HARD MODE ~自衛隊 彼の地にて 斯く戦えり 作:神谷萌
完全に、魔が差したとしかいいようがなかった。
普段の羽田なら、とにかく誤魔化してその場は逃げようとしただろう。
あるいは疲労と負傷によって、一時的に性欲が返って増すという、所謂“疲れマラ”状態だったのかもしれない。
「ひとつ聞くけど、ここへ来たのは君自身の意志で?」
それでも一応、羽田は最初に問いかけた。
「はい、もちろんです」
かすかに震えながらも、スイッセスはそう答えた。
「うーん、そういうことなら……」
──据え膳食わぬは、男の恥って言うしなぁ……
「とりあえず、そんなに寒くないって言ってもそんなカッコじゃ風邪引いちゃうし、こっちへおいでよ」
「あ、ありがとうございます」
ぎこちない返事をして、羽田の誘うままにスイッセスはベッドに入っていき────
……
…………
……………………
「そ、その、私、どうでしたでしょうか……ハネダ様のお眼鏡にかないましたでしょうか?」
「え、あ、あぁ……もちろん」
事後に多少、冷静な思考ができるようになって、羽田は罪悪感を覚えてしまいつつも、そう言って、スイッセスの髪をなでた。
すると、スイッセスは顔を輝かせて上半身を起こし、
「そっ、それでは、此度の騎士団の不祥事の一件、お赦しいただけますか!?」
と、両手を握った状態で胸の前に添え、そう言った。
「へ……?」
羽田は一瞬、思考が詰まり、絶句してから、声を上げる。
「へぇえぇぇぇェェェーっ!?」
「な・ん・で・そんなミエミエのハニトラに引っかかってんですか、この変態エロ隊長!!」
「ぐ、ぐぇぇっ、
明け方、羽田の様子を見に来たモームからその状況を聞いた、富山ら第3偵察隊メンバーが羽田の寝室に乱入。
現在、九里林が羽田を胸倉掴んで〆あげているところである。
「落ち着いてください九里林さん、隊長、死んじゃいますよ」
蔵田がなだめようとするも、
「おう、死ね! 死んでしまえこの女の敵!」
と、九里林はさらに締め上げる腕に力を入れ、羽田の首をガクンガクンと揺する。
「待ってください」
更に九里林を制したのは、スイッセスだった。
「経緯はともかく、私の方からお誘いしたのは事実です、ハネダ様をそれほど責めないでいただけませんか?」
「えっ、なんて?」
まだ特地語が片言程度の九里林は、一旦ハネダを締め上げる腕の力を緩めつつ、ユノに視線を向けて訊ねた。
「ハネダには自分から誘いをかけた、ハネダは責めないであげてほしい、と」
「……うー、そうかもしれないけど…………」
九里林は、複雑そうな表情でそう言いつつ、羽田をつかむ力はだいぶ緩めた。
そんなやり取りをしているところへ、
「だいぶこじれているようだな……」
と、椚野が、ナイルや西を連れて入ってきた。
「
富山と畔は、自分たちだけではどうにも煮詰まっていたところへ、救いの神が現れたかのように、椚野の顔を見た。
「でも、どうしてこっちに?」
「あちらのメイドさんが知らせてくれたんだ」
富山の問に、椚野が背後を指すと、そこにパルナがいた。
「まぁ、羽田二尉に対する私からの“意見具申”は後でたっぷりするとして」
「あ、はい……」
老鬼軍曹から説教の予告をされ、羽田は引きつった苦笑を浮かべた。
「とりあえず、事情を確認させていただけませんか」
椚野は言い、ようやく九里林の手から解放された羽田と、スイッセスからユノを介して説明を受けた。
「たしかに、事態は深刻ですな」
椚野が言う。
「けど、これって厳密にはハニートラップにはならないんじゃないですか?」
西が言った。
「ん?」
富山が視線を西に向け、椚野も顔を向ける。
「政治家みたいに何らかの利益供与をしたって言うならマズイですけど、今回の場合、ボクらで知らぬ存ぜぬで通しちゃえばいいだけですよね?」
西はそう、提案するものの、
「いや、相手の不祥事、不利になる事実の類を隠蔽するのも立派な利益供与だぞ」
と、富山がそれを否定した。
「それに、この部屋であったことはともかく、羽田隊長が拉致されたことは、自衛隊の上の方にももう知られている。その上で不自然に隠し通すことは難しいぞ」
椚野も、険しい表情でそう言った。
西は、しゅん、としてうつむいてしまう。
同時に、富山と椚野の発言を、ユノに翻訳してもらったスイッセスが、怯えたようにして、羽田にすがるように体を寄せた。
「…………」
椚野は、それを見てふと気がついた。
「要するに」
それまで黙していたナイルが、発言する。
「“帝国”に対して、ジエイタイやニホン国の立場が悪くならないように、なおかつ穏便に済ませる事ができればいいのだな?」
「まぁ、そういうことですが……」
富山が、はっきりしない口調で言う。
「では、ここは私に任せてくれないだろうか?」
ナイルの提案に、椚野たちは顔を見合わせた。
「マズイだと!?」
開口一番、ピニャは驚愕の顔で、声を上げた。
「昨日殿下らがハネダ殿に仕掛けたことは、ニホンでは“蜜の罠”と呼ばれ、謀略として最低、唾棄すべきものの部類に入りますな」
ナイルは、つり上がってしまいそうな唇の端をなんとか抑えながら、そう言った。
「引っかかった方はもちろん、仕掛けた方にもかなりの悪印象がつきます」
ナイルはそう、追撃を加えた。
「それで……それが露呈すると、ニホンはどうするというのだ?」
呆然と仕掛けるピニャは、ようやく絞り出すように、身を乗り出すようにしながら訊ねた。
「ハネダ殿は処分は免れませんでしょう。しかし問題は帝国に対する扱いですな」
ナイルは、そこでフッ、と笑みを浮かべた。
「ハネダ殿はカンブコウホセイ、つまり帝国で言えば軍の上級士官、上級騎士の候補者としてジエイタイに入隊した者です。もし、そんな者に対して帝国第三皇女殿下が姦計を仕掛けた、などと知られれば……」
言うまでもない。軍、ジエイタイのメンツはまる潰れだ。加えて協定違反。現状がさらに、しかも劇的に悪化する可能性が高い。
「申し訳ありません、殿下……」
スイッセスが、直立不動ながら腰の前で手を組み、申し訳なさそうにしている。
「いや……お前に命じたのは私だ、お前がそのことで罪悪を感じる必要はない……」
ピニャはそうは言うものの、はぁ、と深くため息を付いた。
「ピニャ殿下、ハネダ殿の班は間もなくアルヌスの帰途につく予定だそうですぞ」
ナイルがそう言うと、ピニャの焦りに拍車が掛かる。
「それは困る、妾とハネダ殿で面談を、そ、それに、そうだ、彼の部下と騎士団で朝食を兼ねた親睦会を開いて……」
多少なりとも、帝国に対するイメージの悪化を避けようと、ピニャは提案するが、
「いや、実はハネダ殿はニホンの国民議会──帝国の元老院にあたるところですが、そこに、報告を求められているとのことで。これ以上時間の余裕がないとのことです」
と、ナイルはとどめを刺すように言った。
──元老院に報告!? そんなことをされれば我々がハネダにした仕打ちを全て知られてしまう!
協定違反に加えて悪質な姦計、そんなことがニホンの高官に知られれば、間違いなくジエイタイが動く。
──どうする……!
「ハネダ殿、妾もアルヌスに同道させていただけないだろうか!」
ピニャの出した結論は、これだった。
第3偵察隊は、仮設駐屯地から回してきた車両に乗車して、引き上げようとしているところだ。
羽田は、犯罪者が連行されるかのように、九里林に拘束されながら軽機動車に引っ張られかけていたが、そこにピニャが声をかけてきた形だ。
「今回の件、諸々の責任は妾にある。上級指揮官に、そのことを説明した上で、謝罪しておきたい」
毅然とした表情で、ピニャは言った。
「はぁ……」
羽田は、困惑気に言ってから、
「国会招致まで時間がないですし、ご覧の通り車両に余裕もありませんので……殿下と後お1人ぐらいでしたら……」
「了承、感謝する」
ピニャは、ハネダに向かってそう言うと、
「ハミルトン、妾の代行と代官の選任を任せる」
「へっ!?」
「ボーゼスとパナシュは、領内の治安維持を」
「はっ!?」
ハミルトンとパナシュは、一瞬、唖然として、間の抜けた声を出してしまう。
パナシュはすでに騎士団の略装姿になっているが、ハミルトンはまだネグリジェのままだった。もっともハミルトンは防衛戦での負傷が残っているので、本来ならそんなに早く叩き起こすつもりはなかったのかもしれない。
一方、羽田の方は、
──あれーっ
と、あっけにとられていた。
「良いんですか?」
椚野が、耳打ちするように聞いてくる。
「姫様が、護衛や従者なしじゃ、断ると思ったのになー」
羽田も、意外そうに言ったが、言ってしまった手前、今更ダメとも言えない。
「アルヌスは妾1人で行く!」
「おっ、お待ち下さい!」
力強く言ったピニャに対し、ボーゼスが即座に異議の声を上げた。
「元はと言えば我らの失態、そのために殿下1人敵地に行かせるわけには参りません!」
「どうか我々も同行を!」
ボーゼスとパナシュは、縋り付くようにしながら懇願する。
ピニャは、一瞬だけ逡巡してから、
「ダメだ」
といった。
「そ、そんな」
一瞬、ボーゼスとパナシュは、愕然とした表情になったが、ピニャは視線を上げると、
「スイッセス、お前が同行いたせ」
と、言う。
「はい!」
スイッセスは、表情を引き締めてそう言った。
「なぜスイッセスを?」
パナシュが、不満があるというより、普通に疑問に思ったという様子で、訊く。
「スイッセスは今回の当事者だからな、妾のアルヌスでのやり取りと、本人の認識が食い違っていると、消し炭から火が出る事態になりかねん」
「なるほど」
ピニャの説明に、パナシュは納得の声を出した。
「部隊長はパナシュとボーゼスだが、スイッセスは幼少の砌に騎士団を設立して以来の仲。信頼できぬとは言わぬであろう!?」
「もちろんです」
ピニャの言葉に、パナシュは即答した。
次に、ピニャは視線を上げて、羽田を見据えた。
「ハネダ殿、今身支度をするゆえ、しばし待っていただけるだろうか」
「あまり余裕はありませんが、10分か15分位なら」
「わかった。恩に着る」
ピニャは、羽田の答えを聞いて、そう言ってから、
「メイド長、妾とスイッセスの儀礼服の用意を頼む」
「かしこまりました」
そう言って、ピニャとスイッセスは、ラムや数名のメイドとともに一旦、屋敷の中に入っていった。
「ハネダ様、すみません、その衣装……」
「ん、あ、ああ」
手すきになったかと思いきや、モームが羽田に声をかけてきた。
「生憎、同じ柄の布がございませんで……」
騎士団に連行される際、ボロボロになった戦闘服の穴を、継ぎで塞いでくれたのだが、似たようなモスグリーンの布を当てているものの、元の迷彩柄とは明らかに違う。
「いえいえ、わざわざありがとうございます」
羽田は、笑顔でモームに例を言った。
そもそも、迷彩柄を年中在庫させている貴族屋敷とかその方がツッコミたくなる。
「ペルシアさん、パルナさん、また来ますから!」
蔵田は、軽機動車の運転席に収まろうとしつつ、振り返って、2人に手を振る。
「はーい、お待ちしてますニャー」
ペルシアが良い、パルナと一緒に手を降った。
そして……
「殿下……」
「う、うむ」
スイッセスとピニャの目の前に、リアゲートを開けた21式高機動車が後部を向けて止まっている。
多少気を利かせた結果か、普段軽機動車に乗っているユノとロゥリィ、それに羽田も高機動車に乗ろうとする。
見慣れない、奇妙な音を立てる鉄の荷車に、少し怯え気味に、おずおずと2人は乗り込み、ロゥリィとユノの反対側に乗り込み、その脇に畔がついた。
ナイルはいつもどおり27式MRAPに乗り込んでいる。
「隊長、塙三佐から連絡、『受け入れOK、丁重に案内せよ』」
運転席の富山が、助手席に乗り込んだ羽田に言う。
「了解。
羽田はそう言ってから、助手席の窓から腕を出して、サインを送りながら言う。
「前へ」
自衛隊に好意的なイタリカの市民に見送られながら、第3偵察隊の車列はその地を後にした。
──この身はグリフォンの口に飛び込むことになろうとも、今ジエイタイが動き出す事態はなんとしても阻止せねば……
悲壮なほどの決意を固めるピニャに、流れるような車窓はしばらく目に入っていなかった。
バタバタバタバタ!
「!?」
空気を叩くような激しい音で、ピニャは我に返った。
OH-1/G2が、訓練を兼ねた低空地形追従飛行での警戒をしている。
『3レコ、
『了解』
無線機から通信が流れてくる。
「殿下、アルヌスです!」
スイッセスが、車窓の外を覗いてそう言った。
「もうか!」
ピニャも驚愕混じりに、車窓の外を見る。
「あれは何だ……」
白い石のようなものでできた──ピニャ達にはそう見えるコンクリートの防壁に囲まれた、アルヌス駐屯地が丘の上に横たわっている。
「聖地とは言え、ただの丘だったはずだが……」
「麓を掘り返していますよ?」
重機の姿は見えなかったが、明らかに人為的に掘削した跡があるのは、スイッセスにも、ピニャにもわかった。
「いっちにっ、いっちにっ、いっちにっ」
「そーれ、連続詠唱ー」
「しょーしょーしょー・数えー」
第3偵察隊の車列が、ハイポート走中の隊列とすれ違う。
「!」
その姿に、ピニャが表情をしかめた。
「誰もがあの魔法の杖を持っている……これがジエイタイなのか?」
「ニホンには貴重な魔道士を大量に育成する方法があるのでしょうか?」
ピニャが呟くように言った言葉に、スイッセスが軽く驚いたようにしつつ言う。
「違うわ、あれは魔導ではなく、ジュウ、もしくはショウジュウと呼ばれる武器よ」
背後の窓から自衛隊員を見ていたピニャたちの後ろから、ユノがそう言った。
「武器!? それではあれは単体であの威力を持つというのか!?」
ピニャが、目を見開いてユノを振り返り、驚愕の声を上げた。
「殿下!?」
スイッセスが、ピニャの驚きようにかえって驚く。
「妾はイタリカで見た。あの杖のようなものがただ一度火を噴けば胸甲や盾などいともたやすく貫く。しかも薙ぎ払うように連続して撃つこともできるのだ……」
「そんなことが……」
実際に見たピニャは、少し顔を青ざめさせて言う。一方のスイッセスはまだ信じられないと言った感じではあるが、ピニャの様子から完全に否定もできずにいた。
「原理は簡単よ。爆発の現理を現す薬品を詰めた筒で、物体を弾き飛ばしているわ。普通は鉛を真鍮で覆ったものが使われているようね」
「武器であるなら、作ることができる、とすれば全ての兵に持たせることも……」
「そうよ」
自失しかけたピニャに向かって、ユノは追撃とばかりに言う。
「ニホン国はそれを実現した。試行錯誤しながら洗練させつつ、今に至っている」
「た、戦い方が根本的に違う……我々の戦意も、磨き抜かれた戦技も、“ジュウ”を前にしてはただ無意味なだけに違いない……」
「そうよ、私はまだ眼にしたことはないけど、ナイル殿下の話では、ほとんどの兵は敵の姿を見る前に斃れたと言うわ。帝国軍もそうだったでしょうね」
「…………」
ピニャは、しばし呆然としていたが、やがて表情は凍りつかせたままながら、その視線を畔の89式小銃に向けた。
「武器であるなら妾達にも使えるはず、戦況を一方的にしないためにも、一刻も早くジュウを手に入れねば……」
ピニャは、声に出さずに思ったつもりだったが、小声ながら呟いてしまっていた。
「その考えは正しいかもしれないけれど、帝国がニホン国に追いつくのは一朝一夕では無理よ」
ユノが言う。ピニャは、そこでようやく、自分が口走っていたことに気が付きつつも、
「どういう意味だ」
と、ユノに問いただした。
「あれを見て」
そう、ユノが車窓の外を示すと、
グォォォォォッ!!
ディーゼルエンジンの咆哮を上げて、10式戦車E型が、仮設の壕を乗り越えていく。
「ショウジュウの“ショウ”はニホン語で“小さい”の意味。だからその対になる大きい“ジュウ”が存在する」
「あ、あれが火を噴くというのか」
ピニャがさらに、驚愕の声をだす。
「そ、そんな、まさか!」
スイッセスが、信じられない、を通り越して、思考の限界を超えてしまったかのような表情になった。
「コダ村の連中が言っていた“鉄の逸物”の話、それにデュラン王やナイル姫の話からするに、むしろそうだと考えた方が正しい……」
「!」
呟くようなピニャの言葉に、今度はユノの方が眉間を少し引きつらせた。
「エルベ藩王国のデュラン陛下が、生きておられるの?」
ナイルからジルスチュアート軍とともに行動したエルベ藩王国の話を聞いていたユノは、ピニャに向かって問い返した。
「わからぬ……妾は話を聞くことができたが、その時もう虫の息だった……今も生きておられるかどうかまでは……」
「そう……」
ピニャは答え、ユノは小さくため息を付いた。
「鉄の天馬、鉄の象、あんなものを造れる者はドワーフの匠生にもいない! あれは正しく異世界の怪物だ!」
ピニャは戦慄の表情で言う。
「どうして、あのような者達が攻めてきたのでしょう……」
スイッセスが途方に暮れたように言う。
「殿下はもう知っているでしょう、“門”の向こうにはニホンの大都市がある」
ユノは、声を低くして言う。
「平和な市民が暮らしているところへ突然軍隊が押しかけてきて蛮行を振るう、マトモな国なら反撃するわ。いままでは帝国の方が強大だったからその意を通せた。今回も同じように、ネズミの尾だと思って踏みつけたら
「あなたは……」
スイッセスは、ユノの姿を改めて一瞥する。
「私はフォルマル伯爵領で育ったわ。だからフォルマル伯爵家には多少の縁を感じている。でも……帝国に対するそれを求められても期待に応えられるかは断言できない」
ユノは、低い声のままそう言った。
──帝国は国を支配すれども、人心は支配できず、か……
ピニャは、声には出さずに呟き、頭を抱えた。
「到着しました」
第3偵察隊の車列は、アルヌス駐屯地の正門から侵入すると、中央庁舎の前で一旦停止した。
「此処から先は、こちらの女性が案内いたしますので」
ピニャは促されて頷き、降り立った。
羽田が紹介した礼装姿の女性隊員に先導されて、会議室に案内された。
「殿下、何か策がお有りで?」
進められてソファに腰掛け、女性士官がお茶を淹れに一旦その場を去ると、スイッセスが問いかけた。
「正直どうしたものか考えている」
ピニャは、少し忌々しげな様子でそう言った。
「ハネダを個人的に説得することも考えたが、今回の経緯があらわになれば彼自身の地位も危うい。彼に頼ることはできぬ」
「それでは、私にお任せ頂けませんでしょうか?」
スイッセスがそう言うと、ピニャは軽く驚いたようにその顔を見た。
「何か、策があるのか?」
「はい」
スイッセスは、微笑んで言う。
「なかったことにしようとしたことを、なかったことにしてしまえばよいのでしょう?」