「本当に大丈夫なの?」
マリンがヒャドを右手に溜めながら、心配そうにこちらを見つめる。
「ヘーキヘーキ。もしものときの準備も万端だし」
俺は回復アイテムと、その隣に置いた風呂を指さす。風呂は、ヒャドが直撃した場合の凍傷治療用だ。
マリンたちは回復呪文も使えるし、ここまで用意しておけば万が一の事態にも対応できるだろう。
「いつでもいいぜっ」
左腕に装着したガントレットを構える。
「それでは、いくぞ。ヒャドッ!」
アポロの声に合わせて、マリンとエイミも同時にヒャドを放った。
三発の呪文が飛んでくる中、俺は着弾を待たずに駆け出す。呪文が目前に迫った瞬間、ガントレットでそのうちの一発を受け止め、そのまま速度を落とさず突き抜けた。
両脇をすり抜けた残りの二発が、俺の背後で炸裂する。
「っと、こんな感じ。って、冷たっ!」
凍りついたガントレットを素早く外し、メラで腕を温める。
「随分と無茶なことをするな。これを私たちもやるのか?」
アポロがやや引き気味に言った。
これは、フレイザードのフィンガーフレアボムズに対抗するための特訓だ。
ただし、そのことは話していない。「魔法を使う敵に囲まれたときの対処法」として説明している。
実際、やっていることは以前スライムに囲まれたときの訓練に似ている。
それもあってか、エイミが不満げに口を開いた。
「この特訓って、あの時と大して変わらないじゃない。こんな危険なやり方で、わざわざやる意味あるの?」
もっともな疑問だ。何しろ、これから彼女たちも同じことをやるのだから。
「この特訓が無駄に見えるってことか。確かにそう思えるかもな。じゃあ、クイズを出そう」
あらかじめ用意しておいた例え話を口にする。
「10分で地面に1メートルの穴を掘れる人がいたとする。その人が100人集まったら、10分で100メートルの穴が掘れると思うか?」
「……できない」
少し考えてから、エイミが答える。
「理由は?」
「同じ場所じゃ作業できる人数に限界があるから。多すぎても邪魔になる」
「正解。じゃあ、これを“敵の攻撃”に置き換えて考えてみてくれ」
そう言って、三人の中心に移動する。
「敵に囲まれたとき、同時に攻撃してくるのはせいぜい前後左右の4人くらい。多すぎると互いに邪魔になる。でもこれは、武器や素手で戦う相手の話。もし敵が魔法使いだったら話は別だ」
右手にメラを灯し、俺がさっき立っていた位置に放る。
のんびりと飛んでいくそれに続けて、4発のメラを時間差で投げ込む。放物線を描いた5発のメラは、すべて同じ場所に時間差で着弾した。
「こんなふうに、呪文はわずかなスペースがあればいくらでも飛んでくる。威力が弱くても、まとめて当たれば無事じゃ済まない」
視覚的に示した効果もあってか、みんな納得したようだ。
よし、気が変わらないうちに特訓を始めるとしよう。
フィンガーフレアボムズは、極めて強力な呪文だ。
5発のメラゾーマを同時に放つ技で、それを完全に避けるのはほぼ不可能。耐えきれるわけもない。
ならば、多少のダメージを覚悟で突っ込むしかない。
そのために、ガントレットを用意した。これでダメージを最小限に抑えつつ攻撃に転じる。それが現状、最善の戦法だ。
いつになるかは分からない。
だが、彼らは確実にフレイザードと戦うことになる。そのときに後悔してほしくない。だから、今のうちにこの経験を積んでおいてほしい。
彼らは真面目だ。
特訓が終わっても、自主的に練習を続けるだろう。
椅子に腰を下ろし、彼らの様子を見守る。
……よくやるよな、明確な目標もないのに。
それとも、“立派な賢者になる”ってのが目標なんだろうか。
そうだ。頑張ったご褒美ってわけでもないが、装備品でもプレゼントしようかな。
特訓も大事だが、いい装備を整えるのも重要だ。
となると、何がいいか……。
『旧文字』を書いただけの装備品は、文字が読めない者には使えない。
かといって、グリードアイランドのカードは渡せない。というか、そもそも他人が使えるかどうかすら試していないし、試すつもりもない。
なら、やはり錬金釜で調合するか。
錬金釜で作ったアイテムは、素材に『旧文字』を含んでいても問題なく使える。
彼らが俺の作った『ヒーリングサルブ』や『メンタルウォーター』を普通に使えていることからも、それは明らかだ。
ただし、俺が念を込めて『ヒーリングサルブ』を使うと、光を放ってホイミのように回復するのに対し、彼らが使う場合はただの薬として塗って使用する。
それでも、数分で傷が癒えたり、魔法力が回復したりと、効果は異常に高い。
アトリエシリーズで、戦闘中にアイテムを使えるのが錬金術士だけなのは、こういう理由なのかもしれないな。