スコップを手に、洞窟の隅に釜戸のような土台を作る。
すでにこの洞窟には初日に作った調理用の釜戸があるが、今準備しているのはそれより一回り大きいものだ。
日曜大工にも慣れてきたおかげで、作業はスムーズに進み、一時間もかからずに完成した。
「これ、マジで仕事にできそうだな。バーンを倒したら、大工にでもなるか」
一息ついてスコップをしまい、パプニカの道具屋で買ってきた特大サイズの釜を取り出す。
ドラクエの民家でよく見かける、あの巨大な壺よりもさらにでかい。
釜の側面には、俺の念能力〈旧文字〉で丁寧に呪文を書き込み、先ほどの土台にセットする。
続いて取り出すのは、先日失敗に終わったスペルカード。
【 同行(アカンパニー) 】
・スペル名を読み上げ、「起動(オン)」と唱える。その後、場所か人の名称を宣言すると発動。
・呪文の使用者を、行ったことのある場所、もしくは会ったことのある人の元へと転送する。
前回なぜ失敗したのかを考えた末、「発動条件を書いていなかったからではないか」という結論に至った。
〈旧文字〉の能力は、「対象物に文字を書き込むことで、その文章通りの効果を与える」というものだ。
木刀に「強靭」や「強固」といった効果を書いたときは、対象自体に直接作用するものだったため問題なかった。
だが、この『同行』には「誰が、いつ、どうやって」発動するのかが書かれていなかった。
つまり、「どういう条件で場所を指定し、呪文を使用したことになるか」という発動プロセスが明記されていなかったのだ。
今回はその点をしっかりと書き加えた。
……結果は失敗だったけどな。
それでも、俺はスペルカード作りを諦めない。
これが完成すれば、ドラクエの魔法が使えなくても、かなりの場面で困らないはずだ。
バーンと戦うためにも、これは必要不可欠になるだろう。
というわけで、今回はこの釜を使う。
釜に水を入れ、沸騰するまでじっと待つ。
でかい釜なので、かなり時間がかかる。
――そして、ようやく水が沸騰した。
そこに『同行』のスペルカードとキメラの翼を投入し、菜箸のような長い棒でぐるぐると混ぜる。
ぐーる、ぐーる、ぐーる。
しばらくすると、釜の中の液体が光を放ち始めた。
成功か!?
あまり期待していなかったが、この反応は本物っぽい。
輝きが収まったところで釜を覗くと、そこには見覚えのあるカードが一枚――まさにHUNTER×HUNTERのグリードアイランドで見た、あのスペルカードの姿があった。
「熱っっちー!」
慌てて長箸で拾い上げる。
【 同行(アカンパニー) ランク:F 回数:1 】
・カード名を読み上げ、「起動(オン)」と唱える。その後、場所か人の名称を宣言すると発動。
・呪文の使用者を、行ったことのある場所、または会ったことのある人の元へ転送する。
「おおおっ!!」
これは絶対成功してるやつだ! だって、“回数”とか表示されてるし!
興奮冷めやらぬまま、俺は洞窟の外へ飛び出した。
「アカンパニー、オン。ベルナの森!」
カードを掲げて宣言すると、まばゆい光に包まれ、ふわりと浮かぶような感覚に襲われた。
十秒ほどの浮遊感のあと、気がつくと俺は森の中に立っていた。
「いよっしゃーッ!」
思わず声が出る。いや、これは叫びたくもなるだろ。念願の転移魔法だぞ。
手元のカードを見ると、使用回数は“0”になっていた。
〈凝〉で確認すると、『旧文字』で書かれた文字も、すっかりオーラを失っている。
記念に取っておこう。
懐にカードをしまってから、ふと気づく。
……ここ、ベルナの森じゃん。
パプニカまで帰るのかよ。遠いなぁ……。
【 錬金釜(アルケミー) 】
・沸騰したお湯が入った釜にアイテムを入れてかき混ぜると、想像した通りのものを生成できる。
・釜に入れるアイテムは完全にお湯に浸っていないと“材料”と認識されないので注意。
最初に作った『同行』は、ただ紙に〈旧文字〉で効果を書いただけの簡易なものだった。
オーラを込めたとはいえ、それだけで発動するほど甘くはない。魔法じゃなくて念能力なんだから。
念能力は、便利な魔法じゃない。現実に干渉する物理現象だ――クラピカの師匠もそう言っていた。
つまり、グリードアイランドのカードを完全再現するなんて、一人でやるには無理がある。
一時は諦めて、「まあルーラやキメラの翼があるし……」と妥協しかけたが、ふと閃いた。
――“元々ある道具”を媒体にすれば、相乗効果で能力を定着させられるんじゃないか?
試しにキメラの翼に直接〈旧文字〉を書こうとしたが、書きにくすぎて断念。
そこで思いついたのが、「素材から自分で作ればいい」という発想だった。
アイテムを作るといえば……そう、『アトリエシリーズ』だろ?
というわけで、錬金釜を自作した。
まさかカードの形にまで加工できるとは思わなかったが……うまくいって本当に良かった。
この錬金釜は、おそらく素材に宿った“効果”だけを抽出して、新しい形に再構成しているのだと思う。
キメラの翼の“翼の形”には意味がないし、『旧文字』だって見た目ではなく文章の内容が本質。
あとは操作系か具現化系か変化系かは分からないが、カードという形に具現化されたということだろう。
……まあ、理屈は後付けだけどな。
ともかく、これからはカード作りで忙しくなるぞ。
素材集めのためにも、また新たな冒険に出なきゃな。
ドラクエらしく、冒険の始まりだ。