カーテン越しに差し込む日差しと、小鳥のさえずりで目が覚めた。
こんな穏やかな朝には、もう一度眠りにつきたくなる。
けれど、それはできなかった。
なぜなら、マリンが隣で寝ていたからだ。
「はあ〜……」
重いため息をついて、俺は廊下を歩いていた。
すると、向こうからアポロが歩いてくるのが見えた。
「どうしたんだ? ずいぶんと疲れているように見えるが」
「いや、なんでもないよ。ただ……俺は、間違ってしまったのかもしれない」
アポロは眉をひそめて、俺の前で立ち止まった。
……いや、別に後悔してるわけじゃない。
マリンは美人だし、優しいし……おっぱいも大きいからね。むしろバッチコイって感じだよ。
だけどね、酒の勢いとか、そういうのは違うんですよ。
俺は、もっとちゃんと恋愛したかった。段階を踏んで、気持ちを通わせて、それで……って。
だから、それが間違いだという話なのです。
最初は、本当に何もなかったと思ってた。ただ一緒に寝ただけだって。
でも、マリンが朝になって顔を赤くして「き、昨日のこと、覚えてる?」なんて言うもんだから。
……いや、そりゃもう確定だろうね。
しかも上下着替えてたし。下着も含めて。そこを突っ込まれたらもう言い逃れのしようがない。
ただ、気になるのがマリンの言葉――。
「あんなこと、あなたが言うの初めてだったから驚いちゃった。でも、すごく嬉しかったの」
……俺は一体、昨夜どんなセリフで彼女を口説いたんだ?
そこがまったく思い出せない。それが何よりもムカつく。
つまり今の心境をひと言でまとめるなら――。
「勃つ鳥、後を濁す……って感じかな」
「なにを言ってるんだ、キミは」
アポロは完全に意味が分からないという顔で、俺を見つめていた。
+
マトリフの住んでいるあたりにある海岸。俺はダイやポップと一緒に特訓に来ていた。
「せりゃッ!」
「――うわっ。げほっ、げほっ!」
数十回の打ち合いの末、俺の横一文字の一撃がダイを吹き飛ばした。
「痛てて……」
砂浜に頭から突っ込んだダイは、頭をさすりながら立ち上がる。
「情けねぇなあ、ダイ。あっさり負けちまうんだから」
歩み寄ったポップが、からかうように笑いながら言う。
「ポップだって、さっきマトリフさんに負けてたじゃないか」
「俺はまだ師匠に弟子入りして日が浅いから良いんでーす。お前はもう結構前からトーヤに教わってるだろーが」
「なんだよそれ〜」
……楽しそうだな、こいつら。
「それにしてもトーヤも人が悪いぜ。“もうダイに教えることはない”なんて言って特訓渋ってたくせにぃ」
「お前は本当にヒヨッコだな。もう少し洞察力を身につけろ」
話を聞いていたマトリフが、珍しく俺たちの会話に口をはさんできた。
「なあ、ダイ。お前さん、トーヤと戦ってどうだった?」
「え? あ、えーっと……」
マトリフの問いかけに、ダイは言いにくそうに頬をかいた。
「俺のことは気にせず、ズバッと言ってくれ」
「あ、うん。えっと、それじゃあ……。もちろん強かったけど、どっちかっていうと……戦いづらい、って感じかな?」
「まあ、そんなところだろう。わかったか?」
「ぜーんぜん。……ッイテ!」
マトリフにゲンコツを食らって涙目になっているポップ。
可哀想なので、俺からフォローがてら話すことにした。
「俺の戦い方は我流だからね。素振りくらいは兵士に習ったけど、剣術に関してはからっきしだよ。剣の腕だけでいえば、ダイの方がずっと上さ」
「ふーん。でもそれなら、なんでダイが負けるんだ?」
「トーヤの基礎能力がダイよりはるかに高いからだ。どんな達人だって、大人と子供ほどの差があったら勝てやしない。……まあ、要するに“基礎を疎かにするな”ってこった」
マトリフに褒められた。ちょっと、いや、かなり嬉しい。
「じゃあ、ダイが言ってた“戦いづらい”ってのは?」
「トーヤみたいに、動きが素人同然だと、逆に正統派の剣術を学んだダイからするとやりにくいもんさ。それが、自分より速く動ける相手なら、なおさらな」
俺の言いたかったことを、全部マトリフに言われてしまった。
「ダイがトーヤに勝とうと思ったら、基礎訓練をしっかり積むか、今以上の剣術でその差を埋めるしかねぇな。あと呪文って手もあるが、そんなもんは覚える必要ねえ」
「ええ!? なんで? 俺、もっと強い呪文も覚えたいよぉ!」
「勇者に強い呪文はいらねえ。そういうのは魔法使いに任せとけ。お前は、お前にしかできないことをしろ」
「俺にしかできないこと……?」
「決まってんだろ。“勇者”にしかできないこと。それは――『勇気』を出すことさ。どんな敵にも立ち向かう勇気があれば、それでいい。あとのことは仲間に任せりゃいいのさ」
「……勇気。――“自分にだけは負けられない”、か」
それは、かつて俺がダイにかけた言葉だった。
ダイはそれを噛みしめるように、ゆっくりと呟いた。
「お、いいこと言うじゃねぇか。そうだな、自分に負けるやつは、誰とやっても負けるもんさ。……まあ、せいぜい頑張んな」
そう言い残すと、マトリフは洞窟の方へと去っていった。
……どうでもいいけど、なんか俺ってダサくない?
せっかくダイの師匠ポジだったのに、マトリフにその座を奪われた気がする。
アバンの次に慕われてるって、ちょっと自負してたのに……。このままじゃ、ダイを取られてしまう!
「よーし! これから必殺技を披露しまーす!」
俺は海に向かって、全力で霊丸をぶっ放した。
ダイとポップの視線を一気に奪い、心をわしづかみにするのであった。