アポロたちと共に破邪の洞窟に潜って、すでに四時間ほどが経っていた。
「ヒャダルコ!」
エイミの放った呪文が、さまよう鎧を完全に凍りつかせる。
「そっちも終わったようだな」
「ええ。いい調子ね。この分なら予定より早く、15階まで辿り着けそう」
キャットフライと戦っていたアポロが、わずかに息を切らせながらもエイミに声をかけた。
二人は俺とマリンの存在を確認すると、前方へと歩みを進めていく。俺は、その後ろ姿を黙って見つめながら、後を追った。
「どうしたの? さっきからずっと怖い顔してるよ」
少し先を歩いていたマリンが振り返り、心配そうに声をかけてきた。
「……いや、なんでもないよ」
一瞬迷ったが、結局俺は何も言わず、二人の背中を追いかけることにした。
「体調が悪いなら、ちゃんと言ってちょうだいね?」
俺を気遣うマリンの声に適当な相槌を返して、歩みを速めた。
洞窟内での戦闘は、すべて三人に任せていた。
アポロ曰く、「俺が戦闘に加わってしまうと特訓にならない」らしい。
それなら俺、ここにいる意味ないよね――と思いつつも、口には出さない。
でも、アポロはなぜ俺を「強い」と思っているんだろう。確かに長い付き合いではあるけど、そう思わせるような力を見せた覚えはない。
……ああ、そういえば前に霊丸を撃って見せたっけ。
けど、あれだけでそこまでの実力を感じるかな?
まあ実際、俺が本気で戦ったら本当に特訓にならないだろうし。
……とはいえ、見てるだけってのはやっぱり辛い。
今だって――
「メラゾーマ」
あばれザルを呪文でオーバーキルしながら、アポロは容赦なく先へ進んでいく。
破邪の洞窟はモンスターがわんさか湧いてくるからな。のんびりしていたら、すぐに囲まれてしまう。だから先を急ぐのはいい。そこに文句はない。
でも、あばれザルごときにメラゾーマって、何考えてんだよ。しかも、魔法力に余裕があるわけでもなさそうだ。みんな、けっこう疲れてるのが見て取れる。
――ゴンとキルアを見守っていたビスケも、きっとこんな気持ちだったんだろうな。ヤキモキして仕方がない。
今も、彼らは前方の敵に夢中で、背後から忍び寄るマミーにまるで気づいていない。案の定、背後をとったマミーがマリンに掴みかかった。
「きゃあっ!」
マリンの悲鳴が響く。
ああ、もうっ!
「おらぁッ!」
腰の木刀を抜いてオーラを込め、思いっきりマミーに叩き込む。
「ありがと……う」
首を締められていたマリンが、苦しそうに礼を言う。だがその言葉を聞き終えるよりも早く、俺は駆け出していた。
アポロの横を風のようにすり抜け、ミイラ男とわらいぶくろを木刀の一振りでなぎ倒す。
そのままの勢いで、背後にいたじごくのハサミを蹴り砕き、その死骸を思い切りヒートギズモに投げつけた。
時速160キロの豪速球もかくやとばかりにぶつけられたヒートギズモは、為す術もなく霧散する。
天井からぶら下がっていたバンパイアが、逃げようと動いた。
「逃さないわっ! ヒャダル――」
「よせ! 放っておけ!」
エイミが呪文を放とうとしたのを制して、俺は木刀を腰のベルトへ収める。
「トーヤ、君は“見るだけ”って約束だったろう? たしかに今は少し危なかったが――」
息を整えていたアポロが小走りで近づいてきて、軽く咎めるように言ってくる。だが俺は、その言葉を遮るように叫んだ。
「アホか~~~~っ!!」
あまりの大声に、全員が一瞬硬直する。
「ど、どうしたの? そんなに大声出して……」
「どうしたもこうしたもあるかいっ! 見てられなくて手ぇ出しちまったんだよっ!」
マリンの問いも無視して、俺はさらにまくし立てた。
「あんな雑魚相手に、どんだけ苦戦してんだよ!」
「そ、それは……き、君から見たら私たちは弱いかもしれないけど、だからこそ、こうして特訓してるんじゃないか!」
悔しそうに拳を握りしめながら、アポロが俯く。
あ……なんか落ち込んでる。言い方が悪かったか。
「悪い悪い、お前らが弱いとか、そういう話じゃないって。強いよ、お前たちは。うん」
「気を遣わなくていい。君と俺たちの実力差は明らかだ。さっきの戦闘だって、君は一瞬で終わらせてしまったじゃないか」
「それは、今まで戦ってなかったから体力が余ってただけだって!」
フォローしたつもりだが、全然聞いてない様子。……めんどくさいヤツだな。
「だぁ〜〜っ、もう! 一旦外に出るぞ! こっち来い!」
アポロの腕をつかんでマリンとエイミの元まで戻り、誰にも見えないようにスペルカードを取り出す。
「リレミト!」
と叫びつつ、《同行》を使って全員を洞窟の外へと脱出させた。
「お前ら、そこ座れ!」
外に出た俺は、三人を落ち着かせるために座らせようとする。だがなぜか、全員が座らずにキョロキョロしている。
「……あなた、リレミトも使えたの? それにしてもおかしいわ。破邪の洞窟では、モンスターの邪気のせいでリレミトは使えないはずなのに……」
――やば。忘れてた。
「いいから座れっての!」
マリンが何かを考え出す前に肩を押さえて強引に座らせる。……まあ、もう遅いかもしれないけど。
マリンが座ると、ようやくアポロとエイミも腰を下ろした。
三人の視線を受け止めながら、俺は咳払いを一つして向き合う。
「これから、戦闘時における呪文の使い方について講義を行います。終わったら一人ずつ洞窟に入ってもらうので、しっかり聞くように」
勢いでごまかそう。そして俺は、未だかつてないほど熱く、戦闘とは何たるかを彼らに語り始めた――。