ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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104 魔を切り裂く

 ミストバーンが静かに構えを取ると、闇がうねるように彼の周囲を包んだ。

 その右手に握られたのは、バランの手に馴染んだ竜の騎士の剣――あらゆる金属を貫く、神造の刃だ。

 

「鍛冶師風情が、この私の相手をするつもりか?」

「鍛冶師風情、か……」

 

 ロン・ベルクが口元をわずかに歪める。

 

「そう言うわりには、随分と用心深いじゃないか」

 

 圧倒的な力を誇るミストバーンだったが、彼はロン・ベルクを軽んじてはいなかった。

 いや――むしろ、内心では強く警戒していた。

 

 剣士としての実力はもちろん、その目に宿る冷静な闘志。どれほどの力を見せつけられても、なお一歩も退かぬ姿勢。

 それが、ミストバーンに“真魔剛竜剣”を抜かせたのだ。

 アバンたちとの戦いでは解放することのなかったその刃を、今、ロン・ベルクに対しては解放せざるを得なかった。

 

 次の瞬間、ふたりの剣がぶつかった――いや、ぶつかり合ったというより、すれ違った。

 速度が違いすぎた。ミストバーンの一撃は、一瞬でロン・ベルクの防御を抜け、彼の肩口を裂いた。

 

「く……っ!」

 

 ロン・ベルクが後方に跳び退く。血が飛び散る。しかし、その顔に焦りはなかった。むしろ……笑っていた。

 

「さすがに速いな。だが……」

 

 両手に握る双剣。その片方の刀身が、かすかに黒い靄を滴らせていた。

 ミストバーンの纏う闘気を“斬った”痕だ。

 

 だが、その意味に気づく者はいない。ミストバーンすら、その現象を一瞥しただけで、再び静かに構えを取る。

 

 次の瞬間、二人の姿が視界から掻き消える。

 空気が裂けた。地面がえぐれた。数合の交差が、わずか数秒のうちに繰り返される。

 

 ロン・ベルクは受け流す。斬り返す。回避する。だがそのすべては、ほんの紙一重だ。

 一撃でも躱し損ねれば死ぬ――それほどまでに、ミストバーンの速度と破壊力は常軌を逸していた。

 

「……どういうつもりだ」

 

 ミストバーンがわずかに眉をひそめる。

 ロン・ベルクの動きには、一点の無駄もない。極限まで研ぎ澄まされた剣筋。だが、その斬撃のすべては――ミストバーンの体ではなく、握られた真魔剛竜剣へと向けられていた。

 

 尋常な剣士であれば、敵の武器を狙うなど愚策である。

 だが、ロン・ベルクはその常識を持ち合わせていない。鍛冶師である男の渇望は常に昔からただひとつ。

 

「お前の力は、確かに脅威だ……だがな――俺の狙いは、貴様じゃない」

 

 双剣の一つが、火花を散らしながら真魔剛竜剣とぶつかる。

 重い衝撃音――だが、打ち合ったのは“剣同士”だ。

 

 再び交錯。刃が閃き、軌跡を描く。

 ロン・ベルクの斬撃は、人間の急所ではなく、真魔剛竜剣の刀身を執拗に狙い続けていた。

 

「……ふん。剣を折るつもりか?」

 

 ミストバーンの声音に嘲りが混じる。

 それもそのはず。真魔剛竜剣――神々の技で鍛えられたその剣は、ロン・ベルクが”百年以上も追い求めてやまなかった究極の武器”だ。

 

「無理だと知りながら、何故狙う」

 

 ミストバーンの問いに、ロン・ベルクは口元を歪める。

 それは笑みとも、苦痛ともつかぬ表情だった。

 

「昔の俺なら、確かにそうだったろうな……だが今の俺には――“あいつ”から受け取ったものがある」

 

 そう言って、ロン・ベルクは手にした双剣を握り直す。

 その刀身の一方が、わずかに黒く揺らめく。風に舞う靄のような、不思議な“力”を帯びながら。

 

 そして――斬る。真正面から、正面突破で。

 

 再びぶつかる、剣と剣。

 凄絶な火花。唸る空気。そして、その刹那――甲高い音が戦場を切り裂いた。

 

 ミストバーンの右手が、わずかにぶれた。真魔剛竜剣の刃が……一瞬、震えたように見えた。

 ミストバーンの目が、わずかに見開かれる。

 

「……何だ、今のは……」

 

 ロン・ベルクの目は、静かに燃えていた。

 

「これが、“あいつ”に勝つために鍛え上げた剣だ」

 

 

 * * *

 

 

 かつて、トーヤと剣を交えた日――それは、何気ない勝負のはずだった。

 

 ロン・ベルクは、鈍ってこそいたが己の鍛えた刃にそれなりの自信を持っていた。

 対するトーヤは、一本の木刀を手にしただけの少年。呪文も技も使わず、ただ構えを取る。

 

 ――挑発か?

 

 そう思った瞬間から、ロン・ベルクは熱くなっていた。

 自分の鍛えた剣を、たかが木刀で受け止めようとする無謀さが許せなかった。

 容赦なく斬りかかった。何度も、何度も、木刀めがけて打ち込んだ。

 

 だが――折れなかった。

 

 木刀は軋みながらも、斬撃に耐え続けた。

 やがてトーヤの腕から木刀が滑り落ち、地面に転がる。

 

「剣を手放してしまっては負けを認めざるを得ませんね」

 

 その言葉は静かだった。挑発でも嘲笑でもない。――ただ、淡々と、事実を述べただけ。

 だがロン・ベルクの胸に走ったのは、激しい怒りだった。

 

 (ふざけるな……!)

 

 斬れなかったのは俺だ。木の棒一つを、鍛え上げたこの剣で。にもかかわらず、何故こいつが敗者のような口を利く……!

 

 怒りは瞬く間に、熱となり、心の奥底を焼いた。だが次の瞬間、その熱が崩れ落ちた。

 音もなく――自分の中の何かが、崩れ落ちたのを感じた。

 

 (……違う)

 

 あれは、嘲りなんかじゃなかった。そのことに気づいたのは、ずっと後のことだった。

 

 

 

 ――ダイが、あの剣を折ったと聞いたとき。

 

 真魔剛竜剣。

 自分が百年以上も追い求め、届かず、越えられなかった“理想”。

 神々が鍛えた究極の刃を、ダイは折った。――ロン・ベルク自身が鍛え上げた剣で、真正面から、堂々と。

 

 ダイの剣を完成させたとき、ロン・ベルクの胸には歓喜があった。剣職人として、これ以上ない満足。魂が震えるほどの誇り。

 だが同時に、ぽっかりと空虚が広がった。

 

 (……もう、やることは終わったのか?)

 

 そう思った。

 ――だが。

 

 ……違う。まだだ。

 まだ、ロン・ベルク自身の手で超えていない。“あいつら”に負けるわけにはいかない。

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