「でっけえ町だなー」
パプニカの城を見上げながら、独りごちる。
さすが、この世界でも有数の大都市だけある。……知らんけど。
パプニカは、俺が住んでいるベルナの森から東の方にある。
ベルナの森の近くの町(名前は知らないけど、多分ベルナの町)から、だいたい6時間くらい走れば着く距離だ。
マリンやアポロたちと別れて、もう4ヶ月が経った。
そろそろ会いに行っても不自然じゃない頃合いだと思い、満を持してパプニカへやってきたわけだ。
「これなら日帰りもいけるか?」とか考えつつ、やっぱり疲れたので宿を探すことにした。
子供の見た目をしているせいで怪しまれるのを避けるため、少しもったいないが三人分の宿泊料金を支払い、両親は後から来ると伝えておいた。
部屋の鍵を閉めてしまえば、それ以上詮索されることもないだろう。
さて、マリンたちに会うには、どこに行けばいいのだろう。やっぱり城か?
でも、いきなり押しかけても門前払いを食らいそうだ。……しかし他に手段もない。とりあえず行ってみるか。
「坊や、どうしたんだ? 迷子かな?」
20代半ばくらいの若い兵士が、俺の頭を撫でながら話しかけてくる。
このクソガキ、俺より年下のくせに……馴れ馴れしく手なんか置いてんじゃねえ。
――いや、落ち着け俺。彼は仕事をしてるだけだ。
「あの、友達に会いに来たんですけど……多分、城の中にいる……」
尻すぼみになりながら、子供っぽく答える。
「お友達? お城の中でこの坊やぐらいの年っていうと、アポロ様かな」
「あ、そうそう。アポロです。他にもマリンと、エイミって子もいますか?」
「おお、未来の賢者様と知り合いだったのか。なら、ちょっと待っててくれよ。今から呼んでくるから」
30代後半くらいの別の兵士がそう言って、城の中へと入っていった。
「トーヤ! 久しぶりー!」
遠くからマリンが手を振りながら駆け寄ってくる。
「おう、久しぶり。約束どおり会いに来たぜ」
その後ろから、少し遅れてアポロも姿を現した。
「トーヤ、久しぶりだな。会えて嬉しいよ」
「あ、ああ。俺も……嬉しいよ」
何だコイツ……俺を攻略しようとでもしてるのか?
なんでこんなナチュラルに恥ずかしいセリフ言うんだ。
ひと通り挨拶を交わしたあと、俺は城の中へ案内された。ちなみにエイミはお昼寝中らしい。まあ、まだ3歳児だしな。
「部屋、でかっ! ここ、お前たちの部屋か?」
「ここは私たちが勉強する場所だよ。いつもここで、マリンとエイミと一緒に賢者としての知識を学んでるんだ」
「へえ〜。勉強部屋にしては豪華すぎないか」
「ねえねえ、それで、これからどうする? 城下町でも案内しようか?」
マリンは外に出かけたそうにしているが、俺には目的がある。遊ぶのは後だ。
「呪文を教えて欲しいんだけど、前に約束したろ?」
「なんだ、トーヤは魔法使いになりたいのか?」
呪文という言葉でアポロが勘違いをする。
「違う違う。ただ、呪文の契約ってやったことないから、ちょっと興味があってさ」
アポロに説明していると、マリンが背伸びをして本棚から分厚い本を一冊取り出した。
「はい、これが初級呪文の魔法陣が載ってる呪文書だよ」
おお……これがそうなのか。
初級のくせに、やたら荘厳な表紙してんな。いかにもって感じだ。
魔法陣を描くために、城の外へ出る。
アポロが手際よく魔法陣を地面に描き、俺をそこへ立たせた。
「そこに立って、祈りを捧げるんだ」
祈り? 何を祈るんだろうな。
とりあえず目でも瞑って、ポーズだけでも祈ってみるか。
すると――魔法陣が突然輝き出した。
「おお! 契約成功だ!」
あ、そうなんだ。
……特に何もしてないし、実感もないけどな。
「これは何の呪文なんだ?」
「メラだ」
メラか。まあ、基本中の基本だよな。
「もう使えるの?」
「ああ。あそこの練習用の丸太に向かって唱えてみて」
アポロが庭の方にある、地面に突き立てられた丸太を指さす。
「オーケー。それじゃあ――メラッ!」
……無反応。
「メラァ!」
……沈黙。
「……契約、失敗してね?」
「そんなはずはない。魔法陣はちゃんと反応していたし、あとは練習次第だよ」
本当かよ。
「ねえ、他の呪文も契約してみたら?」
横で見ていたマリンが、呪文書の別のページを開きながら提案してきた。
「お、そうだな。とりあえず契約だけしておこう」
練習なんて後でいい。今は契約が最優先だ。
――結果から言うと、俺が契約できたのはメラだけだった。
攻撃呪文も回復呪文も、全部ダメ。……俺って、才能ないのかもしれん。
「元気出して。戦士だったら、メラですら契約できないんだよ?」
マリンが慰めの言葉をかけてくれる。
ええ子や……でも結果は変わらんのやで。
「ほら、トーヤは闘気を使って戦うんだから、魔法なんて使えなくても大丈夫だよ」
「それはすごいな……! トーヤは闘気を使えるのか? パプニカの兵士にだって、使える者はいないのに」
闘気って、もしかして霊丸のことか?
そういえば、この世界の戦士は闘気を使うんだったな。
「マリンは、いつ見たんだ?」
「前に迷子になったとき、グリ……モンスターが出たときに見たの。すごい威力だったよ」
マリンは一瞬「グリズリー」と言いかけたが、口止めされていたのを思い出したのか、すぐに言い直した。
「よければ見せてくれないか? 本でしか知らないんだ」
「まあ、いいけど」
俺は人差し指に意識を集中し、丸太に向ける。
「霊丸ッーー!」
人差し指から放たれた霊丸は、直径70センチほどの巨大な弾となり、すさまじいスピードで一直線に突き進んだ。
丸太を貫いた霊丸は、勢いをまったく落とさず、そのまま轟音と共に――城壁を粉砕した。
「……あ」
呆然と立ち尽くす俺。マリンもアポロも、声も出ないまま固まっている。
次の瞬間、その爆音に驚いた兵士たちが騒然とし、中庭へと駆けつけてきた。
城の中からも続々と人が集まり、人だかりができた。
――正直、泣きそうです。