俺はダイたちと一緒に、ベンガーナへ来ていた。
ヒュンケルたちが偵察から戻るまでの間に、魔王軍と戦うための力を蓄えておこうというわけだ。
冒険の基本は、まず装備から。そんなわけで、今回はダイの装備を整えるためにここへ来た。
メンバーは、ダイ、レオナ、ポップ、そして俺。
マァムは「武闘家になる」と言い残して旅に出た。魔弾銃が壊れたわけでもないのに……まったく不思議な話だ。
SFでよく耳にする“修正力”とか“抑止力”とか、そんな類のものが働いているのかもしれない。
まあ、もし本当にそんな力があるのなら、俺がこの世界に転生してる時点でおかしいんですけどね。
さておき、目的通り装備は買えた。目玉は、ドラゴンキラー。しかもオークション形式。
レオナが「手持ちが少ない」とのことだったので、俺が競り落とした。
その額、なんと22,000G。
前世換算で約220万円。俺が人生で一番高く買った車でさえ200万だったのに。
しかも後で思い出したんだが、これ、わざわざここで買わなくてもこの後の戦闘のどさくさで、ダイって勝手に使ってたよね……?
完全なるムダ金である……。なんか考えてたら、気分悪くなってきた。
「どうしたんだ? 二日酔いのときの師匠みたいな顔してるぞ」
ポップが俺の内心を察したのか、そんな軽口を叩いてきた。
ああ、あの宴会の翌朝の話か。マトリフってば、飲み過ぎて死にかけのゾンビみたいな顔してたっけ。
薬を飲ませたらケロッと治ってたけど。……俺のこの鬱な気分も、あの薬で晴れたりしないだろうか。
まあ、いいだろう。
ちゃんと占い師ナバラとメルルとの会合も済んだし、イベント的には順調と言っていいはずだ。
「な、なんだあっ!?」
突然の地鳴りと揺れに、全員が驚いて悲鳴を上げる。
「お、おいっ、あれを見ろ! ドラゴンだっ!!」
店の中の一人が窓から外を覗き、叫んだ。
――ヒドラ1匹に、ドラゴンが5匹。
普通の街なら、壊滅していてもおかしくない戦力だ。
店内は瞬く間にパニックに包まれ、「この世の終わり」と言わんばかりの騒ぎになった。
「どうする? ドラゴンがあんなにいたんじゃ少々分が悪いぜ」
「なら、ポップとレオナは市民を避難させてくれ。ダイはヒドラを頼む。ドラゴンキラーがあれば大丈夫だろ」
俺はそう言って窓枠に足をかける。
「お、お前はどうするんだよ」
「ドラゴンが街中に散ったら後が面倒だ。一箇所におびき寄せてまとめて相手する」
こうしている間にも、街の人が犠牲になっているかもしれない。急がなければ――。
俺は窓から飛び降り、ドラゴンたちのいる方角へ走り出した。
+
街外れの荒野。
うまくドラゴンだけをおびき寄せた俺は、走る足を止めて後ろを振り返る。
目の前には5匹のドラゴン。俺は固唾を呑み、奴らの動きを見極めながら攻撃の合図を待った。
そのうちの1匹が、口の中に炎を灯し始める。
瞬間、俺はそいつへ向かって一気に駆け出した。
別のドラゴンが、迎撃するかのように巨体をひねって尾を振り回す。
俺の身の丈の3倍はあろうかというその尾は、だが俺を捉えることなく――炎を吐こうとしていた仲間のドラゴンに直撃した。
激突の衝撃に堪えきれず倒れ込むドラゴン。俺はその顔面に跳び乗る。
だが、味方の上にいるというのに、他のドラゴンたちは構わず追撃してきた。
回避、跳躍、回避、跳躍――。
俺は何度も何度も同じ動作を繰り返しながら、奴らに少しずつダメージを蓄積させていく。
やがて、カウンターの数は100を超えた。
その頃にはドラゴンたちの動きにも明らかな鈍りが見え始めていた。
残るは2匹。3匹はすでに同士討ちで倒れている。
――そろそろ、いいだろう。
俺は人差し指にオーラを集中させ、2匹のドラゴンが一直線に並ぶ位置へと身を移す。
「霊丸――!!」
響き渡る轟音。
眩い光と、荒れ狂う暴風が辺りを支配する。
巨体など物ともせず、俺の放った霊丸は地面を抉りながら突き進み、ドラゴンたちを貫いてそのまま荒野の彼方へ消えていった。
「……なんだ、楽勝じゃん」
戦闘を無傷で終えた俺は、額の汗を拭って小さく安堵の息を吐いた。
デカくてパワーがあっても、知能がなければ大したことはない。円を使えば、動きなんて丸わかりだしな。
――こういう戦い方に慣れた方が良いよな?
1対1で相手の動きを読み合う武人としての戦い方じゃなくて、複数の動きを利用して陥れるような立ち回りの戦術。
前者が「強さ」なら、後者は「上手さ」――言うなれば作戦勝ちってやつだ。
力が劣るなら、知恵で戦うしかない。
今はまだいいが、いずれ力だけではどうにもならなくなる時がくる。これからは、こういう戦い方を意識してみるか――。
「ん?」
ダイたちの元へ向かおうと歩き出したそのとき、不意に気配を感じて立ち止まった。
視線を向けた先には、先ほどのドラゴンたちの残骸がある。
……そのうちの1匹が、わずかに動いた。
どうやら気絶していただけらしい。
霊丸でトドメを刺すべく構えを取る――が、オーラが集まらない。
「あ、まだ無理か」
霊丸のチャージには1分かかる。まだ時間が経っていなかったようだ。
――あと少しで1分、か。
せっかくだし、新技のテストでもしてみるか。
こっちは使いどころが難しくて、まだモンスター相手に使ったことはない。
だが、相手は瀕死のドラゴン1匹。実験にはうってつけだろう。
荒野にいるのは、俺とドラゴンだけ。
俺は静かに魔力を高めた。
暴走しかける力の奔流を強引に押さえつけ、無理やり術を完成させる。
そして次の瞬間――ドラゴンは、地面に影だけを残して消え去った。