魔王軍の進軍によりパプニカを追われたレオナたちは、バルジ島に逃れて反撃の機会を伺っていた。
しかし、反撃の狼煙を上げるよりも先に、氷炎将軍フレイザードに居場所を突き止められてしまう。
襲い来る強敵を前に、パプニカ三賢者のアポロとマリンが立ち向かうが、フレイザードの放った「氷炎結界呪法」により、二人の力は封じられてしまった。
その窮地に、間一髪で駆けつけたダイが助太刀に入り、フレイザードとの戦いが始まる。
だが、氷炎結界の中では、本来の力を発揮することも、呪文を唱えることもできない。
状況を見極めたマァムの判断により、ダイたちは撤退を選ぶ。
しかし、ダイを逃がすまいとするフレイザードは、伝説の禁呪法を発動し、レオナを氷漬けにしてしまう。
激昂するダイをマァムが押しとどめ、一行は気球船でバルジ島からの脱出を図った。
だがその最中、氷炎魔団の追撃を受け、船はバルジの大渦の上空で墜落の危機にさらされる。
その命の危機を救ったのは、かつてアバンの仲間だった大魔導士・マトリフだった。
ダイたちは、凍りついたレオナを救うため、マトリフの助力を仰ぐことになる――。
+
「ダイくんたちだけに負担はかけられない。私も姫の救出に向かわねば」
洞窟の奥で兵士たちの治療を終えたアポロは、フレイザードを倒すために訓練に励むダイの姿を見つめていた。
「だけど、あの結界がある限り、私たちは呪文が使えないのよ? 闇雲にぶつかって倒せる相手じゃないって、あなたもわかっているでしょう」
直接戦ったわけではないエイミにも、呪文が封じられる状況で挑むのが無謀であることは明白だった。
「魔法使いのポップくんだって島へ向かったんだ。ならば私だって」
「ちょ、ちょっと、冷静になりなさいよアポロ。姉さんからも言ってあげてよ──って、どうかしたの?」
マリンの様子がどこかおかしいことに気づいたエイミが、そっと問いかける。
「……さっき、マトリフ様が言っていたことを思い出していたの」
「さっきって?」
「“人間は自分の都合しか考えない。危機が去れば、平気で恩を忘れる”って……。彼も、同じことを言っていたなって思ったのよ」
アポロとエイミは、マリンの言葉に、ある男の姿を思い浮かべていた。
「……ダイくんが言っていたじゃない。“自分のことばかり考える人間ばかりじゃない”って。私たちも……」
マリンを励まそうとして言葉をかけたエイミだったが、その先が続かない。
“平気で恩を忘れる”“自分の都合しか考えない”──それはまさに、自分たちが彼にしたことだったからだ。
言葉を失い、三人の間には重い沈黙が流れた。
──その時だった。洞窟の入口から、場違いなほど明るい声が響いた。
何やら外が騒がしい。今の状況には不釣り合いなほど活気のある声が、洞窟内にまで届いてきたのだ。
「……ダイくんの特訓が成功したのかしら?」
誰ともなくそうつぶやき、三人は声のする方へ視線を向けた。
そして、入口に立っていた人物を見た瞬間──彼らは呆然と立ち尽くし、言葉を失うのだった。
+
海岸沿いを延々と歩き回った俺は、ようやく目当ての洞窟を見つけることができた。
――こんなことなら、バルジ島でいろいろやってたときに、見当くらいつけておけばよかったよ。
思った以上に時間がかかってしまったため、少し焦りながらも急いで洞窟の中へ入る。
「おじゃましまーす!」
中に入ると、すぐに目隠しをしてマァムと特訓しているダイの姿が目に入った。
「え? そ、その声は……やっぱり、トーヤっ!!」
目隠しを外したダイは俺の姿を見るなり、満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきて、そのまま勢いよく飛びついてきた。
……かわいいヤツめ。
「ダイっ! 元気そうだな。ちょっと見ない間に大きくなって」
――まあ、ホントは全然変わってないけど、一応そう言っておく。
社交辞令ですね。
「トーヤっ、やっぱり生きてたんだね! てっきり死んじゃったんじゃないかって心配したよ!」
笑いながら恐ろしいことを口にするダイ。
子どもって、こういうところ容赦ないよな。
ダイの頭を撫でながら再会を喜んでいると、マァムもこちらへ近づいてくる。
「あの、はじめまして。私はマァムです。ダイの仲間で、一緒に旅をしています」
「ああ、よろしく。俺はトーヤだ。……あと、敬語はやめてくれよ」
軽く自己紹介を済ませたところで、洞窟の奥から何人かの足音が聞こえてきた。
そこに現れたのは、数か月ぶりに見る懐かしい顔ぶれだった。
「よぉっ! 久しぶり。元気だったか?」
返ってきたのは、まるで幽霊でも見たかのような呆けた表情。
……どうやらダイがさっき言ってた通り、俺のことを死んだと思ってたらしい。まあ無理もない。行方不明になってたしな。
「おーい、聞こえてる? ──って、お、おい?」
今度は俺の番で呆けることになった。
マリンがゆっくり近づいてきたかと思うと、突然俺に抱きついてきたのだ。
ダイとマァムなんて、顔を真っ赤にして固まっている。……っていうか、これどうすりゃいいんだ。
仕方ないので俺も抱きしめ返して、なだめることにする。
――にしても、ちょっと長くないか?
いや、俺が緊張してるからそう感じてるだけかもしれないけど……。
「再会が嬉しいのは俺も同じだけど、ちょっと大げさじゃないか? 何も泣かなくてもいいのに」
恥ずかしさを紛らわせるために、軽口を叩きながらアポロたちのほうへ話を振る。
「仕方ないだろう。君がいなくなってから、マリンはずっと心配していたんだぞ」
アポロに同調するように、エイミも黙って頷いた。
……なんか勘違いしてる気がするぞ、こいつら。
「お前たちに言ってるんだよ」
そう言われて、アポロたちはようやく自分たちの頬に涙が流れていることに気づいたようだった。
慌てた様子でしどろもどろに言い訳を始める。
……まあ、いっか。
泣くほど心配してくれてたなんて、正直、嬉しい限りだ。
+
「ふーん、お前もダイの仲間ねぇ。どうしてここが分かったんだ?」
ポップの修行から戻ってきたマトリフに挨拶をすると、さっそくそんな疑問が飛び出してきた。
やっぱりそうくるよな。ダイたちは気づかなかったみたいだけど、事情を知らないはずのやつが突然現れたんだ。普通は怪しいと思うだろう。
「パプニカの気球船が見えたんですよ。向かってる方向から、バルジ島に行くんだなって。緊急避難先として以前調査したことがあったので」
だからこそ俺は、ここへ来る途中で言い訳を用意しておいた。答えに詰まることはない。
「で、島へ向かう途中で気球船が海岸に浮かんでるのを見つけて。死体も荷物もなかったから、このあたりを探してたんですよ」
淀みなく答える俺。以前みたいに話に齟齬が出ないように注意を払う。
……っていうか、マトリフさん興味なさすぎるんだろ。自分で質問しておいて鼻ほじるのはどうかと思う。
「今の状況は聞いたのか? 今夜、お姫を助けにバルジ島へ行く。お前さんはどうするんだ?」
「さっき聞きました。俺も戦います。レオナ姫とは知らない仲じゃないし、何より、ダイが行くなら放っておけませんしね」
俺が協力すると聞いて、後ろにいたダイが喜んで飛び跳ねた。
「やったー! トーヤがいるなら、すごく心強いよ!」
「ダイ、特訓はどうした。もう時間がないんだぞ。無駄口叩いてないで、さっさと戻りな」
マトリフに追い払われるようにして特訓に戻っていくダイ。
……目隠ししての特訓ってことは、空裂斬の修行か。まだ修めてなかったのか? アバンは“七割は終わった”って言ってたのに。
どれ、俺も手伝ってやるか。――と、その前に作戦タイムだ。
俺はマトリフに、フレイザードが使った禁呪法の特性や効果、弱点なんかを事細かに聞きながら、ダイをどこまで助けるべきか頭を悩ませるのだった。