ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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29 小さな勇者

「そーれ、いちっ にっ さんっ もっと大きな声でっ!」

 

 手拍子に合わせ、少年は木刀を力強く振り下ろす。

 

「いちっ! にっ! さんっ!―――」

 

 ここは「モンスター島」と呼ばれるデルムリン島。

 白い砂の浜辺に打ち寄せる小さな波音をBGMに、俺と少年は特訓をしていた。

 

 少年の名はダイ。いずれこの世界を救う勇者になる者の名である。

 

 ──俺がこの島に来たのは5日前。パプニカを出発したのは10日前のことだった。

 レオナ姫からダイの話を聞いた俺は、すぐにデルムリン島目指して旅立った。すべては、ダイの特訓をするために。

 

 原作では、このあとまもなく魔王軍の侵略が始まる。歴史を変えずにダイをトレーニングするには、このタイミングしか思いつかなかった。

 アバンはレオナ姫とのイベント後、ポップを伴ってここへ来るだろう。

 

 ダイの修行期間がどれくらいだったかは覚えていないが、恐らく半月とかそんなもんだろう。

 勇者育成のためのスペシャルハードコース。ポップがそれを受けると言ったダイを引き止めていたのが強く印象に残っている。

 

 レオナ姫とダイが知り合ってから既に三週間は経過している。魔王軍が攻め込んでくるまで残り半年あるかどうか……。

 何故アバンに直接頼まず、俺がやっているのか。それには俺なりの理由があった。……ダイにとって酷な理由だが。

 

 それは措いといて、今は特訓である。

 一番の懸念事項であったダイの籠絡はあまりにもあっさり上手くいった。

 

 ダイには、俺がパプニカ出身であることと、かつてパプニカにも襲来したモンスターを何度も退治した──という話を伝えた。

 それを聞くや否や、ダイは目を輝かせて自ら特訓を志願してきたのだ。

 

 勇者に憧れる子供だけあって、その辺は単純で助かった。

 

 

「でやっ はっ! りゃあぁぁ!」

 

 連続する木刀を軽くいなし、距離を取って柄を下ろす。

 

「――少し休憩にするか? 疲れただろ」

「はぁはぁ、まだまだ平気だよ、俺」

 

 息を切らしながらも、ダイの瞳には確かな闘志が宿っている。流石は生まれながらの戦士といったところか。

 

「そう焦るなって。休むのも修行のうちだぜ。っていうか俺が疲れたんだ」

 

 木陰へ腰を下ろし、冷たいジュースをコップへ注ぎダイへ手渡す。

 コップに注ぎ、そっと差し出すと、ダイは「ありがと!」と笑顔で受け取り、一気に飲み干した。

 

「くはぁぁ……! すっごく美味いよ、これ」

「ははは、そりゃよかった。まだまだあるから、たくさん飲んでくれ」

 

――取り出したのは、例の《魔女のケトル》。

 

【 魔女のケトル 1.8L 】

 ・液体を入れて1時間おいておく。注ぐときに飲みたいものを念じるとその通りのものが出てくる。どれもすごく美味しい上に、栄養満点。

 ・注ぎ口が2つあり、青い口からは冷たい、赤い口からは温かい飲み物が出る。

 

 俺もキンと冷えたコーラを念じて、コップに一杯注いだ。

 ひんやりと爽やかな炭酸が口いっぱいに広がり、疲労がスーッと引いていった。こっちの世界じゃコーラはないからな。

 

 島の砂浜にはまだ昼の日差しが残っている。

 午後の特訓に向けて、俺たちはしばし静かな波の音をBGMに、呼吸を整えるのだった。

 

 

「あと1時間は休憩だから、好きなことしてていいぞ」

「だったらさ、トーヤの話をもっと聞かせてよ! 戦ったモンスターとか、冒険で行った場所とか!」

「いいけど、大した話じゃないぞ」

 

 そんなに期待した顔で見つめられると、悪い気はしない。

 俺はパプニカで起きた事件や倒したモンスターのことを、ダイに話して聞かせることにした。

 

「そうだな……モンスターってのは基本的に街の中には入ってこないんだが、あのときは何故か突如、街の中に現れたんだ」

「突然? どうして街の中に入ってこないの?」

 

 矢継ぎ早に質問を飛ばしてくるダイ。よほど興味があるらしい。

 まあ、この島にいたら人と話す機会も少ないだろうしな。俺も森の奥で暮らしてたときは、同じだった。

 

「街には人間の縄張りみたいなものがあって、モンスターは意味もなく他人の縄張りに踏み込んだりしない。モンスターからしたら、危険しかないからな」

「ふーん。そっか……そういえば島のモンスター達も互いの縄張りにムリに入ったりしないや。――じゃあ、どうしてそのモンスターは突然現れたの?」

「さぁな……理由はわからない。わかっていたのは、あのまま放っておいたら街の人間が危ないってことだけさ」

 

 今思えば、あれは司祭率いる一派が連れてきたモンスターだと思っている。

 レオナ姫暗殺のために用意したヤツが、何らかの理由で逃げ出したのだろう。まさか強さを試すためにわざと放ったわけじゃないと思うが……。

 

「とにかく、偶然そこに居合わせた俺は、悲鳴を聞いて駆けつけたんだ」

 

 俺は当時を思い出しつつ、できるだけ面白く話を続ける。

 

「駆けつけた場所には、小さな女の子とその父親らしき人がうずくまって震えていて、その奥でデスストーカーが斧を振りかざしていたんだ」

 

 ダイは目を丸くして、固唾を呑んで聞き入っている。

 

「正直、助けに行くか迷ったよ。木刀しか持ってなかったし、そのデスストーカーも通常の倍以上のデカさだったからな」

「で、でもトーヤは助けに行ったんだよね?」

「はは、そうだな。俺は振り下ろされる斧より先に走り出して、白刃取りで斧を受け止めながら叫んだんだ。『俺のことはいいから、早く逃げろ!』ってな」

 

 ダイの瞳がキラキラと輝くのを見て、俺はさらに続けた。

 

「その二人が無事に逃げ去るまでモンスターの気を引きつけて、周りを見渡したら、もう俺とアイツだけだった。城の兵士も駆けつけるには時間がかかるだろうし……」

「……そ、そんな強そうなモンスターと!? それで、そのあとどうなったの?」

「あとは、何やかんやで倒して、めでたしめでたしさ。被害も軽傷が数人だけで、俺も無事だったから、みんなハッピーってやつだ」

 

「たはっ……トーヤァ、それじゃあ一番いいところがないじゃないかよぉ!」

 

 拍子抜けしたダイが思わずズッコケる。

 

「木刀で頭をぶっ叩いたら、一発で沈んじゃったんだから仕方ないだろ。俺だって命がけで向かったのに、あっさり片付いて驚いたんだぞ」

 

 こうして俺の“武勇伝”は微妙な盛り上がりのまま幕を閉じた。

 しかし、ダイはそれでも十分に楽しんでくれたようだった。

 

 

 +

 

 

 特訓の目的は、ダイの基礎能力を最大限に引き上げることにあった。

 原作では、アバンからの特訓はハドラー襲来によって途中で中断を余儀なくされている。

 

 大地を斬り、海を斬り、そして空を斬る──これら三つの型をすべて習得した先に完成するのが「アバンストラッシュ」だ。

 ダイがその完成形として初めて空の技・空裂斬を披露するのは、フレイザード戦の直後である。

 

 空の技はアバンの技の中でも最も習得が難しく、一朝一夕には体得できないと言われている。

 仮にアバンの「スペシャルハードコース」を丸一ヶ月と設定した場合、原作のダイはその半分ほどしか特訓を受けられなかったため、実質的には約二週間の修業期間しかなかったと考えられる。

 

 一週目に大地斬、二週目に海波斬を習得し、残り二週間で空裂斬を教えるプランだったのではないか。

 

 だが、俺との特訓で基礎能力を底上げされたダイならば、ハドラー襲来までの間に空裂斬を習得する可能性は十分にある。

 もちろん、空裂斬を覚えただけでハドラーを倒せるとは思わないし、続くクロコダインやヒュンケルも素の状態のダイなら厳しい相手だ。だから、ここまでは予定調和の範疇で済むだろう。

 

 真に重要なのは、ポップたちとの冒険で得る「心の成長」だ。

 ダイの冒険とは、紋章を使いこなすための冒険といっても過言ではない。そして、竜の騎士の紋章は“心のありよう”と密接に結びついていると思う。

 

 念能力者としての経験から言えば、意志の強さがそのまま力になるのが念の本質だ。

 原作でダイが何度も意思の力で紋章を制御したように、彼もまた“心の鍛錬”が不可欠だろう。ダイの親父のバランが、成人するまでは紋章の力を自由に使えないと言っていたのは、強大な力を心で制御できないからなんじゃないだろうか。

 

 バラン自身、竜魔人と化した己の心を制御しきれいていなかった。

 

 だからこそ、ダイにはあえて、アバンがハドラーに敗れる“現場”を見せるつもりでいる。

 子どもには酷な経験かもしれないが――俺には、ダイ抜きにバーンを倒す手段が思い浮かばないのだ。すまない、ダイ。

 

 そんなことなど知る由もなく、無邪気な笑みを浮かべたダイは、今も木刀を振り続けている。

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