破邪の洞窟へ来てから5日経った。
三賢者は俺が教えた甲斐あってかかなり強くなったと思う。
ステータスの話ではない。戦い方、戦術の面での話だ。
なんと、初日に潜った時には13階で引き返してきた訳だが、今では一人で10階まで潜れるほどだ。
元々ポテンシャルは高かったからな。
無駄な戦闘をせずに効率よく進めばあいつらなら当然の結果だろう。
今日は一旦洞窟に潜るのをやめてもらい、今後の戦闘に対する対策を伝授することにした。
彼らは知る由もないことだが、あと数年もすれば魔王軍のフレイザードとか言う怪物と戦うことになる。
中途半端に強くなっていては逆に命の危険が出てくるのだ。
「今日は複数の特性を持ったモンスターと対峙した時のことを想定して見ようと思う」
恒例となった黒板に文字を書き込みながら三人を見る。
「そうだな、例えば・・・。メラ系の効かない溶岩魔人とヒャド系の効かない氷河魔人が同時に出てきたとする。そしたらどうする?」
例えばとか言いながら思いっきりフレイザードを意識したチョイスをする。
でもコイツはフレイザードのことまだ知らないし、知るのも数年後だから大丈夫だろう。
「はい」
「はい、アポロくん。どうする」
「それぞれの弱点属性の呪文をぶつけて戦う」
「その答えだと50点。ちなみに満点は100点だからな」
あえて厳し目にする。じゃないと将来文字通り痛い目に遭いそうだし。
アポロは唸りながら、次の答えを考え始める。
「はい」
「エイミさん。どうぞ」
「イオ系やギラ系、バギ系の呪文で戦います」
「おお、良いね。80点ってとこか。合格」
拍手をしてエイミを褒め称える。
「モンスターの中には特定の呪文が効かないどころか、吸収したり跳ね返したりする奴がいるからね。戦い方を間違えたら命取りだ」
次の問題に移ろうと黒板を消し始める。するとアポロが疑問を口にした。
「今の答えが80点なら、100点の答えは何なんだ? もしかして闘気で戦うとか」
「正解。ま、普通に考えたら闘気で戦うのが100点だよな。お前たち賢者には出来ない戦い方だよ」
フレイザードを相手に戦った場合、呪文よりも闘気で戦う方が安定してダメージを与えられるだろう。
作中ではなかったが、ギラのような炎熱系の呪文は吸収されることもありえるしな。
「でも、そうだな。個人的には90点くらいの変わった戦い方があるんだが、それは賢者か魔法使いにしか出来ないだろうな」
「なにっ!? そんな方法があるのかっ。どんな戦い方なんだ」
思った通りの反応に嬉しくなる。
「そんなに気になるなら教えてやろう。これはかなり通な戦い方だけど、知っておいて損はない。その方法とはーー」
午前中の戦い方講座を終え、昼食の時間となった。マリンと一緒に昼食を作り、みんなで食事を取る。
自分で作った料理を食べて、俺は満足そうに頷く。
今回の特訓で、何故か俺は料理の腕を上げていた。
今まで一人で作ってた時には気にならなかったのだが、どうやら俺の料理は下ごしらえが圧倒的に足りていなかったらしい。
野菜を切るときも皮を剥いてぶつ切りにして煮こむだけ。味付けも醤油や味噌を入れるだけ。
コクや旨味というものを一切考慮しないごった煮状態だったのだ。道理であんまり美味しくないと思ったよ。
出汁という概念がまるで抜け落ちていたかのように無かったのだ。
前世ではまったく料理なんてしなかったからな。
でも、マリンに料理を教わったおかげで大分マシになったぞ。
今にして思うと、以前までの料理は何だったのかというレベルだ。
きっとこの特訓で一番効果がでたのは俺だろうな。
「午後はどうするの?」
エイミが食器を片付けながらこちらを振り向く。
「次は実践だ。と言っても洞窟には入らないよ」
俺も食べ終えた食器を片付け、午後の準備をする。
『ヒーリングサルブ』、『メンタルウォーター』、『神秘のアンク』っとこんなもんか。
マリンは気になったのか、いつの間にか隣でじっと俺の手元を見ていた。
「変わったアイテムね。どれも見たことがないわ」
「どれも世界中飛び回ってかき集めたからな(素材を)。見たこと無くて当然だよ」
嘘はついてない。
「ヒーリングサルブと神秘のアンクは薬草。メンタルウォーターは魔法の聖水だと考えてくれ。どれも効果はそれらよりずっと良い。俺のお墨付きだぜ」
これらは俺が錬金釜により作り出したアイテムだ。
アトリエシリーズでは定番のアイテムでどれも序盤はその使いやすさから重宝するんだ。
中でも『神秘のアンク』は戦闘不能状態も蘇生できる回復力があるからな。・・・試しては無いけど。
そんなアイテムを用意して一体何をするつもりなのかって?
決まっている。フィンガーフレアボムズの対策だよ!