ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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108 忠義

 ハドラーがバーンに敗れ、灰となって崩れ落ちる――その姿を、ただ見届けることしかできなかった。

 その時のことは、よく覚えていない。ただ、主の無念と悲しみに打ちひしがれるばかりだった。

 

 気がつけば、彼ら四人――親衛騎団は、漆黒の玉座の間に立っていた。

 圧倒的な威圧と、肌を焼くような熱を孕んだ空間。その中心に、絶対の存在がいた。

 

「……この者が、貴様らの“主”であった男だ」

 

 玉座を覆う天蓋の奥から、大魔王バーンの声が響いた。

 次の瞬間、床に魔法陣が浮かび上がり、その中心に現れた水晶球が、ひとりの男の姿を映し出す。

 

 崩れかけた肉体。焼けただれた肌。

 だが、その表情には、かすかに笑みすら浮かんでいるようにも見えた。

 

 ――ハドラー。

 

 それは、すでに戦いを終え、もはや死を待つばかりの男の姿だった。

 

「……ハドラー様……!」

 

 ヒムが膝をつき、叫ぶ。その声に、映像の中のハドラーは微動だにしない。

 ただ目を閉じ、まるで安らかに眠るように――。

 

 バーンは、ゆったりと玉座から立ち上がった。

 

「此度も命を与えたのは余。誇りを与えたのは、貴様らが言う“絆”とやらだ。だが――命なき誇りに、果たして何の価値がある?」

 

 バーンが水晶球に手をかざすと、ハドラーの胸が大きく上下し、苦しげな呼吸音が響いた。

 

「……どういう、ことだ……?」

 

 シグマが低く呻く。

 

「簡単なことだ。この者の命は、いまや余の手中にある。生かしてほしくば、力となれ――それだけの話よ」

 

 ブロックが声を荒らげた。

 

「卑劣な! そんなやり方で、我々の忠義を得ようと――!」

「忠義など要らぬ。余が欲するのは、ただ“力”のみ。従うか、拒むか――選べ」

 

 バーンは冷徹に言い放った。あまりにも残酷で、理路整然と。

 

 ヒムは目を伏せ、震える拳を握りしめた。

 ――我が主が、敵に利用されてまで、生きながらえることを望むはずがない。

 

 だが、答えはなかった。

 バーンはそれ以上、何も語らせず、映像を断ち切った。

 

 ただ、沈黙だけが残された。

 

 

 +

 

 

 激しくぶつかり合う拳と拳。地鳴りのような衝撃が、大地を揺るがした。

 

 静かに始まったはずの死闘は、すでに苛烈を極めていた。

 四対一という絶望的な状況にもかかわらず、クロコダインはその圧倒的な剛力と闘気によって、敵を寄せつけすらしなかった。

 

 獣王会心撃。

 それは、竜巻のごとく渦巻く闘気を前方に放ち、その衝撃波で敵を吹き飛ばし、肉体ごと引き裂く破壊の一撃である。

 さらにこの技は、渦の回転方向を逆転させることも可能。かつての戦いでは、正逆の二つの渦をぶつけ合わせ、敵を挟み込むようにしてねじ切ることで、オリハルコンの肉体すら破壊してみせた。

 

 しかし、クロコダインの獣王会心撃は、最前線で通用するには、なお一歩及ばなかった。

 闘気の制御と放出という、二つの要素を同時に極限まで高めるには至っていなかったからである。

 

 そこで、クロコダインはあえて片方を切り捨てた。

 両立を目指すのではなく、特化という道を選んだのである。

 

 そして完成したのが「速度」に特化した獣王会心撃だった。

 闘気を渦巻かせる工程を極限まで簡略化し、回転による破壊力ではなく、直線的な爆発力――すなわち圧縮した闘気を瞬時に解き放つことで生まれる“初速”にすべてを賭けた一撃である。

 

 攻撃の威力そのものは従来より遥かに劣るが、闘気が放たれてから対象に届くまでの“時間”はほぼゼロに等しくなった。

 事前動作の読み取りが不可能なほどの速さで放たれるこの技は、たとえ親衛騎団のような超反応を誇る戦士であっても、回避や防御の判断すら間に合わない。

 

 “削る”技ではなく、“止める”技。敵の行動を封じ、隙を作り出すための一撃。

 

 クロコダインの獣王会心撃は、ここにきてひとつの完成をみせた。

 

 獣王会心撃が放たれた次の瞬間、ヒムはまるで時間から取り残されたかのように動きを止めた。

 ――速い、などという生易しいものではない。

 

 直線の一撃。余計な弧を描かず、ただ一直線に走った圧力は、近接戦闘と反応速度に自信を持つヒムですら、まったく対応できなかった。

 防御も回避も、あらゆる選択肢が“可能性”として形を成す前に、闘気の奔流に吹き飛ばされていた。

 

「……チッ、マジかよ」

 

 ヒムは舌打ち混じりに呟く。

 悔しさではない。驚愕でもない。こみ上げてくるのは、熱――興奮だった。

 

 この戦いには、ハドラーの命が懸かっている。

 絶対に負けられない。どんな手を使ってでも、勝たなければならない。それなのに――。

 

「たまんねぇな、クロコダインの旦那ァ……!」

 

 気づけば、拳を握りしめていた。

 目の前に立つ獣王の気迫と技の進化に、闘志が沸き上がる。敵の成長が、自分の奥底に眠る“戦士としての本能”を刺激する。

 

 どんなに大義があろうと、仲間の命が懸かっていようと、この高まりは抑えきれない。

 それが、ヒムという男が「戦士」として生きる宿命なのだ。

 

 その隣で、シグマがふっと口元を歪める。

 

「……まったく、困った男だな」

 

 そう言いつつも、その瞳も静かに燃えていた。

 敵の成長に熱くなるヒムの背中に、自らの高ぶる心が呼応するのを感じていたのだ。

 

 シグマは静かに構え直す。ヒムに対する共鳴。それは、ヒムのような“戦士”としての衝動ではなかった。

 

 シグマは誇り高い騎士であり、この戦いに大義があるわけでも、純粋な誇りを持って戦っているわけでもない。

 それがわだかまりとなっていた。……ただ、今のヒムを見て、彼は自らの底に潜む不安定さが少し拭われたような気がした。

 

 そんな二人を見て、ブロックは戦いの手を止めた。両足をしっかりと大地に踏みしめ、深く息をつく。その動きは、どこか余裕と達観を感じさせるものだった。アルビナスはその異変に気づき、眉をひそめて彼に目を向ける。

 

「ブロック、どうしたのです……?」

「……やはりな。こうなる気がしていたよ、最初から」

 

 曖昧に笑いながら、ブロックはぽつりと答えた。

 

「どういう意味ですか?」

 

 アルビナスの問いに、ブロックはしばし無言で目を閉じ、静かに息を吐く。そして、ゆっくりとヒムとシグマの方を振り返った。シグマは小さく目を細め、ヒムは一瞬きょとんとした後、ニヤリと笑った。

 

「お前らがどう動こうと止める気はねぇ……だけど」

「その時は、ちゃんと“覚悟”を決めろ――」

 

 ブロックの言葉に、ヒムがまるで続きを代弁するかのように重ねる。

 ふたりは目を合わせ、笑った。




ブロックを活躍させたい
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