゼスは未だ抜剣に至っていないものの、その気迫と、予想外に強い腕力に、蔵田は気圧され、言葉がさらにたどたどしくなってしまう。
「マズいな……」
羽田は、運転席越しにやり取りを見ていたが、そう呟くと、助手席のドアを開けて降りようとし、
「おやっさん、絶対にこっちから手を出させないでよ」
と、椚野に念を押すように指示をしてから、車外に出た。
羽田は、車体の反対側に回ると、蔵田が2人の女性騎士と問答している間に割って入る。
「まーまー、落ち着いて、部下が何か失礼を?」
羽田は、宥めるように、剣のない笑顔でそう言ったが、
シャッ
「降伏なさい」
パナシュはいきなり抜剣し、馬上からその切っ先を羽田の喉元に向け、有無を言わせぬ口調で短くそう言った。
「あ、あのー、落ち着いて、こちらの話、聞いていただけます?」
流石に表情を引きつらせながら、羽田は、パナシュを見上げて言った。
「聞く耳持たぬ!」
「話せばわかりますから、ね? 話せば解ってもらえますから」
「くどい!」
態度を変えないパナシュと、なんとか宥めようとする羽田との間で押し問答のようになっていると、ボーゼスがツカツカと羽田に詰め寄ってきた。
「ええい、お黙りなさい」
ボーゼスはいきなり、羽田の頬を張った。
平手打ちと言っても、ガントレットを嵌めた手での一撃である。
「このっ」
西は、ボーゼスの行動を見て、右後部ドアを開けて、ボーゼスやパナシュに89式改機関拳銃を向けた。
27式MRAPの銃塔でも、両塚が12.7mm車載重機を構えて装弾レバーを引く。
「待て! 撃つな!」
西を押しのけるようにしつつ、椚野がそう叫び、隊員たちを制した。
「逃げろ!」
羽田は、緊迫した表情で振り返り、車列の後方を指差しながら叫ぶ。
「今は逃げろ、行け!!」
羽田が叫ぶと、蔵田を始め各車のドライバーはギアをバックに入れ、急ハンドルを切って車両をターンさせた。
「きゃっ!」
「どう! どう!」
騎士団の騎士たちは自衛隊員の動きに備えていたが、一気に吹かされたエンジンの爆音に馬が驚いて暴れたため、それを制している間に、追撃する機会を失ってしまった。
あたりに静けさが戻り始めた頃には、すでに自衛隊車両は遥か彼方に遠ざかっていた。
ボーゼスとパナシュは、自衛隊車両の素早さに一瞬、あっけにとられていたが、やがて、キッ、と険しい表情で羽田を振り返り、睨みつけた。
「はは……」
羽田は、無数の槍や剣の切っ先を向けられ、両手を上げた状態で、乾ききった笑い声を漏らした。
「なんてことをしてくれたんだ!!」
ピニャは、怒鳴りながら、思わず手元にあった金鍍金の酒坏を投げつけていた。それが、ボーゼスの眉間にあたり、ボーゼスの額が割れて血が流れ落ちた。
「…………え?」
その当のボーゼスは、一瞬、何が起こったかわからない様子だった。やがて意識が戻ってくると、怒りに顔を真っ赤にして震えているピニャの姿を見て、膝が崩れ落ち、その場にへたり込んだ。
「姫様!」
パナシュは慌ててボーゼスを支えながら、ピニャに視線を向けて抗議の声を上げる。
「私達が何をしたというのですか! 戦いに間に合わなかったとは言え、敵の指揮官を捕虜にしたのですよ!?」
それを聞くと、ピニャは、傍らに立っていたハミルトンと共に盛大にため息を付き、座に腰を掛けた。
「ハネダ殿、ハネダ殿!」
ハミルトンが、あちこちの怪我を負い、顔もあちこち腫れ上がった羽田を、軽く肩をゆすりながら声をかけるが、羽田は意識はあるものの、朦朧とした様子で反応がない。
それを見て、ピニャは頭を抱える。
「結んだその日に協定破り、しかも……よりによって……」
くぐもった声でつぶやきながら、再びちらりと羽田の方を見る。
「ハネダ殿ぉ!!」
羽田の身体がぐったりと崩れ、それを見たハミルトンが声を上げた。
「メイド長、頼む……」
「畏まりました」
メイド長は、ピニャに向かって礼をすると、部下のメイドを数人呼び出し、複数人で羽田を抱えて、伯爵家の謁見室を出ていった。
それを見送っていた、ボーゼスとパナシュだったが、
「貴様らぁ~」
と、ピニャがどす黒いオーラを出しながら立ち上がると、2人はビクッとすくみ上がる様に身体を跳ねさせつつピニャの方を向いた。
「ハネダ殿に何をしたぁ~?」
ピニャの表情は、引きつり過ぎて笑っているようにすら見えたが、もちろん笑っていると見る者などいないだろう。
「い、いつもと同じように、ごく当たり前に……」
「甚振りながら連行してきたわけか……」
ボーゼスと2人して涙目になりながら、パナシュがようやくそう言うと、ピニャは再びため息を付いて、軽く頭を抱えた。
「なんて事を……なんて事を……」
ピニャはボーゼスたちに歩み寄っていくと、顔を上げて2人に睨むような視線を向けた。
「連中は盗賊すら丁重に扱えと言い出すのだ! それに妾が協定で往来の自由を保証していたのだぞ!」
「そ、そんな……」
「協定なんて私たちが知るわけが────」
パナシュとボーゼスは反論しかけるが、それが意味を持たないことは分かっていた。
帝国の常套手段、協定破りを口実にニホン国が進攻に出れば────
ピニャの脳裏に、ハイドラ・ロケットで辺り一面焼き尽くされ、アサルトライフルや機関銃で一方的に帝国軍が蹴散らされる光景が浮かんだ。
ボーゼスとパナシュには、そんな光景を想像できるはずもないが、ピニャの戦慄した深刻そうな表情に、ただ事ではないということは認識した。
ピニャは、表情を直すと、
「…………彼の部下はどうした?」
と、ボーゼスたちに訊ねた。
「逃げおおせました、指揮官をおいて────、もしや協定を守るために?」
パナシュが答え、そのままその理由をピニャに訊ね返す。
「そうだ!」
ピニャは、声を荒げて、迫りながら2人に食って掛かる。
「貴様らどうせ『臆病者だ』と
「あー、姫様?」
ピニャとボーゼスたちのやり取りに、宥めるような口調でグレイが割って入った。
本来階級では下の騎士補であるグレイだが、ピニャを含め騎士団初期メンバーの戦闘指南役という事もあって、3人共グレイの言葉を無下にはしない。
「なんだ、グレイ?」
ピニャが聞き返す。
「此度は幸い死者が出ておりませぬ」
グレイは柔和な表情で説明する。
「小官が思いますに、下手に策など弄されますより、素直に謝罪なされた方がよろしいかと」
「謝罪!? 協定があるとは言え相手は敵軍だぞ! そこに妾が頭を下げろと、弱みを見せろというのか!?」
グレイの具申に対し、ピニャは、最初は反射的に激昂したものの、
「では戦いますか? ジエイタイと死神ロゥリィ・マーキュリー相手に」
と、グレイはそれを窘めるように言った。
「うっ……」
言われて、ピニャは言葉に詰まってしまう。
「小官は御免被りますな」
グレイは、戯けたように肩を竦めてそう言った。もちろん、本心からピニャたちを見捨てて逃げようとするような人物ではないのだが。
「まぁ、全てはハネダ殿のお心次第ということになるんでしょうが……」
それを聞いて、ピニャやボーゼスたちは、グレイの方を見てキョトン、とした。
日没後。
ピニャは、かつてのコルト伯の書斎でこれからの対応について考え込んでいた。ちなみに、ミュイはこの部屋を滅多に使っていない。
あまり質の良くない羊皮紙に、ペンで走り書きをする。
『協定違反はなかったことにはできないか? 襲撃とハネダへのジンドウテキではない扱い』
『アルヌスに報告される前にハネダの部下を捕らえるか口を封じることができるか?』
思考を巡らせながら書いていくが、結局出た結論は、
『不可能』
だった。
「炎竜すら撃退する連中をどうやって倒す? あやつらまさか妾を苦しめるためにハネダを置いていったのではないだろうな……」
愚痴混じりの呟きが漏れる。
「そもそもこの2人が……」
羊皮紙の上に、即興で抽象化されたボーゼスとパナシュの顔を描くと、そこに弓矢を突き立てたり罵倒用語を書いたりと、まるで日本の小学校高学年~高校生が教科書の肖像にするような落書きをした。
そしてその直後、それをクシャクシャと丸めて、机の上に無造作に放り投げた。
「くそっ!」
思わず毒つく。
──ジエイタイに謝罪するのが一番かもしれない。だがニホン国はこの件を取引の材料にするのは目に見えている。あやつらは圧倒的な武力を見せつけて、妾に帝国中央との交渉仲介を求めてきた。
──あの戦闘力と破壊力を知らない帝国の外交官僚が、いつものように相手を格下に見て居丈高に振る舞えば────、結果は火を見るより明らかだ。ジエイタイの力はまだ妾しか知らない────
──いや、正確には違う、妾たち意外にも、イタリカの民が知ってしまった。ジエイタイが動けばイタリカの民は、喜んでニホン国の支配下に収まり、帝国中央への侵攻の拠点を提供するだろう。
ピニャの思考は、どんどんとネガティブな方向へ追いやられていく。
「そうだ」
ふと、思いついて、先程まで走り書きをしていたような底質な羊皮紙ではなく、上質で、日本のA4サイズ近似の形にきれいに寸断された物を取り出す。
「
そう呟いてペンを走らせるものの、ある程度まで来たところで、急に筆が止まり、そのまま、急に高まった筆圧でペン先を追ってしまう。
──こんな報告誰が信じる!? この目で見た妾ですらまだ信じきれないと言うのに!
そう、声には出さずに呟いて、両手で頭を抱えた。
──ハネダさえ口をつぐんでくれれば、謝罪するにしても襲撃の件は行き違いで済む……
「そうだ!」
そこまで考えて、ピニャは思いついたように顔を上げ、声に出した。
──彼も男だ、ならば籠絡という手段も使えるはず。当のボーゼスかパナシュにやらせれば、あの2人に迫られて堕ちない男などいない!
ピニャは、そう考えに行き着くと、チリンチリン、と、使用人を呼ぶベルを鳴らした。
──ハネダ程度の男には惜しいが……帝国の命運がかかった重要な任務だと命じれば……
使用人がやってくる間、ピニャは幾分ぬるくなった紅茶に口をつけながら想う。
「御用でございましょうか?」
やがてやってきたメイドが、頭を垂れながら訊くと、
「ボーゼスとパナシュ……いや、その前にメイド長を呼んでくれないか」
ピニャは、当人たちを呼ぼうとして、その前に羽田の身を任せたメイド長を呼ぶことにした。老獪な面があるから、策自体にも提案があるかもしれない。
「畏まりました」
再び礼をしたメイドが出ていくと、数分してメイド長がやってきた。
「何の御用でございましょうか、殿下」
メイド長、ラム・エム・カイネは、表面的には皇女に敬意を表するように、やはり頭を垂れて、そう訊ねた。
「今、ハネダ殿はどうしている?」
「怪我と先日の戦闘から来る疲労のせいでしょう、よくお休みになっておられます」
ピニャの問いに、ラムは淀みなく答えた。
「そうか、実はな────」
ピニャは、ラムに自らの考えを打ち明ける。
「それは、うまくいきますでしょうか?」
しかし、ラムから返ってきたのは、懐疑的な言葉だった。
「ボーゼスはパレスティー公爵家、パナシュはフレギー男爵家の子女だぞ、どこに不満があるというのだ!?」
ピニャは、多少ムキになって、怒鳴り口調で訊き返す。
「ハネダ様はニホン国の士官でございます。帝国での身分はあまり意味をなしませんでしょう」
「う、そ、それは……」
ラムに指摘されて、ピニャは一瞬口籠ってしまう。
「しかし、それを抜いたとしても、あの2人の容姿はそれなりのものだぞ」
ピニャは反論する。
「それは否定しませんが、しかし、お二方はこの度のハネダ殿に対する暴行の首謀者でございます。あのような目に合わされたとあっては、どれほどの美女であっても
「う……」
ラムに言われて、それは考えていなかった、と、再びピニャは一瞬言葉を失ってしまう。
「ならば……騎士団で誰か適当な者はいないか?」
気を取り直したように、ピニャは訊ねる。
「そうですね、皇女殿下御自身、という選択肢もございますが──」
ラムの言葉に、ピニャはゴクリ、と喉を鳴らす。
「──流石にそういうわけには行きませぬでしょう。変な前例を作ってしまうことにもなります」
「そ、そうか……そうだな」
多少は覚悟を決めかけたピニャだったが、ラムの言葉に少しどもりがちになりながら言った。
「騎士様の中でしたら、スイッセス様が適任かと思われますが」
「スイッセスが?」
ラムの提案に、ピニャが反射的に訊き返す。
「はい、スイッセス様の容姿はニホン人に近いですし、それ故、暴行時の印象もそれほど残っていないのではないかと思います」
「なるほどな……」
ラムの言葉に、ピニャは顎に手を当てる。
──上官2人の失態の責任を取らせるのは酷かもしれないが、スイッセスも襲撃や暴行自体に無実というわけでもないしな……
ピニャは、苦く思いつつも決心する。
「分かった、スイッセスを呼んでくれ」