「……いったいどういうことだ?」
クロコダインは目の前の奇妙な空気に困惑の声を漏らす。
敵であったはずのブロックが手を止め、ヒムとシグマが笑い合っている。緊張が解けたわけではないが、殺気はどこか方向を変えていた。
ヒムが拳を握りしめ、前に出る。
「感謝するぜ、クロコダイン。あんたとぶつかったおかげで、ハッキリした」
「今、戦うべき相手は、もっと他にいる」
シグマも静かに言葉を継ぐ。
クロコダインはしばし沈黙し、ふたりの顔を順に見やった。
「……まさか、お前たち……共闘を、望んでいるというのか?」
「ああ……俺たちは、守りたいのさ」
アルビナスは、主の命を。
ヒムは、主の意志を。
シグマは、騎士としての誇りを。
そしてブロックは――仲間たちの心を守りたかった。
そのやりとりを見届けながら、アルビナスはそっと目を伏せた。
「……ヒム、シグマ。あなたたちは……」
抑えきれない感情が、囁くような声に滲む。
最初から、どこかでわかっていた。――嫌な予感は、確かにあった。
「……ですが、それがあなたたちの“誇り”であり、“意志”だというのなら――私もまた、それに応えましょう」
瞳を開いたアルビナスの声は、澄んでいて静かだった。
そしてそれは、かつての仲間に向けられた“敵”としてのものだった。
長く伸びた指先が空を切り、風を裂く。その姿は、どこまでも美しく、そして凛としていた。
「元仲間として、情を残すつもりはありません。あなたたちは――この手で破壊します」
その言葉に、ヒムもシグマも一言も返さなかった。
ただ、目を逸らさず、まっすぐにその覚悟を受け止めていた。
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ブロックは、誰よりも仲間を大切にしていた。
力のためでも、栄誉のためでもない。ただ“心”で繋がった絆を、何よりも信じていた。
もし、ヒムかシグマのどちらかが裏切り、片方だけが立ち上がったのなら――自分は、迷わずその意志を支えるつもりだった。
だが今、二人はそろって背を向けた。ならば、自分もまた、歩むべき道は一つだ。
ブロックは、ヒムとシグマに視線を送る。そこに迷いはなかった。
そして彼は、何も言わずに拳を握る。己の誇りと、守るべき“絆”のために。
沈黙を破ったのは、アルビナスの鋭い一閃だった。
白銀の指先が空を裂き、光の刃となってヒムへと迫る――。ヒムは咄嗟に腕を交差させ、その衝撃を受け止めた。だが、その一撃は予想以上に重く、足元の地面が大きく砕けた。続けざまにアルビナスは身を翻し、舞うようにシグマへと跳ぶ。
シグマは冷静に一歩引き、風のような滑らかさで間合いをずらす。
その隙を狙うように、アルビナスが魔力を練り上げた。腕をかざし、小さな光球を、追尾するようにシグマをめがけて飛ばした。
「さすがだ……容赦がないな」
光球を左腕の盾――シャハルの鏡で弾き返しながら、シグマは静かに呟いた。
オリハルコンの肉体を持つ彼らには、通常の呪文は通じない。それを承知の上での攻撃――。目くらましで視界を奪い、分断を狙う意図があった。
アルビナスの銀髪が翻るたび、空気が張りつめる。
その姿は、まさに“女王”の名にふさわしかった。
彼女は攻め手を一瞬も緩めない。ヒムとシグマ、二人を同時に相手取ってなお、その表情には焦りも曇りも見られなかった。
自らの力の封印を解き放ったアルビナスは、まさに真の“女王”としての姿を顕現させていた。
機動力、戦闘力、魔力の操作性――どれを取っても他の駒を大きく凌駕している。
対するシグマは、冷静沈着な戦術と隙の少ない立ち回りを誇る技巧派。だが、絶対的な火力には乏しく、持久戦を強いられればいずれジリ貧となる。
ヒムは圧倒的な格闘性能と一撃の破壊力を備えていたが、アルビナスの俊敏かつ魔力を絡めた戦術の前では、動きの一手先を読まれて封じ込まれていく。
加えて――最も致命的だったのは。
「ぐっ……!」
キャスリングによって真価を発揮した“ルーク”の駒――ブロックの猛威が二人を飲み込もうとしていた。
ヒムが歯を食いしばる。
まるで砦が動き出したかのような、圧倒的な重圧と衝撃。その一撃は、痩身からは想像もつかないほどの威力を秘めていた。
その苛烈極まる攻撃に、ヒムとシグマは防戦一方に追い込まれていた。
ブロックの拳がぶつかるたびに、ヒムの身体は鈍い衝撃音を響かせながら軋む。
シグマの盾――“シャハルの鏡”ですら、その重みに耐えきれず、じりじりと後退を強いられていく。
この絶望的な均衡を、なんとか保っていられるのは――ただ一人、クロコダインの存在があったからだ。
ヒムやシグマほどの速さはなく、戦士としての経験値もハドラーから生み出された彼らと比較するとそれほど差があるわけではなかった。
故に、その差を埋めてあまりある技の力――それが、いまの戦況を支えていた。
だが、戦況は、確実にじわじわと、崩壊の淵へと向かっていた。
原作で頑張った人達は退場してもらいます。