ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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120 頂上決戦

 甲高い音が響き渡り――次の瞬間、ダイの剣が、根元から折れた。

 バーンの圧倒的な魔力と、剣にかかる限界を超えた負荷。激しすぎる戦いに、ついに刃が――耐え切れなかったのだ。

 

「ふっ……ふはははっ!!」

 

 バーンの口元が歪み、嘲るような笑いが漏れる。

 

 ダイは、俯きながらも、震える手で折れた剣を見つめていた。

 折れた刃。もう、斬ることも、守ることもできない。それでも、胸に湧き上がるのは――絶望ではなかった。

 

 ダイはぎゅっと拳を握りしめ、静かに、手から折れた剣の柄を落とす。

 

「うぉおおおおお……ッ!!」

 

 次の瞬間、ダイは雄たけびをあげながら――素手で、バーンに殴りかかっていった!

 自らの肉体ひとつで挑みかかるという、自殺行為にも等しい無謀な突撃――だが、バーンの表情に憐れみも、驚きもなかった。

 

「愚か者が……消え失せよ」

 

 交差した拳が、音もなく突き刺さる――かに見えた。

 

「――ごふっ、は……ぁ!」

 

 空気を押し出すような呻き声。

 ダイの拳は届いておらず、バーンの拳もまた、虚しく空を切っていた。

 

 殴り飛ばされたのは、バーンのほうだった。

 頬を深々と撃ち抜かれ、大きくよろめきながら二歩、三歩と後退する。

 

 そして、その拳を振るった者の姿を見て――ダイは、呆然と立ち尽くした。

 口元から伝う血を拭うことすら忘れ、バーンもまた、目を見開いていた。

 

 その視線の先――静かに立っていたのは。

 

「トーヤ……!」

 

 ダイが、息を呑みながら名を呼んだ。

 

 バーンの前に立ちはだかるその男は、唇の端を持ち上げて余裕の笑みを浮かべていた。

 拳をだらりと下げながらも、その眼差しは鋭く、滾るような闘志を湛えている。

 

「さて、ここからは……俺が相手だ。いい加減、調子に乗るのは終わりにしてもらおうか――バーン。」

 

 挑発的な口調。それでいて、そこには確かな覚悟と、揺るぎない自信が宿っていた。

 だが、トーヤは一度だけその敵から視線を外し、傷だらけのダイを見やった。

 

「その前に……おまえは、地上に戻れ。」

「待ってくれ、トーヤ! 俺も戦える、まだ――!」

 

 ダイが声を張り上げる。だが、言葉とは裏腹に、その足はふらついている。拳も震えていた。

 その様子を見たトーヤは、静かに言った。

 

「……無理だ。今のおまえじゃ、足手まといにしかならない。」

 

 冷たい言葉ではなかった。

 それは、ダイの力を誰よりも認めているからこそ、今は下がれと言える、重みある言葉だった。ダイは悔しげに唇を噛むが、やがてうなずきかけ――。

 

「逃がすと思うか……?」

 

 バーンの低く冷たい声が、その場を凍らせる。

 額の中央に浮かぶ“鬼眼”が怪しく光を灯す。鬼眼王バーンの最大の異能――“瞳化”。

 

 その眼の放つ光線を浴びた者は、たとえ気絶していようが、たとえ逃げようとしていようが、バーンが「価値なし」と判断すれば、即座に“瞳”と呼ばれる赤い宝玉の中へと封じ込められてしまう。

 

 ダイは知らない。だが、たとえ知っていたとしても――今の身体では防げはしなかった。

 鬼眼が閃き、血のように紅い光がダイへと走る――!

 

「……っ!」

 

 瞬間、光線の軌道に割って入ったのは、トーヤだった。

 

「……バカな!?」

 

 バーンが低く唸る。

 トーヤの体から噴き出した、眩い鋭いオーラが――鬼眼の光を、かき消した。まるでその存在を否定するかのように、バーンの力が霧散していく。

 

「いつまでも……思い通りにいかせるかっての」

 

 そう言い放つトーヤの声音には、静かな怒りが宿っていた。

 その足元には、守られたダイがうずくまるようにして立っている。

 

「バーン。おまえのやり口はもう飽きたぜ。自分より弱い者を消して悦に入る……それが“王”のすることかよ。ダセぇんだよ」

「……貴様、何者だ?」

 

 バーンの表情が歪む。挑発に乗ったというより――本能的に、トーヤの“異質さ”に気づいていた。

 

「言ったろ。今から相手をする男の名ぐらい、覚えとけって」

 

 トーヤは構えた。拳に、青白く燃え上がる闘気が収束していく。

 その気迫は、たしかにバーンのそれと拮抗し――いや、それ以上の圧を放っていた。

 

 

 +

 

 

「……貴様、何者だ?」

 

 鬼眼の光を打ち消したことで、バーンは俺を完全に脅威だと認識した様だ。

 目に見えるほど殺気を滲ませたバーンが問いかけてくる。だが、俺はそれに答えない。

 

 というより、答える価値がない。俺はただ、こいつを――こっちの世界にきてからずっと悩みのタネそのもだったコイツをぶっ飛ばしたいだけなんだ。

 ダイがこの場を離れるのを見送ってから、俺は浅く息を吸って、呼吸を止める。

 

「――行くぜ」

 

 俺は地を蹴った。

 同時に“円”を展開。バーンの体表を流れるオーラの動き、力の流れ、微細な殺気の方向――すべてが手に取るようにわかる。

 

 右肩。そこに力が集まりかけていた。恐らくは迎撃の一撃、……遅い。

 即座に“凝”を両足に集中。瞬間的に加速し、バーンの攻撃をすれすれでかわしながら、その懐に滑り込む。

 

 渾身の拳を、胴へ――!

 

「ぐっ……!」

 

 バーンの体がくの字に折れる。手応えは重い。

 だが、それ以上にバーンからは驚きが伝わってきた。自分より劣ると思っていた存在から、これほどの一撃を喰らうとは――そう、理解が追いついていないんだろう。

 

「そんなものかよ、バーン」

 

 あえて挑発する。怒りに飲まれれば、動きは粗くなる。

 狙いどおり、バーンは怒気を露わにして振り返り、怒涛のように呪文を連射してきた。

 

 だが、そのどれもが今の俺には通じない。

 

 俺は一歩も動かず、“凝”で腕にオーラを集中し、迫りくる呪文を弾いた。爆風が空を焦がし、地を穿つたび、バーンの焦りが透けて見える。もはや、王者の余裕などどこにもない。バーンが舌打ちし、急に動きを止めた。

 

「貴様ごときに――」

 

 ゆっくりと構えを取ったその瞬間、空気が変わった。

 重い。まるで大地そのものが怒っているような圧。それは、完璧なまでの三位一体。すなわち、天地魔闘の構え。

 

「これを使うことになるとはな……」

 

 攻、防、魔。三つの動きを同時に繰り出す最強の構え。全てを迎撃し、上回る。バーンの切り札中の切り札。

 だが――引く気はない。

 

 俺は右の人差し指にオーラを集中させる。本日二発目の霊丸。余力はまだある。

 指先に念をためたまま、静かに踏み込んだ。

 

「行くぜ……!」

 

 吠えるように呟き、全身を駆けさせる。

 バーンは動かない――否、動けない。構えを崩せば天地魔闘は成立しない。ならばこっちから、ぶち抜くまでだ。

 

 瞬間、バーンが動いた。

 

 まずは「天」。

 暗黒闘気を手刀に凝縮し、真上から振り下ろす――カラミティエンド。ただの手刀。しかし、そこに込められた力は「一撃必殺」の極み。

 地を割り、山を断ち、全てを断絶する刃。単純だからこそ恐ろしい、バーンの全力を込めた必殺の斬撃。

 

 空いた左腕を差し出す。オーラで強化された肉体で、その破壊の手刀を真正面から受け止める。

 刃が骨に触れる感触。鈍く鈍痛が走る――が、止まる。通させない。

 

 次に「地」。

 バーンが反対の掌を、風を裂く速度で振り上げる――フェニックスウイング。超高速で放たれる掌撃。その一撃が空気を裂き、周囲に灼熱の衝撃波を巻き起こす。

 その様はまさに、不死鳥の羽ばたき。あらゆる呪文も物理も通さない。弾き、吹き飛ばす。これぞ、地に根差す鉄壁の盾。

 

 だが、それも左腕で止める。

 手に溜めた霊丸を、まだ撃たずに保ったまま、バーンの手首を掴み、抑え込んだ。爆ぜた熱風に髪が乱れ、服が裂ける。だが、動じない。

 

 そして「魔」。

 バーンが口元を僅かに動かした瞬間、炎が魔力を帯びて羽ばたいた――カイザーフェニックス。

 巨大な炎の鳥が、咆哮とともに空を舞い、こちらに向かって突撃してくる。ただの火球ではない。生きているかのような殺意と、支配の魔力。

 バーンが誇る最大級の炎呪文。魔力の象徴。圧倒的な「魔」。

 

 だが、それすらも――鏡に封じた。

 

 腰の内側に忍ばせていた「シャハルの鏡」。一瞬のタイミングで反射させる。放たれた炎の鳥が、一瞬で方向を変え、バーン自身へと飛翔していく。

 天地魔闘の構えを発動させた直後は、反射には対応できない――唯一の盲点。

 

 僅かな隙。全てを撃ち落とし、受け止め、放った直後の、ほんの一瞬。

 

 そこへ――全てを乗せた霊丸。

 俺は指先に溜めていた一点の光を、迷いなく放った。

 

「――喰らえェェェェッ!!」

 

 バーンの双眸が見開かれる。

 その瞬間、彼の身体に――質量そのものがぶつかってきたかのような圧倒的衝撃が直撃した。

 雷鳴のごとき轟音が響き渡る。

 

「ぐっ……おおおおおっ!!」

 

 バーンの呻き声が、苦痛と驚愕を孕んでこだまする。

 その肉体が空中に弾かれ、轟音とともに背後の岩壁へと叩きつけられた。厚い岩盤が砕け、瓦礫が崩れ、土煙が視界を覆う。

 

 空間に、静寂が訪れる。

 ただ、細かな破片が崩れる音だけが、ぽろぽろと断続的に鳴っていた。

 

「はぁ……っ、はぁ……っ……!」

 

 瓦礫の中から、バーンの手が這い出た。苦しげな呼吸と共に、彼はよろめきながら上体を起こす。

 肩は焼け焦げ、衣は破れ、左腕はぶらりと力なく垂れ下がっていた。

 

 額からは血が流れ、口元に苦渋の泡。先程までの不敵さも、王者の余裕も、どこにもなかった。

 代わりにあったのは――戸惑い。恐怖。焦り。

 

「ば……馬鹿な……なぜだ……。たかが……人間が……!」

 

 震える唇が、現実を否定するように呟く。だが、その否定は弱々しい。

 まるで、自分に言い聞かせているようだった。

 

「魔王なんかじゃねえよ。もちろん、神様でもねえ。テメェはただの魔族で、俺はただの人間だ」

 

 俺は重い息を吐きながら、ゆっくりと拳を握り直す。

 心臓の奥に灯るのは、怒りでも憎しみでもない。

 

 バーンの足が、わずかに後退する。

 王の威厳も、支配者の余裕も剥がれ落ち、そこに立つのは追い詰められた、ただの男だった。

 

「……くそっ……くそぉぉぉっ……ッ!!」

 

 バーンが魔力をかき集める。だが、その集中すらどこか乱れていた。

 指先はわずかに震え、呼吸は荒れ、全身から発せられる気配は、もはや冷静さを欠いている。

 

「まだだ……まだ終わらん!! 余は――余は大魔王バーンなり……!!」

「――っ!? なにを……!」

 

 俺の目の前で、バーンが突如、自らの額へ指を突き立てた。

 皮膚が裂け、血が流れ――その奥から、不気味な“第三の眼”が這い出てくる。

 

「ぐ、ぅぅぅ……あああああっ!!」

 

 絶叫とともに、黒いオーラが噴き出す。

 空間が軋み、地響きのような唸りが洞窟を揺らす。

 バーンの身体を中心に、漆黒の岩のような何か――否、“装甲”のようなものが出現し、ぐるぐるとその身を包み込んでいく。

 

 重く、禍々しく、異様な気配。バーンの身体を覆う何かが、みるみる膨れ上がる。

 その何かは、人の形を象る様に変貌を遂げていった。背丈は倍以上ーー否、その頭部は天井を優に超える程に巨大化していく。

 

 俺はとっさに距離を取った。だが、それすら意味をなさない。圧倒的な巨体が、空間のほとんどを支配していた。

 岩肌は崩れ、天井が軋み、地面はその重圧にわずかに沈んでいく。

 

 そして――変貌は、完了した。

 

「見よ……これが余の、誇りを......すべてを捨てた……最終の姿!!」

 

 その威容は、もはや魔王などではない。世界そのものを滅ぼす災厄の化身だった。

 

 その姿を見て、俺は……笑った。

 

「く……くく、あはは……あははははっ!!」

 

 笑い声が、洞窟の中に響き渡る。

 バーンが怪訝そうにこちらを見下ろしてくる。けれども、俺の笑いは止まらなかった。

 

 ――だって。

 

「……どうしよ。この形態があるの、すっかり忘れてたわ」

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