母なる大地とはよく言ったもので、土がなければ植物は育たない。
植物が育たないということは食料がないということ。食料がないということは生き物がいないということだ。
というわけで、この島に足りないのは土だ。
耕しまくった地面を眺め、ため息を吐く。
地面っていうかこれ、ほぼ石だわ。砂漠で植物が育ちますか? 生き物が住み着きますか?
そこで「サボテンがあるじゃん」「サソリやラクダがいるじゃん」と言うあなた、それじゃないんですよ。
良いですか? この場合のことを言っているんですよ、今の状況のことをね。
緑化計画なんだから、緑化しなければいけないのだ。
この辺の雨量は知らないが、対岸の大陸には木々が茂っているから、雨は降るのだろう。
この島は貧相だけど、植物がまったくないわけではない。あくまで「人が暮らせない程度」の環境だ。
ならば何が足りないのか。それは栄養――土が貧弱だから植物が育たない。
では土はどう準備する? 他の大陸から土を運んでも、この島は大きすぎる。もっと別の方法を考えたほうが早い。
考えた結果、俺は閃いた。土がないなら、土を作ればいいじゃない。
というわけで、バルジ島の土壌整備を行う。
そもそも土とは何か。詳しくないが、「細かい砂や岩などの鉱石」と「微生物や植物の死骸をバクテリアが分解したもの」が混ざったものだ。……ややこしいな。
砂や岩は山ほどある。半月かけ鍬で地面の岩を粉砕しまくったからな。問題は微生物と植物をどうするかだ。
そこでこれを用意した。
【栄養剤 500ml】
・土地を豊かにする液体。撒くだけでどんな植物でも早く成長。使う場合は1,000倍に希釈してから。
あんまりこういうのは詳しくないが、とりあえず栄養を与えれば何とかなるだろ。
俺は『栄養剤』×20本を、半ばまで水の溜まった湖へ投げ込んだ。それだけでは植物が育たないので、島にある土と苔・水草も少し持って来て同じく湖にぶち込む。あとは時間をおいて見るだけだ。失敗したら別の方法を探せばいい。
+
「お、おおう……」
翌日、湖を見に来た俺は圧倒された。
湖が苔だらけで、一面緑色だ。
栄養剤の効果が嬉しい半面、恐ろしくもある。使い方を間違えれば生態系を狂わせる代物だ。
十年以上放置した水槽みたいな汚い色の湖を見て悲しくなったが、苔と水草が生えているだけで水自体は汚れていないはずだ。
あとはパプニカかベルンから手頃な水棲生物を放流すれば、湖は完成だ。
ーー湖が完成した後、俺は湖を起点に緑化を進めた。
苔ごと桶で汲んだ水を辺りへ撒くと、その場所も苔や草で覆われる。
日々、栄養剤入りの水を撒き続けた甲斐あって、1年後にはバルジ島の5割が森のようになっていた。
「……やり過ぎたな」
塔の頂上から島を眺め、呟く。どうしてこうなったっけ。
すっかり当初の目的を忘れている自分に気づき、黄昏れながら辺りを見る。ああ、そうだ。避難民たちの食料確保が目的だった。
その目的なら、完全に達成したと言っていいだろう。
島には直径約40mの湖が10箇所ある。霊丸4発分で1つの湖サイズだ。
生態系に干渉しまくりで、この世界の異物である俺としては少し罪悪感がある。そんな感傷に浸る俺をよそに、下では小鳥が果物を突いている。
【豊作の苗】
・枝ごとに異なる種類の実がなる不思議な木の苗。毎日必ず1つ果実を実らせ、成長後は普通の果樹に。
島全体に5,000本以上の苗を植えたが、動物たちが食べに来るので競争率は高い。
食料が豊富になると、小動物や虫、爬虫類も増え……正直、勘弁してほしい。でも食物連鎖ができたことで、この島にはもう俺の手が要らない。
1年半かけた緑化計画は、終わってみればあっという間だった。
達成感に満たされる間もなく、強い虚しさが胸を締めつける。……どうして気づかなかったんだ。
「はあぁ、帰るか」
ため息を吐き、荷物をまとめ始める。
念の修業も順調、緑化も成功したというのに、俺の心は晴れない。先を思うと暗澹たる思いが支配する。
「じゃあな、バルジ島。結構楽しかったぜ」
その想いを抱き、自ら作り上げた第二の故郷に別れを告げる。
本当はもっと居たいが、愛着が湧きすぎると困るからな。
「あーあ。数年後にはフレイザードの氷炎結界呪法で、全部壊されるんだよなあ……」
やるせない気持ちを言葉にして、俺はバルジ島を後にした。