ダイの大冒険の世界を念能力で生きていく   作:どか0623

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41 禁呪法

 フレイザードが自らの異変に気づいたとき、それは加速度的に進行していった。

 

「み、見てっ! フレイザードの氷の半身が……溶けていくわ!」

 

 レオナの叫びに、周囲の兵士たちも一斉にフレイザードへと視線を向ける。

 その言葉どおり、彼の氷の半身はじわじわと、しかし確実に溶け出し始めていた。

 

「く、クソッタレがぁッ!! こ、こんなことが……こんなことがあってたまるかぁ!!」

 

 アポロとマリンのメラゾーマを吸収しながら、フレイザードは口汚く罵声を浴びせるが、もはやなす術はなかった。

 

 このままでは氷の半身は完全に崩壊してしまう。

 それを回避すべく、フレイザードは決死の覚悟で呪文を解き放った。

 

「フィンガー・フレア・ボムズッ!!」

 

 狙いも定まらぬまま放たれた、巨大な五つの炎――。

 それらは爆音とともに炸裂し、凄まじい熱風となってその場にいる全員を襲った。

 

 爆発と炎に巻き込まれ、ある兵士はその身を焼かれ、またある者は塔の上から悲鳴と共に落下していった。

 

 至近距離にいたアポロとマリン、そして守るべきレオナが無事だったのは、ただの偶然としか言いようがなかった。

 

「な、なんて奴だ……メラゾーマを、同時に五発も放つなんて……」

 

 辛うじて立ち上がったアポロは、ぼやけた視界の中で放たれたフィンガー・フレア・ボムズの威力に驚愕する。

 

 マリンも体を起こすとすぐにフレイザードの姿を探した。

 しかし、意外なことにフレイザードは地に伏したまま、息も絶え絶えの状態だった。

 

「どうやら貴様にとっても、今のは賭けだったようだな。その様子では、もはや戦えまい」

 

「ち、ちくしょう……どうなってやがんだ一体ッ!? どうしてオレの身体が、この程度で……ッ!!」

 

 何が起きたのか理解できず、フレイザードは怒声を上げながら二人を睨みつける。

 

 二人の呪文を受け止めたとき、フレイザードは彼らが自分の魔力の許容量を超えさせ、自滅を狙っているのだと考えていた。

 事実、かつて戦った相手にもそういう者はいたし、アポロとマリンもまた、自滅を狙っていたことには変わりなかった。

 

「人間を侮ったわね、フレイザード。アポロとマリンの魔法力は、あなたが思ってるよりずっと強い。いくらあなたでも、吸収しきれなかったのよ」

 

 後方で戦況を見守っていたレオナが、敗因を突きつけるように告げた。

 

「ふざけるんじゃねぇッ!! 人間ごときの魔法力が、オレを上回るわけがねぇッ!!」

 

 激昂して叫ぶフレイザード。だが、その胸の奥では――冷静に分析を行っていた。

 

 魔力許容量には、まだかなりの余裕があった。

 確かに、あの二人は人間にしては高い魔法力を有していたようだが、少なくとも身体が溶け始めた時点で限界には程遠い。

 

 つまり、身体が溶けた原因は別にあるということだ。

 そもそも、魔力の許容量を超えたのなら、氷の半身“だけ”に異変が生じるのはおかしい。

 

 二人分のメラゾーマを近距離で受けた影響か?

 否、その程度で溶けていたら、普段から自身の炎でとっくに自滅しているはずだ。

 

 崩れかけた半身に力を込め、起き上がりながらフレイザードは思考を巡らせ続ける。

 しかし、どれだけ考えても答えに辿り着かない。一体なぜ、氷の半身だけが崩れたのか……。

 

「――解せないか。ならば黄泉の手向けに、教えてやろう」

 

 じりじりと間合いを詰めながら、アポロがフレイザードに語りかける。

 

 一見すると隙だらけに見える行動だが、そこに油断はない。

 隙あらば即座に呪文を叩き込むつもりだった。

 

 手負いとはいえ、フレイザードには先ほどのような爆発力がまだ残っている。

 安易に攻め込むことはできない。

 

 フレイザードもそれを理解しているのか、話に乗るふりをしながら、アポロとマリンの様子を慎重に伺っていた。

 

「あなた、禁呪法で生み出された呪法生命体よね」

「……それがどうしたッ」

「呪法生命体には、力の源となる“核”がある。本来なら、人間よりもはるかに頑丈な構造をしているはずだけど――あなたの場合は少し違う」

 

 話しながらも、マリンは油断なく隙をうかがい、言葉を続けた。

 

「炎と氷という相反する属性を持っているあなたは、その核の中に二種類の属性の魔力を宿しているの」

 

 その言葉に、フレイザードは思案した。

 確かに、自身の核には二種類の魔力が存在する。それは核本体を見れば一目瞭然だった。

 

「その核は、まさに黄金比とも言える絶妙なバランスで魔力を制御し、炎と氷の身体を維持している。だけど、少量ならまだしも――あなたは私たちの炎のエネルギーを、あまりにも多く吸収しすぎたのよ」

 

「……オレの強くなった炎の身体に、氷の身体がついてこれなくなったってわけかい」

「その通りよ。今のあなたの炎のエネルギーは強すぎる。その結果、最も弱い部分――つまり氷の半身に異変が現れたの。もし私たちがヒャドで攻撃していたら、逆に炎の身体が崩れていたでしょうね」

 

 自身に起こった現象の理屈を理解したフレイザードは、目を閉じると途端に静かになった。

 その挙動に、アポロとマリンは困惑する。

 

「――どうした。勝ち目がないと見て、降参するのか」

 

 不審に思いながらも、不可解な行動に二人は攻撃できずにいた。

 

「いや、なあに。ただ感心しただけのことよ。三賢者なんて名乗るだけあって博識じゃねえか。勉強になったぜ。……これからは気をつけねぇとなぁ」

「貴様に“これから”などないぞ! ここで我らが倒すのだからな!」

「クククッ……調子に乗るなよッ!! この青二才がッ!!」

 

 フレイザードは突如、怒声を上げると――溶けていた半身を一気に再生させた。

 

「みんな、伏せて!!」

 

 只ならぬフレイザードの気配に、マリンは叫ぶと同時に自らも身構える。

 

「氷炎爆花散!!!!」

 

 フレイザードの咆哮とともに、その身体を中心に一抱えもある岩塊が四方八方へ飛び散った。

 その一撃に、アポロは腕を砕かれ、マリンも破片による裂傷を負って吹き飛ばされた――。

  

 後ろに控えていたレオナたちも例外ではなかった。

 距離があったためダメージは浅かったが、全身を岩石に強打され、とても戦える状態ではない。

 

「形勢逆転だなァ……! クッカッカカカカ」

「――ま、まだだ。まだ戦えるぞっ!」

 

 笑うフレイザードを睨みつけ、アポロとマリンは自らに回復呪文をかけながら立ち上がろうとした。

 だが、すぐに異変に気づく。

 

「じゅ、呪文が使えない……だと!?」

 

 折れた腕にホイミを唱えるも、かすかに光るだけで回復の気配はない。

 まるで力が霧散してしまうかのような感覚に、アポロは困惑した。

 

「ククククッ……氷炎結界呪法。これこそ、我が氷炎魔団の不敗を支える究極の戦法よッ!!」

 

 そう言って、フレイザードは塔の外を指さした。

 そこには、先ほどまでなかった巨大な炎と氷の柱――炎魔塔と氷魔塔が、赤青の光を放ってそびえていた。

 

「あの二つの塔が、オレの核に作用して強力な結界を張っているのさ! この結界の中じゃ、オレ以外の奴は力も呪文も封じられちまうんだ!」

 

 その衝撃の事実に驚愕するアポロとマリン。だが、フレイザードは容赦なく襲いかかってくる。

 

 呪文が使えない今、アポロは両腕を交差させて防御するしかなかった。

 だが、フレイザードの豪腕にあっさりと弾き飛ばされる。

 

 地に倒れたアポロの胸を、フレイザードの足が容赦なく踏みつける。

 抵抗すら許されない状況に、焦燥と恐怖が全員の心を支配していく。

 

「残念だったな。もう少しでオレを倒せたかもしれねぇのによ。臆病な人間の性ってやつかねェ。命のかかった戦いで様子見なんざしてるからだ」

 

 とどめを刺すつもりか、フレイザードの右手に氷柱が形成される。

 それを高く振りかぶる。

 

「あばよッ!! 精々、オレに傷をつけたことをあの世で自慢しなッ――うッ!?」

 

 氷柱がアポロを貫く直前、その腕にナイフが突き刺さった。

 

「だ、誰だ……て、てめぇッ……生きてやがったのか!?」

「みんなから離れろ、フレイザードッ!!」

 

 まさに間一髪。

 フレイザードが振り向いた先には――勇者ダイの姿があった。

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