ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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33 離脱

「はぁ、はぁ……――ヒャダルコッ!」

 

 眼前に突如現れた骸骨剣士を凍りつかせて、エイミとレオナは城内を駆け抜けていた。

 すでに倒した敵は五十体を超える。不死身の軍団の魔の手をかいくぐり、彼女たちは先を急ぐ。

 

 着々と避難の準備が進むなか、ついに最悪の報せが届いた。

 ――城門が破壊された――

 

 籠城していた城の者たちや、街の住民はその報せに恐怖した。誘導する兵士たちの声も届かず、彼らは我先にと一心不乱に逃げ出した。

 王家の者たちは、近衛の騎士や魔法使いと共に、隠し通路を使って脱出を試みた。

 

 幸い、不死騎団は戦闘力こそ高くないため、逃げるだけなら街の者たちでもなんとか可能であった。

 蜘蛛の子を散らすように城を離れる住民たちに対して、モンスターは追撃を仕掛けてこなかった。彼らの目的はあくまでパプニカの壊滅と城の占拠。住民の命には興味がなかったのだ。

 

 ――だが、王家の血を引くレオナは別だった。

 

 不死騎団は執拗に彼女を追い、脱出を阻もうとした。

 住民が逃げ去った後の城内には、入れ替わるようにモンスターが入り込み始めていた。

 

 それが、およそ三十分前のこと。

 

 現在、レオナとエイミは潜伏していた城の地下室から抜け出し、屋上を目指している。

 幸い、脱出用の気球の準備は整っていた。

 

 あとは屋上へたどり着き、乗り込むだけで、城から離脱することができる。

 ――無事にたどり着ければ、の話だが。

 

 最上階を目指して走る彼女たちに、モンスターは次々と襲いかかってくる。

 

「――ヒャドッ!」

 

 呪文で敵を凍らせながら、わずかな隙を突いて先を急ぐ。

 武器で砕こうが、呪文で吹き飛ばそうが、何度でも復活する不死身の騎士たち。

 

 だからこそ、凍結させて動きを封じる――それが、不死騎団に対する彼女たちの唯一の手段であった。

 

 

 +

 

 

 ――ようやく辿り着いた最上階へ続く最後の階段。

 その目前の開けた場所に、一体の騎士が佇んでいた。

 

 全身を禍々しい鎧で包み、まるでこの場を支配するかのように堂々と立つその姿は、常軌を逸していた。

 レオナを背後に庇いながら、エイミは息を呑む。

 

 騎士の横をすり抜け、屋上の気球に乗り込む。

 ――たったそれだけのはずなのに、彼女たちの脚は凍りついたように動かない。

 

 動いたのは、騎士の方だった。

 

 手に持った剣を構えることもなく、ただゆっくりと、確実に歩みを進める。

 エイミはレオナだけでも逃がそうと、わずかな隙を探したが――活路は、どこにも見当たらなかった。

 

 ――その時だった。

 

「メラゾーマッ!!」

 

 迫り来る騎士を、灼熱の爆炎が呑み込み、視界を真紅に染める。

 

「姫っ、エイミ、無事かっ! ここは俺が引き受ける! 早く屋上へっ!!」

「――アポロっ!? 無事だったのね……! 私も一緒に――!」

 

 奇跡的とも言える救援に、エイミは驚きと喜びの声を上げた。

 

「あなたたちも一緒に逃げるのよっ! この城はもう、すぐに敵の手に落ちるわ!」

 

 残って戦うと言う二人に、レオナは待ったをかけた。

 だが、彼女と彼らの間には微妙な齟齬があった。

 

 レオナは、彼らが場内の敵を引きつけて時間を稼ぐつもりだと考えていた。

 

 しかし、目の前の騎士は、そんな甘い相手ではなかった。

 アポロとエイミは、なおも炎に包まれる騎士を見据えていた。

 

 そして数度の言葉を交わした、そのわずかな間に――突如、燃え盛る炎が何かに裂かれたように霧散した。

 

 そこには、まるで何事もなかったかのように、不気味な沈黙を纏いながら佇む騎士の姿があった。

 その光景に、レオナは驚愕する。

 

 アポロとエイミは、すぐさま追撃の呪文を放つため、魔力を溜めはじめた。

 

「エイミっ。君はずっと戦い続けて、もう魔力がほとんど残ってないはずだ。俺一人のほうがやりやすい!」

 

 アポロの言葉に、エイミは素直に従う決意を固めた。

 

 確かに魔力はわずかしか残っておらず、このままでは足手まといになるだけかもしれない。

 

 レオナを一人で逃すのも不安だ――その判断は、瞬時に下された。

 エイミはすぐにレオナの腕を引き、屋上へ続く階段を駆け上がっていった。

 

 

 +

 

 

「――意外だな。てっきり、後を追うのかと思ったが……」

 

 逃げる彼女たちを守るように、階段の前へと立ち塞がり、片手に呪文を宿しながらアポロは問いかけた。

 

「ふん、下らん。あんな小物を逃したところで何が変わる。国が滅びたという事実に、違いはない」

 

 返答など期待していなかったが、眼前の騎士は意外にも言葉を返してきた。

 

「……姫が生きている限り、パプニカは滅びないっ! 必ず貴様らを打ち倒し、再び国は蘇る!」

「世迷い言を……ならば、ゆっくりとこの世の行く末を見届けるがいい。あの世でな」

 

 騎士はゆっくりと剣を構え、挑発するようにアポロへと殺気を送りつける。

 

「脆弱な人間風情が、どうやって俺を倒すのか――興味がある。死ぬ気でかかってこいっ」

 

 その言葉に込められたのは、圧倒的な憎悪と、嘲るような冷酷さだった。

 そして、騎士は静かに、一歩を踏み出した。

 

 先に仕掛けたのは、アポロだった。

 騎士が一歩を踏み出すと同時に、彼は《イオラ》を放つ。爆音と衝撃波が城内に轟き、大気が震えた。

 

 確かな手応えを感じ、アポロは敵を見据える。

 だが――そこには、まるで無傷のまま、騎士が立っていた。

 

 この結果は、ある程度予想していた。

 先ほど、不意打ちで放った《メラゾーマ》が直撃しても、奴は微動だにしなかったのだ。

 

 理由はわからない。

 だが、この相手には呪文が通じない――アポロはそう確信し始めていた。

 

「どうした? その程度で俺を倒すなどとほざいていたのか。来ないのならば、こちらから行くぞッ!」

 

 重々しい鎧をものともせず、騎士は神速の一撃を繰り出す。

 

 近接戦を得意とする戦士と、遠距離から呪文を放つ賢者――両者の戦い方は根本的に異なる。

 戦士は肉薄して剣や拳で敵を斬る。一方の賢者は、距離を保って魔法で仕留める。

 

 そして、今は狭い城内。

 呪文主体のアポロにとって、不利な戦場だった。

 

 この場所で間合いを詰められ、剣戟を繰り出されたなら、普通の賢者や魔法使いであれば、もはや敗北は免れない。

 

 ――あくまで、「普通」であれば、だ。

 

「でりゃああッ! ――なにッ!?」

 

 刃が届く寸前、アポロは渾身の《イオラ》を再び騎士に叩き込んだ。

 

「ぐぉッ……!」

 

 至近距離で炸裂した爆炎。

 だが吹き飛ばされたのはアポロ自身だった。呻き声を上げて床を転がり、彼我の間に再び距離が生まれる。

 

 騎士に目立った傷はない。

 一方のアポロは、爆風の反動により全身に痛ましい傷を負っていた。

 

 距離を詰められれば、為す術はない。ならば、距離をおく手段など問う筈もない。

 

 まるで、賢者という存在の常識が通用しない戦いだった。

 傷を回復呪文で癒やしながら、アポロは再び闘志を燃やした。

 

「ふふ……決死の覚悟で挑むか。面白いッ」

 

 アポロの燃える気迫に呼応するように、騎士の瞳も闘志を宿す。

 互いに仕切り直し、静かに睨み合う。そして――やはり先に動いたのはアポロだった。

 

 その行動に、今度は騎士が驚愕する。

 先ほど自爆同然にしてまで距離を取ったはずのアポロが、今度は自ら間合いを詰めてきたのだ。

 

 接近戦を得意とする騎士にとって、アポロの動きは遅く見えた。

 だがそれを補うかのように、アポロは《イオ》の弾幕で応戦する。

 

 前後左右、縦横無尽に動き回りながら、アポロは絶え間なく《イオ》を放つ。

 上級呪文ではなく初級呪文を選んだのは、走りながらでも高速で詠唱できるからだ。

 

 呪文の威力が上がるほど、その場に足を止める必要がある。

 だが《イオ》であれば、駆けながらの連射が可能だった。

 

 すでに三桁近い呪文を放ちつつ、それでもアポロは攻撃の手を緩めない。

 

「……ムダだということが、まだわからんのか。呪文で俺は倒せん」

 

 確かに呪文の効かない騎士にとって、アポロの行動は本来、無意味なはずだった。

 だがその言葉とは裏腹に、騎士はアポロの攻めに対し、明らかに手をこまねいていた。

 

 動き回るアポロは速度こそ遅いものの、予測できない軌道を描いていた。

 何より、《イオ》の爆風と衝撃波が絶え間なく視界を遮り、体勢を乱す。そのせいで、騎士は満足に剣を振るうことができずにいたのだった。

 

 いつ終わるとも知れぬ呪文の弾幕の中で、騎士はふと違和感を覚えた。

 この程度の呪文で自分を倒せるはずがない――それはアポロ自身が最も理解しているはずだ。

 

 ならば、何故それを続けるのか……。

 

 そして、すぐに思い至る。

 ――これは、時間稼ぎ。

 

 先ほどの姫や、城内に残る者たちを逃がすため。

 アポロは、命を賭して自分を足止めしているのだと。

 

「……たいした忠誠心だな。命をかけて、あんなクズ共を逃がそうとは」

 

 嘲るように吐き捨てる騎士の言葉に、アポロは動きを止め、まっすぐに騎士を見据えた。

 

「私の使命は、姫をお守りすること。それが果たせるのであれば、私の命などどうなっても構わない」

「ふん。ならば、今ここで手を止めて良いのか? これより貴様の大切な姫とやらを、殺しに向かってもいいんだぞ」

「追えるものなら、追ってみるがいい」

 

 アポロはそう言って、屋上へと続く階段を指し示す。

 

「こ、これはっ……貴様、最初からこれが狙いで……!」

 

 騎士が驚愕に目を見開く。

 階段の半分以上が、アポロの呪文によって崩れ落ちていた。

 

 それだけではない。今立っている場所さえ、いくつもの亀裂が走り、床板が今にも崩れそうになっている。

 これでは屋上へ向かうどころか、下手に動けば床ごと崩れ落ちてしまうだろう。

 

「無理に動けば下へ真っ逆さまだ。いかにお前とて、この高さから落ちれば無事では済むまい」

「くっはっははっ、はははははっ!」

 

 突如笑い出した騎士に、アポロが声を荒げた。

 

「――何がおかしいっ!」

「いや、なに……貴様があまりにも愚かでな。まさか、この程度で俺を倒したつもりじゃあるまいな?」

「……なんだと?」

「この鎧は、大魔王バーン様より賜ったもの。この程度の高さから落ちたとて――毛ほども感じぬわ!」

 

 怒声とも叫びともつかぬ咆哮と共に、騎士は一気にアポロとの距離を詰めた。

 虚を突かれ、アポロは動けない。

 

 その一瞬の隙を逃さず、騎士は必殺の間合いに踏み込み、その凶刃を振り下ろした――!

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