傷ついた身体を引きずるようにして、私は荒野を目指して歩いていた。
そこには、彼らの亡骸があるはずだ。
共に戦ってくれた仲間たちを、きちんと弔わなければならない。
「ディーノ……まさか、あれほどまでに強くなっていたとはな」
親がいなくとも、子は育つものなのだな。
竜魔人となってからは、手加減などほとんどしていなかった。にもかかわらず、それを跳ね除けてみせるとは。
——さすがは、私の息子と言うべきか。
否、ディーノ一人の力ではない。
魔法使いのポップという少年を始めとする、仲間たちの支えがあってこその力だ。
人の心などくだらぬものと思っていた。だが、今やその“心”にこそ敗れたというのだから、皮肉な話だ。
私は、竜の騎士としての使命よりも、自分の感情を優先してしまった。
その結果、私自身が世界の均衡を崩しかけていたとはな……。
今の私にできることは、過去の清算のみ。
それが、せめてもの償いだ。
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何もない荒野。その一角にある岩に腰を下ろし、遠くを眺める男の姿があった。
「お前は……生きていたのか。加勢に来たのがヒュンケルだけだったので、死んだものと思っていたが」
私の声に反応し、その男はゆっくりとこちらに視線を向けた。
「その様子だと、ダイたちは勝ったようだな」
「……なぜ加勢に来なかった。命を賭け、捨て石になる覚悟で足止めに来たのではなかったか。あと一歩のところでディーノに敗れたが、状況次第ではどう転んでいたか分からなかったというのに」
見たところ、それほどダメージを負っているようには見えない。
竜騎衆を破ったのであれば、ダイたちに加勢することも十分可能だったはずだ。
しかも、この男と戦うには竜闘気を全開にし続けなければならない。
その状態で立て続けにディーノと戦えば、おそらく——いや、確実に勝てはしなかっただろう。
「そりゃ、分かってたからな。ダイたちは、絶対に勝つって」
そう言った男の顔には確信が満ち、微塵の迷いも見られなかった。
——なぜ、それほどまでに他人を信じることができるのか。
信じる心。仲間を思いやる心。それが、人間の強さというものか。
「強いな、人の心というものは。あのポップという少年も、強かった。死してなお、友のために戦っていた」
「……死んだのか?」
「案ずることはない。今頃は、息を吹き返しているだろう」
「そうか」
簡素にそう呟くと、男は再び遠くを見つめ、何をするでもなく空を仰いで黙り込んだ。
——度し難いやつだ。
仲間が命を落としたと聞いても、わずかな動揺も、憤りすらも見せない。
……いや、それよりも——。
「ここで、何をしていた?」
「――見りゃ分かるだろ。墓を作ってたんだ」
男が指し示す先には、三つの穴があり、それぞれに棺が納められていた。
「どういうつもりだ。なぜ、お前が墓を作る。我々は、お前たちの敵だ。そんなことをする義理などないだろう」
「ラーハルトは、仲間みたいなもんだからな。……それに、敵だとしても。死んだやつを、そのままってのは、ちょっとな」
……ラーハルト。ヒュンケルに魔槍を託し、死んでいった、私のもう一人の息子。
せめて私の手で弔おうとやってきたわけだが——まさか、私のほかに彼を弔う者がいようとはな。
「でも、部下の躾くらいはちゃんとやっとけ。鳥とトドみたいな奴はムカつき過ぎて原型留めてないから、棺に収めるのに苦労した」
「ならば捨て置けば良いものを……甘い奴だ」
私は彼らの棺の前に立ち、静かに黙祷を捧げた。
黙祷を終え、振り返ると、男がこちらを見ていた。彼に言葉をかけようと口を開いたその瞬間――。
「これから、どうすんの?」
先に発せられたのは、男の声だった。
「……どう、とは? 私はこれまでと変わらん。人間を滅ぼし、竜の騎士としての責務を全うするのみだ」
てっきり激怒するか、説得をされるかと思っていた。だが、男の反応は意外なものだった。
彼は困ったように、あるいは呆れたように笑みを浮かべていた。
「あんたも親なら、息子のことを一番に考えてやってくれ。ダイには、あんたが必要なんだ。贖いなんかで死んでくれるなよ」
どうやら、私の考えは見透かされているらしい。
人間を滅ぼす気など既に失せ、ディーノか誰かに討たれるつもりでいることを、男は察している。
その証拠に、私の宣言を前にしても、男からは殺気一つ感じられない。
「しばらく休んで、じっくり考えてみろよ。――ほれっ。回復アイテムだ。それ飲んで一日寝てりゃ、大抵の怪我は治る」
男が投げた小瓶を、私は思わず受け取り、戸惑う。
「……どういうつもりだ? 何故、こんな真似をする」
「俺も、けっこう長く生きてるからな。その中で分かったことがある。話せば分かる相手と、大魔王バーンみたいな連中だ。だから、ダイのこと抜きにしても、あんたには生きててほしいのさ」
用は済んだと言わんばかりに、男は腰を上げ、背を向ける。
「あ、そうだ。俺の名前はトーヤな。ちゃんと覚えとけよ。――じゃあ、またな」
名を告げた後、まるで旧友に別れを告げるような笑顔を浮かべ、男は夕焼け空の彼方へと去っていった。
……もしかすると、あの男は私にこの薬を渡すためだけにここに来たのだろうか? ……いや、考え過ぎか。
トーヤ、か。妙な人間だ。
私は荒野に独り佇み、小瓶を握る掌に目を落とした。揺れる液体を見つめていると、ふとソアラのことを思い出す。
ソアラは優しく、そして心の強い女性だった。
あの男の行動もまた、その優しさに通じるものがあったのだろう。
ディーノのまわりには、心根の優しい者たちが集まっている。
否、ディーノ自身が、そうさせているのかもしれない。あの子はソアラに似て、澄んだ瞳と真っ直ぐな心を持っていたから。
私は、沈みゆく夕陽を眺めながら、ソアラと息子――ディーノのことを思った。