ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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107 放心

 剣が砕けた衝撃と共に、ダイの身体から闘気が抜け落ちた。

 力を失ったその腕が、ゆっくりと下がる。

 

「……ポップ……?」

 

 口からこぼれたその名に、返事はない。

 燃え尽きたように、地に伏しているポップの姿。その光景が、胸の奥に鋭く突き刺さる。張り裂けるような痛みが、耳の奥で鈍く響いた。

 

 わけがわからない。けれど、理解していた。――自分が、彼を傷つけたのだと。

 その事実に、心が追いつかない。

 

 ポップは、命を賭けて自分を止めようとした。諦めず、信じ続けてくれた。

 最後の最後まで、“戻ってこい”と語り掛けてくれた。それなのに――自分は剣を振りかざし、命を奪おうとしていた。

 

 ダイの膝が、崩れるように地を打った。

 ぼうっと、頭が白くなる。何も考えられない。ただ、視界の中心でポップが倒れている――それだけが現実だった。

 

「……どうして……」

 

 誰にともなく、呟いた。

 

 震える手で、ダイは地面に手をついた。土の感触も、風の音も、どこか遠い。

 時間が止まったようだった。世界が、自分ひとりを置いて、静かに沈んでいく。

 

 嗚咽が漏れた。自分のものとは思えないほど、脆く――幼かった。

 

 

 +

 

 

 遥か遥か上空――人知の及ばぬ高み。雲さえも見下ろすその場所に、ひとつの玉座があった。

 虚空に浮かぶ黒曜の玉座。その上で、大魔王バーンは静かに微笑んでいた。

 

 その眼下には、地上の戦場。

 バランが倒れ、ダイとポップが死闘を繰り広げ、命を賭して足掻く様が――まるで芝居の一幕のように繰り広げられていた。

 

「フフ……なんと愉快な光景だ」

 

 バーンの声は、風よりも冷たく、星の光よりも遠い。

 彼の目には、地上の命の営みなど、塵にも等しい。だが――だからこそ面白い。

 

 力ある者が、力ある者と争い……弱き者が、運命に抗おうとする。まるで、自らの破滅に手を伸ばしているかのよう。

 

「――だが、良い。お前たちは踊れ。最後の一幕まで、せいぜい、見事に」

 

 その眼差しは、どこまでも冷酷で、それでいて――まるで何かを期待するような微かな熱を孕んでいた。

 空は静かだった。風ひとつ吹かず、ただ、大魔王の気配だけが、世界の重力を歪めていた。

 

「……ダイ。お前が、真に“勇者”ならば……余を退屈させてくれるなよ」

 

 故に舞台は整えよう。新たなる駒によって。

 

 バーンの手が、玉座の脇に据えられた漆黒の石盤へと伸びる。

 それは、まるで将棋盤のように、いくつもの“点”を刻んだ魔法陣。指先が、ひとつの場所をなぞる。

 

 すると、応じるかのようにバーンパレスの外縁から、4つ“駒”が音もなく飛び立った。

 

 

 +

 

 

 空を裂くようにして、閃光が四条――大地へと吸い込まれていった。

 

 咄嗟に空を仰いだクロコダインの眼が、鋭く細められる。

 

「レオナ姫! 敵がきたようだッ!」

 

 クロコダインの声に、周囲が一斉に動いた。

 ここは、かつてのパプニカ王国の城跡を基盤とした臨時アジト――今や、ダイ不在の戦場で全軍を統率するレオナ姫の司令本部である。

 

 姫のもとには、クロコダイン、北の勇者ノヴァ、残存部隊のリーダー格たちが集い、各地へと向かう戦力配分の調整が行われていた。

 それを狙いすましたかのような、唐突な“来訪者”。

 

「全戦闘要員、配置につかせて! これは――ただの威嚇じゃない!」

 

 彼女の号令が飛ぶと同時に、地面が震えた。

 四方――まるで座標を定めたかのように、四体の影が爆風とともに姿を現す。

 

 硬質な金属音が響く。地を踏みしめた足元にはひび割れが走り、銀色の肌が太陽の光を鋭く反射する。

 その異形の姿に、クロコダインが低く呻いた。

 

「……ハドラー親衛騎団……!?」

 

 その名に、レオナの目が見開かれる。かつてダイたちが死闘を演じた、あの親衛騎団。

 だが、彼らはハドラーと共に――己の誇りと共に果てたはずだった。

 

 先頭に立つのは、白銀の髪をなびかせた冷艶な女戦士。

 彼女の瞳には、もはや人の情は宿っていない。

 

「私たちは死んでいません。ハドラー様も……。そして今は“バーン様”の命によりここへ来ました。新たなる使命のために」

 

 アルビナス。かつて誇り高き忠義を宿した“銀の女王”。

 その姿は変わらずとも、今や彼女の声には、ただ冷酷な使命感だけがこだましていた。

 

「任務はひとつ。指揮中枢の壊滅。すなわち――あなた方の排除です」

 

 その言葉と同時に、残る三体も静かに前へと歩を進める。

 槍を携えた騎士・シグマ。鋼の拳を握り締める戦士・ヒム。かつての巨体を脱ぎ捨て、異様な俊敏さを宿す痩身へと変貌した・ブロック。

 

 重たい沈黙のなか、クロコダインが一歩、前に出た。

 

 鋼の腕がうなりをあげ、大地を踏み鳴らす。その動作一つで、空気が揺れた。

 アルビナスが冷ややかに目を細める。

 

「ひとりで、私たち四人を相手にすると言うのですか? 無謀というよりも浅はかな判断ですね。あなた程度では戦いにすらーー」

 

 言葉が終わるより早く、クロコダインの体から爆発的な闘気が解き放たれた。

 衝撃波が、嵐のように四人を襲う。

 

 反応する間もなく、親衛騎団は全員、数十メートル後方まで吹き飛ばされた。土煙と瓦礫が舞い上がり、木々がへし折れる。驚愕すべきはその速力。およそ速いなどと表現できる域をはるかに超えていた。

 

「……今のは、いったい……?」

 

 アルビナスが地を這うようにして体勢を立て直す。

 

「ハドラーは、誇りを持って戦った男だった。己を貫き、命を燃やし尽くして、バーンへ抗い戦った。朽ちていく姿を……あの最期を、間違いなく見届けた。……お前たちが本当に、あのハドラーの魂を継ぐ者なら――よくも“バーン様”などと口にできたものだな」

 

 クロコダインの声には、かつて敵だった者への深い敬意があった。

 その言葉に、無言のまま、ヒムが歯を食いしばる。その隣で、シグマもまた眉間に皺を寄せていた。怒りではない。

 

 それは、己の選択への迷いだった。

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