ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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110 魔群

 地鳴りのような轟音が洞窟の奥に響き渡る。

 “破邪の洞窟”深層――薄暗く、瘴気が満ちたその空間で、マァムは一人、超魔生物と対峙していた。

 

 圧倒的な質量を誇る異形の肉塊が、咆哮と共にマァムへと襲いかかる。鉄の腕が唸り、鋼の顎が裂けるような音を立てる。しかし彼女は怯むことなく、拳をその牙を叩き砕くように突き上げた。

 

 ――ゴッ!と鈍い音が洞窟に響き、巨体がのけぞる。

 

「ハァ、ハァ……キリがない……わ、ね……」

 

 マァムの瞳には決意と覚悟が宿っていた。自分がここでザボエラを打倒さなければならないと。

 だが、状況は厳しい。超魔生物の背後から、新たな個体が這い出してくる。そのどれもが異なる形状と武装を備え、まるでザボエラが実験室から次々と戦力を送り出しているかのようだった。

 

「イヒヒヒ……強き者ほど、数で押せば脆いものよ……」

 

 ザボエラの薄気味悪い声が響く。姿は見えない。だが、複数の超魔生物を巧みに操りながら、マァムの体力を削るようにじわじわと攻め立てていた。

 

「おい! あ、あいつら、また増えてるぞぉ!?」

「いやぁぁ! たすけてぇえぇ!」

 

 でろりん、ずるぼん、まぞっほ、へろへろ……毒と瘴気に侵され、身を縮こまらせながら、マァムの戦いを遠巻きに見ていることしかできない。

 もっとも、彼らはもはや戦力にはなり得るレベルではなかったが……。

 

 マァムは唇を噛む。背後から飛んできた金属の棘が肩を掠め、血がにじんだ。それでも一歩も引かない。

 叫ぶと同時に、神速の拳が再び超魔生物の顔面を撃ち抜いた。しかし、倒しても、倒しても、次々に現れる。さらには、撃破したはずの個体すら、破損された”パーツ”を入れ替えて、再び立ち上がってくるのだった。

 

 ――厄介すぎる。

 

 ザボエラの陰湿な策略に、マァムの体力も、そして精神力までもがじわじわと削られていく。

 

 ザボエラを倒さなければ終わらない。

 マァムは超魔生物たちの間を駆け抜けながら、視線を走らせる。どこかにいるはずだ。この戦いを指揮している黒幕――ザボエラが。

 

 だが、周囲には不気味にうごめく超魔生物ばかりで、人間の姿は一切見えない。

 

 ザボエラは超魔生物の中に姿をくらましながら、他の超魔生物たちを遠隔操作している。時折、奥から漏れ聞こえる薄気味悪い笑い声が、洞窟内の緊張をさらに高める。

 

「だが、褒めてやろう……。この魔毒複層連群《またい・ふくそう・れんぐん》、力こそ並外れておるし、自己修復も早いが……そのぶん、構造的な強度はやや脆い。とはいえ、これほど容易く破壊できるのは――お前の力が、それだけ高い証よ……」

 

 魔毒複層連群《またい・ふくそう・れんぐん》は、破邪の洞窟が生み出す魔物たちを素材として構成されている。

 洞窟内に満ちる濃密な瘴気が、一定の周期で魔物を産み落とし、それを超魔生物の素体として吸収・合成するのだ。

 

 つまり、この洞窟が存在する限り――奴らの供給に限界はない。

 

 元々は、超魔ゾンビに用いた“コンセプト”の構想を応用したものだった。

 だが――吐いて捨てるほど素体が余っているのならば、と誕生したのが、この魔毒複層連群《またい・ふくそう・れんぐん》だった。

 

 “血液”による連結。

 一体一体が独立していながらも、そのすべてが血のネットワークで繋がっており、中央の“脳”にあたる存在――すなわちザボエラの意思のもとで、連携し、補完し、再構成される。

 

 個を捨て、群として動く超魔生物。

 知性も、自我も、命すらも血に溶かして一つに束ねた兵器。

 

 あえて弱点を挙げるとすれば、素体ごとの強度にばらつきがある点くらいだろう。

 もっとも、その弱点すら――トーヤを捕らえさえすれば、すぐに改善できるとザボエラは確信していた。

 

 闘気を持たぬ魔物に対し、従来の強化術では個体ごとの強化には限界がある。

 だが――“念”であれば、それすらも可能なのだ。

 

 幻聴のように響く声に、マァムは奥歯を噛み締める。

 

 見えない場所から、ひときわ悪意に満ちた気配がこちらを嘲笑っているのがわかった。次々と湧き出る超魔生物。どれがザボエラの操る本体かを見抜けなければ、どれだけ拳を振るっても意味はない――。

 

「マァムさん……!」

 

 切羽詰まったような声が背後から響く。振り返ると、瘴気と毒に中てられているのだろう、メルルが震える手で体を抱きしめるようにしていた。額には冷や汗が浮かび、その表情には強い緊張と覚悟が浮かんでいる。メルルの声が震えながらも、はっきりと響いた。

 

「……感じます……! ザボエラは、あの群れの中――奥から二つ手前の魔物の中に隠れています!」

 

 その瞬間、マァムの視界がひらける。乱戦の只中、確かに一つだけ、超魔生物たちの連携の中心に立たず、隠れるようにして指示を送っている個体がいた。全身を覆う鎧のような装甲の中、禍々しい瘴気を漂わせる――あれが、ザボエラの本体。

 

「よくやったわ、メルル……!」

 

 言うが早いか、マァムは既に駆けだしていた。

 狙いを定めた超魔生物へ、一点突破の勢いで肉薄する。周囲を固める魔物たちの隙間を縫い、風のように滑り込みながら、渾身の拳を振り上げた。

 

「閃華裂光拳っ!」

 

 炸裂する連撃。光をまとった神速の拳が、超魔生物の外殻を次々と叩き崩していく。閃光が走り、砕け散る魔物の装甲が洞窟に砂嵐のような音を響かせた。

 だが――。

 

 内部までは届かない。

 

 幾重にも重ねられた異なる魔物たちが、層をなして侵入を阻んでいた。表層を打ち抜いても、その内側にはまた別の生命体が組み込まれており、拳はそこまで届かない。

 魔毒複層連群《またい・ふくそう・れんぐん》は、部位ごとに別個の魔物を組み合わせた複合体。閃華裂光拳は一撃につき一体の魔物にしか効果を及ぼさないため、この群体構造に対しては決定打にならないのだ。

 

 次の瞬間、超魔生物の腕がマァムをなぎ払った。

 その体が地を這うように吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

 ――ザボエラの嘲笑が響いた。

 

「クックック……愚か者めが。この魔毒複層連群の発想はなァ……元はといえば、貴様の閃華裂光拳に備えて練った“超魔ゾンビ”の応用よ。効かんのは当然じゃああ……!」

 

 哄笑と共に、ザボエラの気配が再び群れの奥へーー超魔生物たちの陰に、姿を溶かすようにして潜り込んでいった。

 

 ――次に狙うは、やはりマァム。

 

 唯一、自分の居場所を見抜けるメルルは、すでに立つ力すら残っていない。

 であれば、マァムさえ倒してしまえば、もはやこの身を見破れる者はいない。

 

 マァムは身構える間もなく、四方八方から迫る超魔生物の群れに取り囲まれた。

 眼前に現れるのは、猛毒の粘液を滴らせる牙。爪。棘。そのすべてが、マァムひとりを嬲るように押し寄せてくる。

 

「くっ……!」

 

 拳で迎撃するが、倒しても、倒しても次が現れる。

 一撃で倒れるような敵ではない。そして、超魔生物たちは互いの傷口をすぐに補い、また動き出す。

 まるで悪夢のような連携。そして、逃げ場のない地獄。

 

 息を吐く間もない連戦の中で、マァムの胸に、ふと湧き上がるものがあった。怒りでも、恐れでもない。

 もっと静かな、けれど確かな“疑念”。

 

 ――私が死んだら、みんなはどうなってしまうんだろう。

 

 こんなところで、倒れるわけにはいかない。

 死ねるはずがない。

 

 腕は重く、体は焼けるように熱い。酸素は尽きかけ、視界も滲んでいく。

 それでも、なお――朦朧とする意識の底で、マァムは仲間たちのことを思った。

 

 気がつけば、半ばやけくそで放った拳が、一体の超魔生物の腹部に食い込んでいた。

 

 ――その瞬間、空気が弾けた。

 

「え……?」

 

 目の前の部位だけではない。

 連なってひとつの個体を形作っていた超魔生物そのものが、鎖がちぎれるように次々と崩れ落ちていく。

 

 そこに立っていたのは、ただ一人、拳を振るったままのマァム。

 彼女自身も、その現象の意味を、理解できずにいた。

 

「な、なんじゃとぉおおおお!!? き、貴様……何をしたあああ!!?」

 

 マァムは拳を見つめた。自分でも信じられない、たった一撃で崩れ去った超魔生物。

 

 ――どうして……?

 

 答えを求めるように、彼女はもう一度、拳を振るった。

 そして、目の前に敵はいないのに――その場で、ふっと構えをとる。確認するように、ゆっくりと拳を突き出す。

 

 一発、二発、三発。

 それはまるでシャドーボクシング。誰にも届かない、ただの空打ち。何かを探すように。あの時の感触を、確かめるように。

 

 そして、確信する。

 あの一撃の時、自分の“中”で、何かが――確かに、目を覚ました。

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