ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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25 勇者

「あのー、相席よろしいですか?」

 

 バルジ島から帰って1年。俺はパプニカ周辺で修行に励みつつ、いま食堂で昼食をとっていた。すると、隣の席から声がかかった。

 

「ああ、別にいいで――ぶぉふっ!」

 

 口に物を含んだまま返事したせいで、思わずむせ返る。

 

「大丈夫ですか? お水をどうぞ」

「っげほっ……ど、どうも」

 

 咳をしながら水を受け取り、礼を言う。

 

「いやー、それにしても良い町ですねえ。ちょっと立ち寄っただけなのに、つい長居しちゃって」

「へ、へえ……そうですか」

 

 適当に相槌を打ちながら窓の方を向いて水を飲んだ。

 そっぽを向きつつも気になって、チラリと横目で男を盗み見る。

 

「どうかしましたか?」

「っ!? い、いえ、別に」

 

 視線に気づかれ、挙動不審になりながらも平静を装った。

 

「――ですからね、私もぜひ見てみたいなと思ったわけですよ」

「は、はい……」

 

 偶然相席しただけなのに、この男はやたらと話しかけてくる。

 その勢いと人柄に、つい会話に乗ってしまう自分がいた。

 

「旅行ですか? パプニカは豊かな国ですから、一人旅にはちょうどいいと思いますよ」

「ええ、当てのない一人旅ってやつです。まあ──仕事も兼ねてますけど」

 

 話題を広げようと、俺は軽く探りを入れる。

 

「──というわけなんですが、そうそう申し遅れました。私、こういう者でございます」

 

 そう言って男は巻物を取り出し、広げて見せた。

 

「アバン・デ・ジニュアールⅢ世。勇者育成のための、いわゆる家庭教師です」

 

 人の良さそうな笑顔で自己紹介をする“勇者アバン”。

 その言葉を聞いた瞬間、俺は胸に強い不安を覚えた──。

 

 

+

 

 

 偶然相席した相手に自己紹介する人間がどれほどいるだろう。

 少なくとも俺は絶対にしない。個人情報や防犯意識の問題じゃない――普通、自己紹介なんてしないものだ。

 

 人が誰かに自己紹介をするのは、その人物と深く関わる必要を感じたときだ。

 名前や素性を明かせば、円滑なコミュニケーションができるからだ。

 

 では、なぜアバンは俺に自己紹介したのか?

 答えは簡単。彼は俺と「がっつり」知り合おうとしているに違いない。

 

 偶然を装って近づいてきたが、パプニカ城との繋がりがある彼なら、俺の噂や居場所など容易に知り得るはずだ。

 

 ――目的は2つ考えられる。

 

 1つ目は、俺の持つ便利アイテム。回復薬や特殊薬品を使って流行り病を押さえたり、作物不作を救ったことで、城中に俺の噂が広まっている。

 学者気質のアバンなら、一目見ようと訪れても不思議ではない。

 

 2つ目は、俺を弟子にすること。凶悪モンスターの討伐などでその腕を見込まれ、次期勇者候補として目をつけられた可能性だ。

 しかしもし弟子入りすれば、ポップやダイと同じくアバンの特訓を受ける期間がずれ、彼らとの縁を狂わせかねない──そんな余計な介入は許せない。

 

 考えられる理由を巡らせるうち、不安が胸を締めつける。

 だがこれはまだ妄想の域。アバンは何のアクションも起こしていない。もしかしたらただの営業かもしれない。

 

 ならば、今の俺にできることは――徹底してシラを切ることだけだ。

 

「それにしても珍しいものをお持ちですね。その木刀、普通の木刀ではありませんね?」

 

 突然、アバンが立てかけてある木刀を手に取って観察した。

 

「あ、ちょっとっ!」

 

 慌てて取り返し、抗議の声をあげる。

 

「おっと失礼。つい気になりまして……やはり変わった木刀です。あなたもそう思いますよね?」

 

 この木刀には『旧文字』が刻まれ、一度「周」を込めればしばらくオーラを留め続ける――名刀に勝るとも劣らない逸品だ。

 実際、昨日込めたオーラがまだ僅かに残っている。闘気を操るアバンなら、その痕跡を感じ取っても不思議ではない。

 

 探りを入れられているとすれば、最善の答えは何だろうか。所有者として「知らない」とは言えないが、細部をぼかしておけば逃げ切れるはずだ。

 

「そうですね……昔、別の町の武器屋で買ったんですが、とても重宝しています。変な文字は書いてあるけど、普通の木刀よりめちゃくちゃ頑丈ですからね」

「ほう、武器屋で? ぜひ教えてください」

「ベルナの森近くの町ですよ。十年以上前の話なので、今もあるかはわかりませんが」

 

 どうせ行っても売ってるのは普通の木刀だけどな。

 

「おや、その町なら私も行ったことがあります。午後にでも訪れてみましょうか」

「売っているといいですね……では、俺はこれで」

「もう行かれるんですか? もっとお話したかったのに。──貴重な情報をありがとうございました。またどこかでお会いしましょう、トーヤさん」

 

 話が一区切りついたところで、俺は立ち上がり食堂を出た。

 これ以上一緒にいれば、どこかでボロを出すに決まっている。

 

 

 +

 

 

 どうやら俺の不安は杞憂だったらしい。

 結局、ただの世間話に過ぎなかった。

 

 変わった木刀を見つけて気になっただけだったのだろう。だが、しばらくはパプニカに近づかないほうがいい。

 アバンとは接触しないに越したことはない。

 

 俺は自宅のベッドに横たわりながら、今日の出来事を反芻していた。

 意識が朦朧としてきたころ、ふと別れ際の言葉を思い出し、勢いよく起き上がる。

 

 ――またどこかで会いましょう、トーヤさん――

 

 名乗った覚えなどない。俺のことを知ったうえで近づいてきたのだ。

 どういう意図があるのかはわからないが、向こうがそう出るなら、俺も相応の対応をしてやる。

 

 俺は荷物をまとめると、深夜にもかかわらず家から飛び出したのだった。

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