「――って感じで、一人で戦う場合とパーティー組んで戦う場合じゃ、力の配分が重要なんだよ。わかった?」
チョークで黒板に呪文の種類を列挙しながら、俺はペース配分の大切さを語った。
ちなみにこの黒板、さっき一人で『同行』して家に帰り、持ってきたものだ。他にも必要そうな道具をリュックに詰めてきたから、特訓の準備は万端だった。
さっきの洞窟探索での彼らの呪文の使い方――その非効率さについて俺は指摘していた。
「私も、それくらいは考えている。しかし、多少ムリをしてでも早く進まなければ、モンスターに囲まれてしまうじゃないか」
「じゃあ聞くけどさ。魔法力がフルの状態で、メラゾーマ何発撃てるんだよ?」
俺の問いにアポロは目を閉じ、思案する。
「……そうだな。大体、十二、三発だろうか」
「私も、それくらいかしら」
「私は十発はいかないわね」
そんなに使えるのか……こいつら魔法力多いな。
ゲームで言えばレベル30くらいか?
いや、関係ないか。マンガでもレベルの低いポップがメラゾーマ覚えてたりしたしな。他のステータスが低くても、魔法力だけ多いってこともあるだろう。
「で、だ。お前たちは洞窟でどれだけのモンスターと戦うと思ってるんだよ。雑魚相手にメラゾーマ連発してたら、十五階に到達する前に魔法力空になるぞ」
「そ、それは……。魔法の聖水や祈りの指輪で回復して――」
「んなもん使うくらいなら、もっと効率のいい戦い方覚えろ」
「言うのは簡単だが、どうすれば良い。敵がどの程度の攻撃で倒れるかなんて分からないだろう」
「コントロールさえ上手くできれば、初級の呪文でも十分に戦えるぞ。工夫だよ、工夫」
そう言いながら、俺は右手に小さくメラを発動させた。ロウソクの火ほどの、直径1センチほどの小さな炎。それを頭上に掲げ、みんなに声をかける。
「いいか、よく見てろよ」
小さな炎は徐々に大きくなっていき、やがて直径3メートルを超える巨大な火球となった。
「す、すごいわ。これ、本当にメラなの? メラゾーマとほとんど変わらないわ!」
マリンが驚きの声を上げる。
「ふう、ざっとこんな感じだ。っていうか、やろうと思えばお前たちも普通にできると思うぜ」
俺は炎を消し、持参した椅子に座った。
みんなは地面に直接座っているが、まあ、先生と生徒なんだから当然だろう。
「さて、ここで問題です。メラをこのように威力を調整して、メラゾーマのようにする利点はなんでしょうか?」
アポロが手を上げる。律儀なやつだ。
「はい、アポロくん。どうぞ」
「メラゾーマよりも少ない魔力で放つことができる」
「ぶっぶー、違います。むしろ使う魔力は多くなります」
「はい!」
今度はマリンが手を上げた。
「マリンくん、どうぞ」
「呪文の発動時間が短くなる」
「おお、いいところに気がつくね。でも今回はバツ。威力を上げるには集中力が必要だから、慣れてないとむしろ時間がかかります」
「もー、早く答えを教えなさいよ」
焦れたエイミが口を挟む。
「オーケー。では答えを言おう。メラをメラゾーマ並にする利点。それは――」
俺は一旦タメを作り、ゆっくりと続けた。
「ないの。全然。これっぽっちも。まったく利点はない」
「……!」
みんなはマンガのようにずっこけた。マジで、地面に倒れ込むやつがいるとは思わなかった。
「お、おい。君は私達をからかっているのか? なら、今のはまったくの無駄じゃないか」
起き上がったアポロが訴える。
「まあまあ、待ちなって。今のは“メラを強くした場合”の話だ」
「どういうことだ?」
「逆ならどうだ。メラゾーマをメラ並みに弱く放った場合――そのときはどうなる?」
三人は真剣に考え始めた。そして――
「そうかっ。そういうことなのね!」
マリンが一番に声を上げた。
「どういうことなの?」
エイミが訊ねると、マリンは俺に向き直る。
「トーヤ。もう一度、さっきのメラを見せて」
俺は再びメラを唱え、頭上に掲げる。
「やっぱり……思った通りだわ」
「教えてくれ、マリン」
「アポロもエイミも、よく見て。トーヤのメラ、確かに巨大な火球だけど、全然熱くないの。こんな近くにあるのに、ね」
「ほ、本当だわ。こんなに近いのに、それほど熱くない」
「つまり、威力は変わらず、大きさだけを変えてるってことよ」
「ご名答。よくわかったな、大したもんだ」
俺はニヤリと笑い、再びメラに魔力を注いだ。すると、途端に熱量が跳ね上がり、周囲の空気が陽炎のように歪み始めた。
「ちなみに熱量も上げられるけど、魔力の消費も大きくなる」
暑くなってきたのでメラを消して、椅子に再度腰かける。
「でも、逆にメラゾーマを小さくすれば、消費も抑えられるんだよね?」
「そういうこと。そこから先の説明は、俺がしよう」
俺は黒板に向き直り、チョークを走らせながら説明を始めた――。