ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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106 真の友

 乾いた地に、誰のものとも知れぬ血が滲んでいた。

 焦げた空気の中、魔力の残滓が風に溶けてゆく。

 

 その中心には、血に濡れ、荒い息を吐きながら、立っているのが奇跡としか思えないほどの姿――ポップがいた。

 それでも彼は、立っていた。いや、“立たねばならなかった”。

 

 対するダイは、静かに剣を構えるのみ。

 その眼差しには、かつての仲間への情など一欠けらもなく――冷たく、ただ殺意と闘気だけが宿っていた。

 

「……限界だろ、ポップ」

 

 ダイの声は凪のように穏やかで、だからこそ恐ろしかった。剣を振るうことに、何の躊躇いもない者の声だった。

 かつての優しさは微塵もない。そこにあったのは、ただ“力”という名の冷酷な意志だけ。

 

 ポップは肩で息をしながら、にやりと口元を歪める。

 その瞳に、怯えはなかった。恐怖も、絶望も――迷いさえも。故に――彼は、足を引かず、ただ一歩前へと踏み出す。

 

「……そんなこたァ……こっちが一番、分かってらぁ……」

 

 彼は、ふるえる手が小さく火花を灯す。

 魔力も、体力も、ほとんど残っていない。けれど、たった一つ――“諦めない心”だけが、まだそこにあった。

 

 ポップの指先に、再び五つの小さな火球が灯る。

 それはもはや魔法ではない。自らの魂を削り、命を削って放つ“叫び”だった。

 

「フィンガーフレア――ボムズッ!!」

 

 轟音とともに炸裂する五連の爆炎。

 ダイはそのすべてを、眉ひとつ動かさず正面から受け、闘気の剣で斬り払う。

 

「……分からないな。どうしてそんな無駄な戦い方をする? なぜメドローアを使わない。お前は……もっと頭の切れる奴だったはずだろ、ポップ」

「頭が良い奴なら……こんな戦い、選ばねぇよ。けど俺は、バカだからな。……こんな状態になっちまっても、目の前の“お前”が大魔王を倒してくれるって……勇者だって信じてるんだよ」

 

 ダイは立ち止まり、剣を肩に担ぎ直すようにしながら、わずかに首をかしげる。

 

「信じる? こんなに醜く焼け焦げた世界で、まだそんな幻想を見ているのか。……そんな“言葉”で、俺の心が戻るとでも?」

「言葉だけじゃねぇよ……フィンガーフレア――ボムズッ!!」

 

 今度は、立て続けに三連撃。

 その爆炎のなかに、ポップのすべてが込められていた。

 

 ダイは動じない。剣を振り、爆炎を斬り裂く。だが――その瞳に、微かな“揺れ”が走る。理屈では説明できない“何か”が、心の奥底に滲んでくる。

 倒されても、倒されても。ポップは決して諦めなかった。

 

 これだけの力量差を見せつけられてなお、彼はメドローアを使わない。ダイを倒すためではなく――“取り戻す”ために戦っているのだ。

 その事実に、ダイの中で、何かが静かに芽吹いていた。彼の心のどこかで、言葉にならぬ“敬意”が確かに生まれていた。そして、気づいてしまう。自分が今、彼に――ポップに――心を動かされつつあるという、恐ろしい事実に。

 

 ――全力で殺さねば。情けをかけるのは、ポップに対する裏切りだ。あいつの覚悟を、否定することになる。

 

「……裏切り……?」

 

 ダイは、誰にともなく呟いた。

 その言葉は、自分の口から零れたはずなのに、どこか遠くの誰かが語ったような響きを持っていた。

 

 裏切っているのは――誰だ? ポップか? 仲間たちか? それとも――自分自身か?

 

 わずかに、剣を握る手が震える。

 その瞬間だった。

 

 突如として、胸の奥を――“何か”が貫いた。

 ズシン、と地の底から響く衝撃。

 まるで、大地そのものが断ち切られたかのような、絶望のうねりが心を襲う。

 

 闇の中で、確かに感じていた――バランの気配が、消えた。

 

「……と、父さん……?」

 

 ぽつりと落ちたその言葉は、炎や雷にも勝るほどの衝撃を、ダイの心に与えた。

 父の死。それは、感情を押し殺してきた彼の心を、容赦なく引き裂く楔だった。

 

 思考が追いつかない。痛みの理由を脳が否定しようとする。

 だが、魂が叫んでいた。……失ったのだ、と。

 

 闘気の剣が、かすかに揺れた。

 それはダイの心そのものが揺れている証だった。

 

「……ダイ?」

 

 荒い息の合間に、ポップがその名を呼ぶ。さっきまで無意味だったはずの“呼びかけ”が、今は確かに――届いた。

 ダイの瞳が微かに揺れ、見えない何かを追うように、遠くの空を仰ぐ。

 

 だが次の瞬間――

 ダイの全身から、制御を失ったかのように凄まじい闘気が噴き上がった。

 

 空気が軋み、地面が割れる。

 その身に宿る力の奔流が、怒りと悲しみを呑みこんで暴走を始める。

 

「……う、あ……あああああああッ!!」

 

 咆哮とともに、ダイの瞳が赤く染まり、再び剣を構えた。

 その刃先は――もう、明確にポップの命を奪うために向けられていた。

 

 ポップの背筋を冷たいものが走る。だが、逃げる気はなかった。

 

「……そうだよな。バランを……親父さんを失って、平気でいられるわけがねぇ……!」

 

 ダイの剣が振り上げられる。

 殺気とともに、地を裂き空を穿つ、災厄の一撃が迫る。

 

 だが――ポップは、動かない。

 

 両足で地を踏みしめ、真正面からダイを見据えた。

 

「だけどよ、ダイ……! お前は“こんな形”で親父さんを忘れるような奴じゃねぇッ!」

 

 ――ダイの剣が振り下ろされた。

 

 天地を割るかのような衝撃。

 斬撃はポップの全身を呑みこみ、周囲一帯を爆風で吹き飛ばす。

 

 だが――その爆煙の中。

 

 まだ立っていた。

 

 ――ポップは、まだ――立っていた。

 

 血まみれの顔で、ボロボロの体で、それでも――折れてなどいなかった。

 

「……お前は……誰よりも優しいやつだろ……! 自分を殺すようなこと、しちゃダメなんだよ……!」

 

 ポップの拳が震える。

 その手の中に――ひときわ強い魔力が凝縮されていた。

 

 自らの命を削りに削って、残る力の全てを注いだ最後の一撃。

 

「うおおおおおおおおッ!! フィンガーフレア――ボムズゥッ!!!」

 

 放たれる、渾身の呪文。

 

 それは“炎”ではなかった。それは”未来”へと繋ぐ”希望”だった。

 ダイを救い、未来へ導くためのポップからの贈り物。

 

 五発の閃光が、ダイの正面から直撃する。

 

 だが、ダイは止まらない。

 灼熱の炎を纏ったまま、その力をそのまま剣に乗せ、全身全霊の一撃を――ポップに向けて、振るい下ろした。

 その瞬間だった。

 

 キィィィィィン……ッ!!

 

 乾いた、ひとつの音。

 闘気を帯びたダイの剣――その刃の半身が、砕けた。

 

「……ッ!?」

 

 ダイの目が見開かれる。

 “ダイの剣”は、ダイ自身の魂を映す鏡。すなわち――砕けたのは、彼の“心”だった。

 

 その震えが、瞳に現れる。

 張り詰めていた闘気が、音もなく消えていく。

 

 ポップが、かすれた声で呟いた。

 

「……やっと……届いたかよ、バカ野郎……」




バーンは当初、アバンにダイをぶつけると考えてましたが、ポップが割り込んできました。
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