「熱量を上げると大きくなる。下げると小さくなる。サイズは変えても熱量は変わらない。――ということで合ってるか?」
「はい」
「魔法力は熱量を上げると増加して、下げると抑えられるのね」
「はい」
「同じく、魔法力はサイズを大きくすれば増加して、小さくすれば少なくなる、と」
「そうです」
俺の一時間にわたる熱弁が、わずか三十秒で要約された。偉そうに語っていただけに、これは恥ずかしい。
彼らはさっそく、メラミをメラ並みの威力に落として、そのぶんをサイズに変換していた。
俺がさっき見せた炎よりも、はるかに巨大な火球が生まれ、あたりをじりじりと熱気が包む。
直径五メートルくらい……でかすぎんだろ。
「やったっ、私にもできたわ!」
マリンがメラミを掲げながら嬉しそうに飛び跳ねる。
――危ないから! その物騒なものを持ったままはしゃがないでください。
「これなら、低階層の雑魚モンスターは一掃だな」
「なるほど、配分と工夫って、こういうことか」
感心しながら、三人は次々と呪文を試し始める。
「よし。次は戦闘中の基本というか、注意事項をいくつか説明する」
気を取り直して、講義を続けることにした。
本当は呪文のコントロールを手取り足取り教えるつもりだったけど、どうやら普通にできるようなので省略だ。
細かい使い方は、実戦の中で覚えてもらおう。
「注意事項?」
マリンが小首をかしげる。
「そう。大きなのが二つある。まず一つ目は……エイミ」
「え、私?」
急に名指しされ、エイミが驚いた表情を浮かべる。
「そう。さっきの洞窟での戦闘中、逃げようとするモンスターに攻撃しようとしてただろ?」
「え、ええ。逃がさないようにって……」
何が悪かったのか分からず、少しオロオロし始める。
......ちょっと可愛いなクソ。
「軍隊とか、増援が控えている敵なら追撃はありだけど、洞窟探索では体力や魔力の消費は最小限に留めるのが基本だ。だから逃げる敵は、深追いしなくていい」
「……わかったわ。次からは気をつけます」
素直でよろしい。
「ただし、相手の知能が高くて増援を呼びそうな場合は話が別。そのときは臨機応変に判断してくれ」
間違ったことをしようとしたわけではないので、軽くフォローもしておく。
「さて、二つ目だけど……これは実際に見てもらった方が早い。ついてきてくれ」
+
破邪の洞窟へ入り、少し歩いたところで立ち止まる。
ここはまだ一階。出てくるとしたらスライムくらいだろう。
「モンスターよ。どうするの?」
マリンが、姿を現したスライムを指さす。
「ちょっと俺が相手して時間を稼いでくる。集まってきたら合図を送るから、待っててくれ」
アポロたちを残してスライムの方へと駆け出す。
スライムは俺の様子をうかがいながら、タイミングを見て体当たりしてくる。
「ピギー」
――悪いけど、もうその程度の攻撃じゃ俺にはまるで効かないんだよね。
俺の身体は、指輪の効果で常に「堅」の状態になっている。
出力は全力の一割で、そのうち三割が指輪に吸収されているので、実際には本気の七パーセント。
それでも、防御力としては十分すぎる。
……まあ、相手がスライムじゃ自慢にもならないけどな。
そのまま五分ほど攻撃を受け続けると、スライムは十二匹に増えていた。練習にはちょうどいい数だ。
「これから、こいつらをメラだけで倒すからっ。よーく見てろよっ!」
三人に聞こえるよう、大声でそう叫ぶ。
そして彼らが見やすいよう立ち位置を意識して、戦闘を開始した。
「まずは、囲まれたときの対処法だっ」
そう言って、スライムたちのど真ん中へ飛び込む。
突然の奇行に、三人が息を呑むのが分かった。
「囲まれたとき、手をこまねいていると袋叩きにされるだけだっ。抜け出せそうな場所を見つけて、そこに穴を空けるんだっ」
包囲の中で、間隔が最も離れている方向へメラを放つ。
「このとき、敵に当てるのが目的じゃない。脱出できるスペースを作るのが目的だっ」
メラが直撃し、スライムが一体燃え落ちる。その隙を突いて、包囲から一気に抜け出した。
「今のが、囲まれたときの基本的な動き方っ」
次は、と言おうとしたときには、スライムが十四匹に増えていた。
「次に、敵をかい潜って向こう側へ抜ける必要がある時の戦い方を見せるぞっ」
メラを掌に構えて、スライムの群れへ突っ込む。
「さっきと同じように、進行方向にメラを撃って道を作る」
だが、数が多いため、すぐには抜けられない。
「ここで重要なのは――呪文を放ったら、すぐ次の呪文の準備に入ることっ。常に撃てる状態を維持する!」
近づいてきたスライムの体当たりを、身体をずらして回避。そいつが去った場所にメラを撃ち込んで、また隙間を作る。
その繰り返しで、俺は道を切り開いていく。
やがて、スライムの群れを突っ切り、向こう側へと抜け出した。
振り返って、大きく手を振る。
「呪文を使えば、こうやってモンスターの群れを突破できるんだぞっ」
ここまで見せれば、もう十分だろう。
俺は掌のメラを先ほどのように巨大化させる。
直径四メートル――威力は落としてあるので、熱気だけが襲いかかる。
そのメラをスライムの群れへと投げ込むと、『堅』を強めて炎の中を歩いた。
みんなの元へと戻りながら、俺は声をかける。
「どうだ? 今までと全然戦い方が違うだろ? 絶対こっちのほうがいいって」
アポロの肩に手を置いたそのとき――マリンが、どこか不思議そうな目で俺を見ていることに気づいた。
「ど、どうかしたか?」
もしかして俺の戦いが凄すぎたのか。
いや、ちゃんと力はセーブしてたんだけど……。
マリンは、以前グリズリーと戦ったときの俺も見ている。あのときは派手にやりすぎて少し目立ってしまったから、次期勇者だなんて騒がれたら困る。
できれば普通の仲間の一人として、静かにしていたいのに。
彼女の次の言葉を固唾を飲んで待っていると――返ってきたのは、まさかの疑問だった。
「あなたの服。どうしてあの炎の中をゆっくり歩いても、燃えないの?」
……その瞬間、俺は思わずマンガみたいに大きくずっこけた。
ドサッ。
……って、本当にコケると意外と気持ちいいな、これ。