ベッドに横になって、ゴロゴロと過ごす。
別にサボっているわけじゃない。これでも、修行中だ。
何の修行かって? もちろん「念」の修行である。
ウイングさんが言っていただろ? 最も自然だと思うポーズをとれ的なことを。俺はそれを忠実に守って、ベッドの上で横になっているというわけだ。
意識を集中し、全身のオーラを体に留める――四大行の一つ「纏」。これにより、肉体は強化され、老化も抑えられるという。
実際、その効果は抜群だと思う。なにしろ、五歳児のこの俺が、森の中で一人きりで生き抜いているのだからな。
纏を維持したまま、体を起こす。そろそろ夕飯を調達しに行かないと。
木造の簡易な小屋から外へ出て、いつものように果物やキノコを探して森の奥へと足を踏み入れる。
二年前のことだ。俺はこの世界に転生した。
突然現れた神様が、「異世界に転生させてやる」と言い出した。しかも「チートを一つだけくれてやる」と。
そこで俺は、『HUNTER×HUNTER』の念能力を選んだ。どの世界に行くかはランダムだと聞かされていたから、汎用性の高い能力を選ぶのが得策だと考えたのだ。
目を覚ますと、そこは見渡す限り森。しかも、三歳児の体になっていた。
――神様、容赦なさすぎんだろ。
しばらくあてもなく森をさまよっていると、一軒の小屋を見つけた。誰も住んでいないようだったので、そこに住み着くことにした。
最初のうちは、「そのうち誰かが迎えに来てくれるんじゃないか」と期待していたが、二年経っても誰も現れない。もしかしたら、あの小屋自体が神様の配慮だったのかもしれない。
もっとも、念のおかげで生活自体に困ることはあまりなかった。纏をしているだけでも身体能力が格段に向上する。いまもこうして木に登り、リンゴを採っている最中だ。
五歳児にしては危険な行為かもしれないが、俺にとっては朝飯前。今日と明日分の食料を背中の籠に詰めて、木から飛び降りる。衝撃は、階段を一段とばして降りた程度だ。
本当に、念というやつは便利すぎる。
帰ろうとしたそのとき、茂みの奥から気配を感じた。
円を使っているわけじゃないが、森での生活が長いせいか、物音や気配に敏感になってきている。
籠を下ろして構えていると、茂みから何かが飛び出してきた。
「ピギーッ!」
聞きようによっては可愛らしい声。でも油断は禁物だ。これが意外と危険なのだ。
そう、そいつはスライム。見た目はまんま『ドラクエ』に登場するあのスライム。
どうやら、俺が転生した先は『ドラゴンクエスト』の世界らしい。すでに何度もスライムやオオガラスと戦ってきた。
幸い、この森には強いモンスターが出ない。いまスライムが体当たりしてきたが、痛みはほとんどない。
どこかの書物で「スライムの体当たりは金属バットのフルスイング並みの威力」と読んだ気がするが、纏を使っている俺の体にはほとんど通用しないようだ。
念を込めたパンチを叩き込み、スライムを吹っ飛ばす。そしてそのまま、小屋へと帰路についた。
早く帰って修行しなきゃな。
小屋を見つけてからというもの、俺はこの世界が『ドラクエ』だということを徐々に理解していった。
森を出る前に気づけて良かった。下手に遠出して、強モンスターに出くわしたら、念があっても絶対に死ぬし。
このあたりに出るのはスライムやオオガラス程度。おかげで、自然の恵みと安全な環境で、念の修行に集中できる。
俺はこの二年間、毎日念を鍛え続けてきた。まだ五歳児の身体ではあるが、今やかなりの力を身につけた自信がある。
毎日、食料を調達し、『纏』『練』『絶』を繰り返す生活。発をどうするかを妄想しながら過ごす日々だ。
とはいえ、一つ懸念がある。
この世界が『ドラクエ』のどの作品なのか、いまだにわからないことだ。
俺がプレイしたのは『Ⅲ』と『Ⅵ』だけ。しかも、ストーリーの細部はほとんど覚えていない。今が原作のどの時代なのかすら判断がつかない。
……正直、けっこう詰んでる気がする。
そもそも、主人公たちに関わるべきかどうかも悩ましい。下手に接触してゲームオーバーになられたら元も子もない。
でも、せっかく異世界に来たのなら――冒険してみたいというのが男の子の性ってやつだろ?
大きな町を見つけて、モンスターを退治して、英雄とか勇者とか呼ばれてみたい。
それに、ドラクエの女の子って、可愛い子が多かった気がするし……。
だから俺は決めた。主人公とは適度に距離を取りつつ、関係ないところで楽しく生きる。
そのためにも、もっと強くならなきゃな。
さあ、今日もさっさと家に帰って、念の修行だ!