辛くもバランたちの猛攻を退けたダイたちは、テランの山奥にある小屋で身体を休めていた。
誰もが疲弊し、束の間の休息を取る中、バランの血によって力を得たポップは、魔王軍の襲撃に備えて見張りの役を買って出ていた。
その隙を狙い、マァムの姿へと化けたザボエラと、魔軍司令ハドラーがダイたちに奇襲を仕掛ける。
仲間の姿に惑わされたポップは、ザボエラの奸計に嵌まり、窮地に追い込まれてしまう。
その危機を救ったのは、ポップの師――マトリフだった。
彼の圧倒的な魔力の前に、ハドラーとザボエラはなすすべなく敗れ去ったのだった。
「しっかし、さすがっすよ師匠ぉ。あの二人を相手に余裕で勝っちまうなんて」
小屋の椅子に腰かけるマトリフに、ポップは手を合わせてゴマを擦るように称賛を送る。
「ポップの言う通りだ。あの二人の強力な魔力に、魔王軍でも多くが恐れ慄いていた。それをまとめて倒すとは……」
ヒュンケルも感心したように頷き、それを機に仲間たちは次々とマトリフの強さを称え始めた。
「ふんっ、俺みたいな老いぼれに頼るようじゃ先が思いやられるぜ。それにさっきの戦いはかなりギリギリだった。もう少し粘られてたら負けてたかもな」
「し、師匠? 謙遜なんてらしくな――」
そこまで言いかけて、ポップは言葉を飲み込んだ。
ひどく疲れた表情、額ににじむ汗。マトリフは謙遜しているわけではなく、本心を口にしているだけだと気づいたのだ。
「それに安心するのはまだ早い。あの手の連中はしぶとい。恐らくどこかへ逃げ延びているだろうな……ところで、トーヤはどこに行った?」
「え? あ、ああ。あいつなら、手持ちの薬がなくなったから取りに行くって言って出ていったぜ」
突然の話題転換に戸惑いながらも、ポップは答えた。
「……そうか」
「どうかしたのか、師匠?」
「いや、なんでもねえ。ただ、姿が見えなかったから気になっただけだ」
「ところでマトリフさん、今までどこに行ってたの? バランと戦う前に相談に行ったのに、家にはいなかったし」
ベッドにあぐらをかきながら、ダイがマトリフに問いかける。
「ああ、これを探しに行ってたんだ。今のお前たちには必要だろうと思ってな」
マトリフは懐から一冊の本を取り出し、ダイに手渡した。
「――このマークは!?」
「これが有名な『アバンの書』だ。あいつの母国、カール王国まで行って取ってきた。本来はカール王国の所有物だが、滅びちまった今ではお前たちが持っていた方がいいだろうと思ってな」
こうしてアバンの書を手に入れたダイたち。
その中に記されたアバンの教えは、まるで本人がそばにいるかのように、温かく、そして希望に満ちた言葉で綴られていた。
彼らはその教えを胸に、これからの戦いに向けて決意を新たにするのだった。
+
「――弱点はそれだけじゃない。使える武器がない……並の敵なら拳だけで片がつくが、真の強敵が相手では素手じゃ渡り合えん」
部屋に入ると、本を片手に語るイケメンの姿が目に入った。
ここはパプニカ城の一室。バランとの戦いの後、俺は「回復アイテムがない」と嘘をついてパーティーから一時離脱。頃合いを見計らって、こっそり戻ってきたわけだ。
戻ってみると、どうやら皆はダイの新しい武器について作戦会議の真っ最中だったらしい。
「ただいま」
「トーヤっ、おかえりっ!」
ハイタッチで軽く挨拶を交わしつつ、俺は何も知らないフリをして会話に混ざる。……テンション高いな。
「ダイの武器がどうしたって?」
「ああ、ダイの紋章の力に武器が耐えきれないんだよ。だから、竜の騎士の力に見合う強力な武器を探しててさ」
ポップが要点をまとめて説明してくれた。
「真魔剛竜剣みたいな武器があればいいんだけどなぁ」
「……本当に、竜の騎士が使える武器って、あれだけなんだろうか」
俺は若干上の空で、その会話を聞いていた。
このあと、確かロモスの武術大会に行く流れになるはず。けど、俺自身はあまり行く必要を感じていない。
ヒュンケルは槍の修行でしばらく姿を消すし……クロコダインと特訓でもしようかな。
などと考えていたところで、突然手を引っ張られた。
「はやくっ、はやくっ! エイミさんが武術大会のチラシ持ってるってさ!」
「え? あ……、お……おう」
どうやら、俺もロモスに行く羽目になりそうだ。
本当は特訓したかったんだけどな。……まあ、いっか。子どものお守りも、大人の務めってやつだ。
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「え? 覇者の剣?」
「ああ、バダックさんから聞いたんだけど、ロモスの武術大会の賞品らしいんだ」
パプニカ城の屋上。
エイミを見つけた俺たちは、そこで“覇者の剣”についての話を聞く。
「ああ、あれね」
エイミは服の胸元からチラシを取り出し、俺たちに差し出してきた。
……どこに入れてたんだよ!
「魔王軍と戦える戦士を募るために武術大会を開くらしいわ。優勝者には覇者の剣が授けられるんですって」
「その大会って、いつ?」
「えっと……今日みたいね」
「「今日っ!?」」
ダイとポップが同時に叫び、慌てふためく。
俺はすでに知っていたので、黙っておく。
二人はエイミから大会会場の場所を聞き出し、急いでルーラで移動しようとする。ところが――。
「あ、待って。予選開始は正午だけど、受付はその一時間前だって」
「「えええええええぇぇっ!!」」
その場で崩れ落ちる二人。完全に出遅れムード。
「はぁ〜……どうすっかなぁ。このままじゃダイの新しい武器、手に入らねぇよ」
「うん……」
……あれ? もしかしてこの流れ、ロモス行かないパターンか?
エイミめ、余計なことを……。
このままじゃマズい。
超魔生物を完成させるためにも、ザムザとの戦いは不可欠。なんとしても二人を説得せねば。
「とりあえず行ってみないか? ロモス」
「ええぇ、行っても意味ねーって。どうせ参加できねえんだからよぉ」
「優勝したやつをその場でぶっ飛ばせばいい。そしたら文句言えないだろ?」
「それが勇者一行のやることか!!」
即座に却下するポップ。
心なしか、エイミも俺に冷たい視線を送っている気がする。いい案だと思ったんだけどな。
「それに大会で優勝するほどの実力者だぞ? 万が一仲間になってくれたら、戦力アップだ」
「ロモスなんて田舎の大会だぞ? ろくな奴いないって」
「それに、優勝者が剣士とは限らないだろ。職業不問らしいし、魔法使いとかが勝てば、交渉の余地もある」
「……まあ、言われてみれば、そうかもな」
「可愛い女の子がいるかもしれない(ボソ)」
小声でポップに囁く。
「あ、諦めるには早すぎるよなっ。やるだけやってみなきゃな!」
緩みきった表情のまま、ポップはそれっぽいことを言って立ち上がる。
ダイはその横で、ため息をついていた。
やれやれ、なんとか軌道修正完了。危なかったぜ。
視界の端で、エイミが俺をメチャクチャ睨んでいるのが見える。
どうやらバッチリ聞こえていたらしい。
……俺って、そんなに信用ないの?
ポップのルーラでロモスへ飛びながら、次に帰ってくるときまでにエイミが忘れてくれてるといいな、と心の中で願う俺であった。