テランの城門前――。
ダイ、ポップ、レオナ、クロコダインの四人は、バランを迎え撃つために待ち構えていた。
紋章の力を自在に操れるようになったとはいえ、ダイの表情は冴えない。
本気を出したバランの力は、未だ未知数だ。そして占い師ナバラの水晶には、「竜騎衆」と呼ばれるバラン配下の精鋭たちが映し出されていた。
バラン一人でも厄介な相手なのに、精鋭たちまで加わるとなれば、もはや絶望的と言ってもいい。
「ったく、こんな時にトーヤはどこ行っちまったんだよぉ……」
ポップが苛立ちを隠さずに言う。
「よもや、逃げ出してしまったのではないか……」
クロコダインの重々しい声にも、疑念が滲む。
「彼を責めることはできないわ……。先の戦いで、手も足も出なかったんですもの。逃げたとしても……おかしくはないわ」
レオナもまた、トーヤがいないという事実に歯噛みしながら、そうつぶやく。
ダイはそんな三人のやりとりを、無言のまま見つめていた。
――トーヤのことだ。きっと何か考えがあるはずだ。
そう思いたい自分がいる一方で、もし本当に逃げたのだとしても、それならそれで構わない――そんな諦めにも似た思いが心の片隅にあった。
それが信頼なのか、それとも諦観なのか。
ダイ自身にも、まだ答えは出せなかった。
静まり返ったテランの空を仰ぎながら、ダイはバランの到来を待ち続けていた。
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「待てや、てめえら。ここから先は通さねえぜっ!」
バランとその配下――竜騎衆の前に立ちふさがり、俺は叫ぶように言い放った。
「ケッ、誰が来たのかと思えば、見るからに貧弱そうな野郎一人っ! クワーックワックワッ!!」
竜騎衆の一人、トリ面のヤツが俺を嘲るように高笑い(?)をする。
このクソニワトリ野郎が……テメェだけなら瞬殺だっつーの。
「ガルダンディー、侮るな。そいつは見かけによらず、できる」
バランがドラゴンから飛び降り、こちらに歩を進める。それを遮るように、ラーハルトが一歩前に出た。
「バラン様、この場は我々にお任せください。ルーラで一刻も早く、ディーノ様の元へお向かいを。我らもすぐに追い付きます」
「……わかった。だが、舐めてかかってはならんぞ。先も言ったが、あの男はかなりできる。――ルーラ!」
バランが空の彼方へ消えるのを見送り、ラーハルトが静かに俺の方を向く。
「意外だな。黙って行かせるとは。お前はバラン様を止めに来たのではないのか?」
「俺が止めに来たのはお前たちだよ。感動の親子対面に邪魔が入ると興ざめだからな」
そう言って木刀の切っ先を向け、オーラを練る。
「身の程を弁えぬ愚か者めッ! この竜騎衆を、貴様ごときが止められると思うかッ!」
怒声と共に巨大な錨が唸りを上げて飛んでくる。咄嗟に打ち払い、距離を取る。
トド面の奴――ボラホーンは、あっさり防がれたことが悔しいのか、歯ぎしり混じりに唸った。
「ボラホーン。先ほどのバラン様のお言葉を忘れたか。油断は禁物だ」
「……そうだったな。ならば――我ら全員でかかるとしよう」
「クククッ。我ら誇り高き竜騎衆を相手に、どれだけ持ちこたえられるかな?」
三者三様に構えを取り、武器を掲げる。3対1か……ラーハルトがやはり厄介だな――そう考えた矢先だった。
突如、背後に控えていた竜騎衆のドラゴンたちが悲鳴を上げて崩れ落ちた。
「な、なんだっ!?」
剣の血糊を振り払いながら、見知った男が悠然と姿を現す。
「寄ってたかって誇り高いとは笑わせる。その体たらくでは、“竜騎衆”とやらも底が知れるな」
おおっ、意外に来るの早かったな。
そもそもちゃんと来るかどうかも不安だったんだが……。
「ヒュンケルっ! ナイスタイミングだ。その槍のやつは任せた。残りの雑魚は俺がやる!」
有無を言わせず、勢いのまま告げると、ボラホーンとガルダンディーをぶん殴って別の方向へ吹っ飛ばした。
上手くいったぜ――これぞ予定調和ってやつだ。
ちらりと後方を振り返ると、呆気にとられたヒュンケルとラーハルトの姿が見えた。
……ちょっと露骨だったかな?
+
「ふ、不死身かおまえはっ!? ギガブレイクを二発も受けて生きていた者など、今まで誰もいなかった……!!」
「フフフッ、オレごときがこんな攻撃をくらい続けていたら、確実に死ぬさ。オレの命と、お前の力の交換なら悪い条件じゃない」
「お、おまえ……さては勝つことが目的ではないな! 天下の獣王クロコダインが、私を消耗させるためだけの捨て石になろうというのか!」
よろけるクロコダイン。そんな彼を支えながら、レオナがベホマをかける。
「やっぱりムチャだよ、クロコダイン。みんなで戦えばきっと──」
「ダイ、いくらお前が紋章の力を使えると言っても、正攻法で戦えば、オレたちに勝機はない。これしかないのだ」
「お、おっさん……」
止めようとするダイとポップを、クロコダインは頑として制した。
「それに……勝たなければならんのだ。でなければ、自らを犠牲にしたトーヤに顔向けできん」
再び闘気を高め、クロコダインはバランの前に立つ。だが、決死の覚悟をまとったクロコダインとは対照的に、バランは静かに佇むのみ。
「クロコダインよ。おまえの覚悟はよくわかった……しかし、目論見が分かっていて敢えて乗ってやるほど、私は甘くはないッ!」
バランから竜闘気が噴き出し、周囲に暴風が巻き起こる。
「ディーノが戦えなければ、その作戦も水泡と帰そう。我が息子を傷つけるのは本意ではないが、やむを得んッ──」
バランの額の紋章が、一際強く輝く。
《紋章閃》。竜の紋章から放たれた一閃が、脅威の威力でダイの肩口へと走る。
バランと真正面から戦えるのは、同じ竜の騎士であるダイのみ。であれば、先にダイを戦闘不能にしてしまえばいい。
不意を突かれ、無防備に立ち尽くすダイ。その目前に、凶悪な閃光が迫る。しかし──。
「うわっ! ──え?」
小さな衝撃に尻もちをつく。顔を上げたダイの目に、信じられない光景が映る。
「──ポ、ポップ……?」
誰よりも早く動いたポップが、ダイを突き飛ばし、光に貫かれていた。
胸からは血が噴き出し、ゆっくりと、地面へと倒れていく。
ダイたちは驚愕に固まり、動けない。
「愚かな。馬鹿な真似さえしなければ、命までは取らずにおいたものを……」
その言葉が意味するものに、理解はすぐ追いついた。
ポップは……死んだのだ。あまりにも呆気なく、あまりにも無慈悲に。
クロコダインの咆哮と、ダイの慟哭が空に響く。
二人はその叫びで、すべての理屈や恐怖を吹き飛ばすように、バランへと飛びかかる。
策はない。勝算など、なおさらない。
だが、恐れも畏れもなかった。
あったのはただ、
──友を失った悲しみと怒りだけだった。
+
信じられないことに、竜騎将バランは押されていた。それも、竜魔人となったにもかかわらず、だ。
侮っていた。それは認めざるを得ない。たかが十歳そこそこの少年に遅れを取るはずがない——確かに、そう思っていた。
だが、敗因はそれだけではなかった。
ダイたちの“心の力”。それが、バランのあらゆる計算を狂わせていたのだ。
何度倒れても立ち上がる、不屈の精神。何が彼らを突き動かしているのか、バランには分からない。否——分かろうとしなかった。
ギガブレイクを二発、ドルオーラを二発放ち、さらに竜闘気を使い続ける——体力の限界は近い。
だが、満身創痍のはずのダイたちは、未だに闘志を失っていなかった。
ポップを失った彼らは、死をも厭わず戦い抜くだろう。
クロコダインと、加勢に現れたヒュンケルが死に物狂いでバランにしがみつく。二人が両腕を羽交い締めにした。
「ダ、ダイィッ!! 今だッ! 俺たちごとやれぇええッ!!」
最後の力を振り絞り、バランの動きを封じるクロコダインとヒュンケル。さしもの竜騎将といえど、もはや身動ぎひとつできない。
その好機を逃すまいと、ダイはヒュンケルの魔剣を手にアバンストラッシュの構えをとった。
「ライデインッ!! うおおおおぉぉぉ!!!」
電撃をまとい、駆けるダイ——しかし、黙って受けるほどバランは甘くない。
「ええいッ! 鬱陶しいわ!!」
自らに雷撃を落とすバラン。電流がクロコダインとヒュンケルの動きを一瞬緩ませる。
その隙を突き、二人を弾き飛ばすバラン。さらに雷撃をまとわせ、真魔剛竜剣を振りかぶった。
鎧の魔剣では、真魔剛竜剣には太刀打ちできない。
一瞬、迷いがよぎる——だが、ダイは止まらない。残されたすべての力を込め、最後の一撃に賭ける。
「これで最後だッ! ギガブレイクで——散れえッ!!!」
ギガブレイクとライデインストラッシュが交錯する、その刹那。
——呪文が、ダイの横をすり抜け、バランに炸裂した。
「バ、バカなッ!? 死人が……呪文をッ!!」
たじろぐバランに、ダイの必殺の一撃が間断なく叩き込まれる。
「アバンッ! ストラァァッシュッ!!!」
爆発音が轟き、まばゆい閃光が戦場を照らす。
こうして——地上最強の戦いは、幕を閉じた。