ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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118 参戦

「……今のは……効いたぜ、クロコダイン」

 

 不敵に笑うのは、ハドラー親衛騎団のブロック。鋼の肉体に無数の亀裂が走り、両腕もすでに軋んでいた。だが、それでもなお、悠然とたたずみ、勝利を確信していた。

 

 一方のクロコダインはというと、片腕は力なく垂れ下がり、肩口からは深々と抉られた傷口が滝のように血を流している。膝をつき、顔を上げるのもやっとという有様だった。結果は火を見るより明らか。もはや止めを刺される寸前――なので。

 

「うっしゃァあああ!!」

「……ぬ、ぐぉあッ!?」

 

 あまりにも油断しきったその側頭部に、俺は渾身のドロップキックをかました。

 ブロックがまさかの悲鳴を上げて吹っ飛ぶ。巨体が地面を転がり、石畳が派手に崩れた。

 

 クロコダインが唖然とこちらを見上げる。俺は軽やかに着地し、舞い上がる煙を手で払いながら肩を回す。

 

「やー、危なかったな」

「トーヤ……!? なぜここに……!」

 

 俺はにっと笑って、親指を立てる。

 

 そのとき、崩れた瓦礫の向こうでギギギ……と鈍い音がした。ブロックが立ち上がる音だ。

 鋼鉄の装甲には、明確な凹み。側頭部にはサイズぴったりの靴の跡が残っていた。ブロックの目に浮かぶのは怒りと、――少しの驚き。

 

「……小癪な……不意打ちとは卑怯な……!」

「まあ否定はしないけど、一対一の決闘でもないだろ?」

 

 ――来る。

 そう思った瞬間、ブロックの体がビデオのコマ送りのようにブレながら移動を始めた。高速移動――否、瞬間移動に近い。気づけば、ヤツは俺の真後ろに立っていた。

 

 だが、そこは俺の“円”の内側。

 俺はブロックが攻撃に移るよりも早く、その顔面を掴み――。

 

 「っ!?」

 「どっせぇぇい!!」

 

 渾身の力で地面に叩きつけた。

 大地が軋み、ブロックの頭が地面に深くめり込んだ。鉄と岩が砕け合う鈍い音が響き、土煙が一気に立ち昇る。

 

 視界が晴れた頃には、ブロックはピクリとも動かなくなっていた。

 仰向けに倒れたまま、半壊した顔面から火花が散っている。どこかに短くノイズが走り、それきり静かになった。

 

 沈黙。

 ようやく、クロコダインが驚愕を混ぜた声を漏らした。

 

「お、おまえ……さっきまで瀕死だったのでは……? それに、その力……」

「ああ、でも今はこの通り。まあ、説明すると長いからさ――バーンをぶっ飛ばした後にでも、ゆっくり話すよ」

 

 クロコダインはしばし言葉を失ったまま、俺と倒れたブロックを交互に見比べる。

 だが、すぐにその獣の顔に、戦士らしい笑みが浮かんだ。

 

「……フッ、頼もしくなったな」

 

 その言葉に、少し照れくささを感じつつも、俺は頷いた。

 

「さて、俺は行くよ。クロコダインはレオナ姫の援護を頼む。マァムたちも、きっと今ごろ――」

 

 ――ああっ!!

 

 突如、視界の隅にきらりと光るものがあり、思わず声を上げた。

 瓦礫を踏み越え、俺は駆け寄る。土砂の中、うっすらと銀色の輝きが埋もれていた。

 

「こ、これは……!」

 

 土砂にまみれながらも、なお鋭い光を放つそれは――どう見ても、伝説のシャハルの鏡だった。

 どんな呪文も跳ね返すとされる、伝説の防具。ラッキー。

 

 ハイテンションで周囲を見渡すと、すぐ近くの瓦礫の山に、シグマとヒムの姿があった。

 二人とも意識こそないものの、辛うじて息はあるようだった。

 

「ありがとう、シグマ。おまえの心は俺が持っていく!」

 

 感謝の言葉を告げて、俺は鏡を拾い上げた。

 まるで運命に導かれるようだ。重みがしっくりと腕に馴染むぜ。

 

 

 +

 

 

 「え、なにこれ……?」

 

 思わず声が漏れた。

 バーンパレス——そのはずの場所に立っているのに、目の前に広がるのは、見るも無惨な廃墟だった。

 

 広間の柱は軒並み折れ、床には幾筋もの深い亀裂が走っている。崩れ落ちた天井から差し込む光が、不規則な影を作り出し、荒れ果てた空間に物悲しさを加えていた。人の気配は、感じられない。 おいおい、ダイたちは? 戦いの真っ最中なんじゃないのか……。まさかもう終わった?

 

「フフ……しばらく見ないうちに、ずいぶんカッコよくなったねぇ」

 

 背後から、聞き慣れたふざけた声が響く。仮面のピエロ、キルバーンだった。殺風景極まりないこの宮殿のどこがカッコ良いと言うのか。

 ちなみに、本体ではなく人形のほうだ。危険を避けたかったのだろう。

 

 飄々とした態度とは裏腹に、キルバーンのまとう空気には冷たい殺意と異様な愉悦が漂っていた。笑っていても、何一つ気を抜けない。

 

「さて、目的地に着いたことだし……ボクの出番はここまでかな」

「着いたって……ここじゃないだろ。ダイたちはどこだ?」

「ダイくんなら玉座の間さ。この先の、唯一まだ形を保ってる建物の中だよ」

 

 言って、キルバーンは朽ちかけた柱の向こうを指差した。確かに、廃墟の中でひときわ異質な存在感を放つ建物があった。ほぼ無傷で残っているのが不気味ですらある。

 なら最初からそこに連れてけや――そんな不満が喉まで出かけたが、言う前にキルバーンが楽しげに笑った。

 

「ここから先はトーヤくんの舞台だからね。観客は多いほうが盛り上がるでしょ? だから、一緒に観たくてさ」

「……何を――」

 

 言いかけたとき、突然背後に、冷たい気配が立ち上るのを感じた。

 

 黒い闘気をまとい、廃墟の中央に静かに佇む男。ヒュンケル――いや、ミストバーン。だがその姿には、ヒュンケルの面影が濃く残っているように思える。

 禍々しい気配を放ちながらも、なぜか身体が警戒の構えを取らなかった。それが姿のせいなのか、それとも……。

 

「……通れ」

 

 低く、くぐもった声が広間に響いた。まるで、通すと言っているようだった。

 

 無言のまま問いかけるように見返すと、ミストバーンはわずかにうなずいた。その目は虚ろに見えて、だが、そうではない。感情を押し殺した末にたどり着いた、静かな葛藤――そんな深い沈黙の色をたたえていた。

 

 一体、何を思っているのか。訳がわからなかった。

 

「ヒュンケル……だよな?」

 

 思わず口を突いて出たその名に、ミストバーンはほんのわずかに、眉をひそめたように見えた。

 

「やれやれ、ヒュンケルは消えちゃいないさ。なら、キミのやるべきことは一つだろう?」

「……わかってる」

 

 俺は静かに一歩を踏み出し、ミストバーンの横を通る。その瞬間、不意に彼の声が、かすかに耳に届いた気がした。

 振り返るが、ミストバーンは沈黙したまま、微動だにしていない。

 

 聞き取れなかったその言葉は、けれど、まるで背中をそっと押してくれるような――そんな気がした。

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