「っ!? あ、あなたは……トーヤくんじゃありませんか」
『同行』の光がやむと、目の前にはアバンが立っていた。
アバンの場所まで飛んできたのだから、当然といえば当然だ。
「お久しぶりです、アバンさん」
驚くアバンに軽く挨拶を済ませ、俺は今いる場所を確認した。
「ここは、破邪の洞窟ですか?」
修行のために何度も訪れた場所。簡素な造りではあるが、見覚えのある風景だったのですぐに分かった。
「……ええ。私自身の持つ破邪の力を、さらに高めようと思いましてね。外の状況は把握していますか?」
「その話は、先に進みながらでもいいですか? 地下に潜るのなら、俺も協力しますよ」
そう言いながら、俺は洞窟の奥へ歩を進めた。
「あ、トーヤくん? そっちじゃ逆戻り。地下はこっちですよ」
「……」
恥ずかしさをごまかすため、無言のまま足早に進んでいった。
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「――そうですか。パプニカが……」
俺は外での出来事を簡単に伝えた。
といっても、魔王軍の侵略によってパプニカが崩壊したことくらいだが。
「あなたの言っていた神託の通りになりましたね。ならばこそ、我々もできることをやらねばっ!」
アバンの正義の心に火がついたのか、拳を握りしめて気合を入れている。
「ところでアバンさん。あなたの弟子たちは無事に旅立ちましたか?」
「ダイくんとポップのことでしょうか。あの子たちなら、ちゃんと旅立ちましたよ。デルムリン島から出立するのを確認しましたから」
それを聞いて、胸を撫で下ろす。
ヒュンケルの行動から原作の進捗は予想できても、実際に他が原作通りに進んでいる保証はない。
ダイやポップがハドラーにやられていたとしても、不思議ではないのだ。
「その様子だと、神託に出てきた“魔王と戦う弟子”というのは、あの二人で間違いなかったようですね」
アバンには神託として世界の危機を話したが、彼の弟子が大魔王と戦うということしか伝えていない。
今の俺の反応から、自分の選択が間違っていなかったと判断したのだろう。相変わらず油断ならない人だ。
ぶっちゃけ、アバンは最終決戦までここに籠もるんだから、隠す必要はないんだけど……。
とはいえ、わざわざ話すことでもない。必要以上に隠すつもりはないが、バレてもごまかすのが面倒なのでやめておこう。
「ダイの特訓はうまくいったんですか?」
「それはもう、バッチリ……とまでは言えませんが、七割方は教えることができましたよ。あなたの基礎訓練の成果ですね」
「うっ」
やっぱり、俺がダイを特訓していたことはバレていたか。口止めしていなかったしな。
でも七割か……随分と順調なんじゃないだろうか。それなら、クロコダインに一方的にやられる心配はない……か?
いや、クロコダインの皮膚は鋼鉄並みに硬いって話だしな。紋章なしじゃ、厳しいかもしれない。
「ここで、重大なお知らせがあるんですが」
俺がダイの先行きを心配していると、アバンが真剣な口調で話しかけてきた。
「な、なんですか?」
「実はですね。私、自分の分しか食料を持ってきていないんですよ。半分こしてもいいんですが、そうすると地下へ潜るのはベリーベリーハードになってしまうんです」
冗談めかして話すアバン。
その言葉に、俺は彼が背負っている巨大なリュックへと目を向けた。
洞窟に潜る際に重要なのは、戦闘能力以上に装備と食料、そして灯りだ。
さっき、俺はアバンに協力すると言った。だが、アバンからしてみれば、何の道具も持たない俺は足手まといでしかないだろう。
「それなら問題ありません。俺は自前のものを使えますし、むしろアバンさんの食料や回復アイテムも、俺のを使ってもらった方がいいですよ」
「おお、なるほど。あなた、さっきルーラのように突然ここへ現れましたもんね。その要領で外との出入りが自由というわけですか」
「それでもいいですが、もっと便利な道具を使います。見ててください。……リターン、オン。トーヤ」
俺が呪文を唱えると、目の前に便利なアイテムの数々が現れた。
それらを指差しながら、自慢げにアバンの方を見る。
「どうです? これで食糧問題は解決です」
「おお、これは凄いですねぇ。ルーラの応用ですか? いや、そのカードの効果か……どちらにしても素晴らしい能力ですよ」
アバンの称賛に、俺は少し得意げになる。しかし、その表情はよく見ると微かに曇っていた。
訝しんでいると、アバンはそれに気づいて口を開く。
「あ、いえね。こんなに大量の荷物をどうやって運ぶのかと思いまして。移動するたびに、そのカードで呼び出すのかなぁ、なんて……」
「それなら心配いりませんよ。よく見てください。台車に載っているでしょう?」
「……確かに台車に載っているようですが、このままずっと押していくつもりですか?」
洞窟で台車を押していくなんて、さすがに邪魔すぎる。
俺だってそこまでバカじゃない。
「ご安心を。これは『生きてる台車』と言って、このタグを目印に、勝手についてくるんです。アバンさんの荷物も、乗っけちゃってください」
【生きてる台車 積載量350キロ】
・後ろを勝手についてきてくれる台車。お買い物や採取に便利。
「他にも色々と便利なアイテムがあるので、それは進みながら説明します」
こうして俺は破邪の洞窟でアバンをサポートしながら身を潜めた。
アバンには原作よりも早く地下へ潜ってもらいたいからな。