バーンパレス――。
その外郭をすり抜け、ダイとヒュンケルの姿が城の庭に降り立った。
ミストバーンの力で空中の結界を抜け、たどり着いたのは、大魔王バーンの玉座へと続く中枢――長い回廊の前だった。だが――。
「……この先に、罠がある」
ヒュンケルの声が静かに響いた。否、その肉体を借りたミストバーンの警告だった。
庭から玉座の間までは、一直線の回廊が伸びている。だがその道のいたるところに、見えぬ罠が潜んでいる。
「キル……死神キルバーンの仕掛けていったものだ。お前のような実力者であっても触れれば死は免れまい」
「……どうやって突破するんだ? このまま突っ込んだら、戦う前に消耗することになる……」
淡々と述べるその口調に、ダイの表情が曇る。慎重に、冷静に、だが確実に選択肢を探るダイ。
その脇で、ヒュンケルの姿をしたミストバーンが、ふっと息を吐くように言った。
「……ならば、こうすればよい」
言い終えるより早く、彼の両腕が交差された。
――グランドクロス。
本来ならば光の闘気で行うそれを、ミストバーンは闇の闘気で行った。
漆黒の影が回廊全体を包む。
爆風のような熱と影が、罠という罠をことごとく貫き、抉り、吹き飛ばす。――すべてが収まったあとには、城の庭から玉座の門まで、一直線に空間が拓かれていた。
その光景に、ダイは思わず絶句し、唖然とした表情で口を開く。
「……いや、やりすぎじゃないか……? なんていうか、無茶苦茶っていうか……!」
「確実で、最短だ」
返ってきたのは、まるで当然のような返答。
「まったく……ヒュンケルもそうだけど、無茶することにかけちゃ似た者同士なんだから……。でも、助かったよ。ありがとう……二人とも」
ヒュンケルの瞳が、わずかに細められた。
それはミストバーンの感情なのか、ヒュンケルのそれなのか――あるいは、ふたりの想いが重なったものなのか。
「さあ、行け。私が案内するのはここまでだ」
ダイは小さく頷き、まっすぐに玉座の門を見据える。
そこには、仲間たちの願い、そして守るべきものすべてが待っている――そんな決意をその背に宿して。
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バーンの玉座の間。
荘厳にして冷厳な闇が満ち、虚空に映し出された魔法の水鏡が、次々と不穏な光景を映し出していく。
ミストバーンの裏切り。
その使命を捨て、ヒュンケルに力を託した忠臣の姿は、たしかに映っていた。
さらには、地上。
巨大魔導装置”黒のコア”――その無力化に動くレオナ姫と人間たち。
加えて、ハドラー親衛騎団の残党であるヒム、シグマが、主の死すら意に介さずに人間側に立っている光景も。
そのすべてを、バーンはひとときも目を逸らさず見届けていた。
だが、その瞳に、憤怒も焦燥も、微塵も浮かぶことはなかった。
「さすがは人間……といっておこう。だが――無駄なことを」
それは称賛でも侮蔑でもない。ただ、観察者の冷たい呟き。
その威容は、まさに“理不尽の化身”。圧倒的力を前にした時の、絶望そのものだった。
「黒のコアがなくとも、ミストが離れようとも……それは所詮、“地上を消す手段”が減ったに過ぎぬ。地上が消滅することは変わらぬ。余がここでダイを葬れば、結果は同じ――」
バーンの掌が、虚空へと翳される。
その指先から伸びる影が、まるで血管のように空間へと走り、異形の魔法陣を浮かび上がらせる。
「……征け」
静かに、しかし恐るべき言葉が発せられたその瞬間――バーンパレスの各所から、封じられていた魔界の魔獣たちが次々と解き放たれる。
歴戦の戦士すら怯ませる巨獣。常軌を逸した呪術を操る魔導生物。空を覆い尽くす飛竜の群れ。
それらが咆哮とともに、地上へと降り注いでいく。
「混乱を呼べ。絶望を撒け。……余の手を煩わせるなよ」
バーンの唇に、わずかながら笑みが浮かぶ。