ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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26 逃亡

 人が生きるには適度なストレスが必要──本当なのだろうか。

 

 この世界に転生して以来、バーンによる世界滅亡カウントダウンのせいでストレスはマッハである。

 転生特典を差し引いても、俺がここまで強くなれた最大の要因はまさにこのストレスだ。成長にはストレスが必要、という説だけは認めざるをえない。

 

 しかし今、俺にはもう1つの懸念が降りかかっている。

 勇者アバン。かなりの切れ者で、俺の正体を暴きかねない恐ろしい男だ。

 

 正体がバレるくらい大したことないだろ、と思うかもしれないが、当事者にとっては死活問題である。

 何故なら勇者アバンは大魔王バーンから絶大な警戒を受けているからだ。

 

 ──そんな男と行動を共にし、俺の存在を匂わせるような真似でもしようものなら、地上崩落の前に俺の命が危ない。

 バーンがどこまでアバンを監視しているかは知らないが、少なくともダイと魔王軍が交戦を始めるまでは、絶対に存在を知られたくない。

 

 だから俺は、アバンとの接触を断つべく逃亡生活に踏み切った。

 

 逃亡生活1日目。場所はベンガーナ。

 

 昨夜遅く、自宅を飛び出した俺は、アバンから逃れるべく別の町へやってきた。

 木を隠すには森、人が隠れるならば人の多い町へ入るのが一番だろう。

 

 ここベンガーナはパプニカと遜色ないほどの大都市だ。人が多ければ足跡を辿るのも難しいだろうしな。

 

 ここでひと月ほど時間を潰し、ほとぼりが冷めたらパプニカへ帰ろう。

 アバンの目的はわからないが、居もしない相手を1か月以上待ち続けるとは思えない。しばらくは宿屋で念の修行をしつつ、観光でもして過ごすつもりだ。

 

 

+

 

 

 お腹が空いたので食事にしようと、宿屋の1階にある簡易酒場へ入った。

 カウンターに腰を下ろし、メニューを眺めて少々がっかりする。酒場だけあってつまみと酒がメインだ。俺みたいに酒の飲めない奴からするといい迷惑だ。

 

「すいません、ミルクを1つ――」

「ミルクを2つ、お願いします」

 

 俺の注文に被せて、別の誰かが先に頼んだ。

 無礼な奴だなと思い、その声の主をちらりと見ると――。

 

「んげっ!?」

 

 思わず声を上げる。

 そこには昨日と同じく笑顔全開の勇者アバンがいた。

 

「奇遇ですねえ。昨日に続いて今日も会えるとは。これも何かのご縁でしょうか」

「ア、アバンさん……どうしてここに? パプニカにいたはずじゃ……」

 

 動揺しながら問いかけるが、アバンはまるで気にせず横に腰を下ろし、メニューを開いて唸った。

 

「この宿のお酒は絶品らしいですよ。いかがですか、トーヤさん? 何なら私がご馳走しますが」

「いえ、俺は酒ダメなんで……」

「そうですか。それでは私も控えましょう」

 

 メニューを閉じたまま無言で空を見つめるアバン。

 1分にも満たない沈黙だが、異様に長く感じられた。

 

 ──アバンは口を開く。

 

「あなたもお気づきでしょう。端的に言います。私は最初からあなたを知っていて、声をかけました」

 

 ある意味で予想外のその一言に、俺は言葉を返すことなく、無言で先を促した。

 

「まさかこうして逃げられるとは……。警戒させまいと隠したつもりでしたが、逆効果だったようですね」

「……あなたの目的は何です? どうして俺を?」

「目的ですか。ふぅむ、そうですね……。私もそれが知りたい。あなたの目的は何ですか……?」

 

 真剣な眼差しで見つめるアバンに、俺は言葉を詰まらせた。

 アバンは一体何の話をしている?

 

「どうやらトーヤさんは、個人で持つには大きすぎる力をお持ちのようですね。それも生まれつきではなく、修行によって得た力──並大抵の努力ではないはず。一体何のために?」

 

 力とは単純に俺の戦闘能力を指しているのだろうが、だから何だと言うのか。

 

「別に、強くなりたかったから修行しただけです。そんな奴は珍しくもないでしょう」

 

 アバンは黙って頷き、次にテーブルの上に『フェニクス薬剤』を置いた。

 以前パプニカで流行り病が起きた時にレオナ姫へ渡したものだ。どうやら使いきらずに残していたようだ。

 

「ではこのアイテムは? 不治の病さえ瞬く間に癒すそうですね。その貴重な薬を、個人で大量に所持し、しかも無料で振る舞う──普通はあり得ませんよ」

「あなただって同じ立場ならやるんじゃないですか? 人並みの正義感があれば、それくらい」

「1つや2つならともかく、あなたの場合は数が多すぎる。問題は“何故”それほど貴重なものを蓄えていたのか、という点です」

「なぜって……偶然手に入ったから、ですかね」

 

 自分でもわかっていた。言い訳になっていないことに。

 

「私の考えはこうです。あなたはいずれ訪れる“何か大きな災い”への備えとして、力とアイテムを蓄えていた──そうでしょう?」

 

 アバンの言葉に、俺は返す言葉が見つからなかった。二日目の会合でここまで見抜かれるとは思わなかった。

 

「もしそうなら、私も力になりたい。どうですか、トーヤさん?」

 

 真摯な視線を向けられ、俺は必死に考える。

 アバンの提案を受け入れて協力を仰ぐべきか──それとも逃げて、原作通りの結末を待つべきか。

 

 しかし、何もしなくてもダイがバーンを倒してくれる。

 わざわざ危険を増やす必要はない。俯いて思索を巡らせ、覚悟を固めた俺は、意志を込めて顔を上げた。

 

「アバンさん、聞いてください。実はこの世界は、あと少しで──」

 

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