「――ハァ、ハア」
荒い息を吐きながら、男が地中から這い出てくる。
爆弾岩の爆発によって辺り一帯は焦土と化し、未だ焦げた臭いと熱気が立ち込めていた。
この有様では、確認するまでもなく生存者は他にいないだろう。
地中へと逃れ、爆発を回避した彼一人を除いては。
本来なら爆発前に決着をつけるつもりだったが、思惑通りには運ばなかった。
苛立ちを吐き出すように舌打ちをするも、それがさらに感情を逆撫でする。
「ハァ、ハア……」
荒ぶる呼吸を落ち着かせるように、静かに立ち尽くす。
思考が内側へ沈んでいく。
ダイたちが到着するには、まだ時間がかかるはずだ。
その間に、傷ついた肉体を癒す。予定通りとはいかなくとも、大勢に影響はない。
どうせ――結果は変わらないのだから。
そう確信したように、彼は口元を歪める。
ダイたちが来るのを待ちわびながら、心の中で静かに笑った。
人間どもを根絶やしにし、栄光を手にするその時を。
+
ポップとマァムと合流したダイは、バルジ塔へ向かって全力で走っていた。
「急がなきゃ。きっとトーヤたちはフレイザードと戦ってるはずだ!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよぉ。そんな全力で走られたら、着く頃にはへばっちまうって……!」
「なに呑気なこと言ってんのよ。こうしてる間にも、トーヤやマリンさんは戦ってるのよ!」
「そ、そりゃそうだけど――のわああああ!!」
ポップが反論しかけたそのとき、塔の方角から耳をつんざくような轟音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
ダイが音のする方へ目を向けると、大量の煙が空高く立ち上っていた。
「バルジ塔のあたりよ! やっぱり、あそこで戦ってるんだわ!」
「――急ごうっ!」
尋常ではない爆音と煙に、ダイはさらにスピードを上げて駆け出す。
ポップとマァムも顔を見合わせ、うなずき合うとその後を追って走り出した。
+
森を抜けると、そこは焼け野原だった。
一目で激戦の跡と分かる凄絶な光景が広がっている。
ダイたちはその惨状に息を呑み、そして塔の入口前に佇む一つの人影を見つけた。
「フ、フレイザード……か?」
赤い岩の半身と青い岩の半身を携えた、あの異形の戦士――フレイザードの姿だった。
すぐに襲いかかってくるかと思われたが、不気味なほどに静かにこちらを見つめている。
その冷たい視線に、ダイたちは言い知れぬ恐怖を覚えた。
「や、やいっ、てめぇフレイザード! 二人をどうしやがったっ!」
ポップが威勢よく怒鳴るが、フレイザードにギロリと睨まれた途端、ダイの背後に隠れる。
「……見ての通りよ。――オレも、かなりの手傷を負わされたがなぁ」
顎で辺りを示しながら、フレイザードが応える。その言葉に込められた意味は明白だった。
「な、なんだって……!」
トーヤたちの姿を求めて周囲を見回すが、焼け焦げた大地が広がるばかりで、人影はどこにもない。
「――二人は下がっててくれ。……こいつは……俺が倒すッ!」
怒りに震える声で、ダイはようやく言葉を絞り出し、ポップとマァムに告げる。
「だ、ダイ……」
その気迫を汲んだのか、二人は無言で後方へ退いた。
だがマァムは、不安げにダイの名を呟く。
「俺を倒すだとォ!? 結界を壊したくらいでいい気になってんじゃねぇぞ、クソガキッ!!」
ダイが構えを取った瞬間、フレイザードは怒りを爆発させ、自らの胸のメダルを引きちぎる。
「バーン様ァッ! オレに更なる勝利と栄光をッ!! ――死ねぇえっ、ダイッ! 弾岩爆花散ッ!!」
フレイザードの体が炸裂し、無数の灼熱の岩が飛び散る。
それはダイのみならず、下がっていたはずのポップやマァムまでも巻き込んで襲いかかった。
「っつぃたッ!?」
「きゃっ!」
不意打ちとも言える攻撃に、二人は悲鳴を上げて地に倒れる。
なおも降り注ぐ、容赦なき岩の嵐――。
「これがオレの最終闘法、弾岩爆花散だッ!!この技の前には、どんな力も、呪文も通用しねぇッ!! クハハハハッ、ハハハハハッ!!」
狂気じみた笑いとともに、フレイザードは攻撃の手を緩めず、ダイたちを容赦なく追い詰めていく。
あまりの猛攻に、ポップとマァムは反撃の隙すら与えられず、地に伏すこととなった。
二人はもう動けない。トドメを刺すのは、ダイを倒してからでいい――。
だが、そのダイが倒れない。何度も叩き伏せたはずなのに、何度でも立ち上がるのだ。
フレイザードの苛立ちは限界に近づいていた。
「馬鹿な……弾岩爆花散を受けて、立ち上がれる奴なんざいねぇはず……。ならば避けてる? いや、それも不可能……!」
その時、脳裏をよぎったのは――あの男の姿。
爆発の直前、笑っていたあの男。
無謀とも言える勝負を仕掛け、結界が破れる前に戦いを挑んできた、あの男。
何故だ? なぜ笑った? なぜ挑んだ?
――全てが不可解だ。敵を殺して、こんなに不快になったのは初めてだった。
訳も分からず、苛立ちが募る。
だが、考えるのは今ではない。戦いはまだ終わっていない。
気を取り直し、ダイに視線を戻すフレイザード。
そこには、目を閉じ、剣を鞘に納めたまま、静かに立つダイの姿があった。
そして、次の瞬間――フレイザードの意識は、音もなく、吹き飛んだ。