「ハァ、ハァ……っ、うわっ!」
巨大なハサミの一撃を、俺はなんとか横っ飛びで回避し、地面に転がりながら体勢を立て直した。
だが、相手も甘くはない。ザムザはすぐに距離を詰めると、再びその異形のハサミを振り下ろし、追い打ちをかけてきた。
足元には、気を失って倒れているダイがいる。後ろに下がることはできない。
「っクソがッ!」
木刀でハサミを受け止める。だがその一撃の重さは桁違いで、腕に痺れが走り、地面にはバキバキと大きなヒビが入った。
バケモノ野郎……バカ力出しやがって。
心の中で悪態をつきながら、俺はマァムが早く罠から脱出し、助けに来てくれることを祈っていた。
──少し前のこと。
ロモスの武術大会を観戦していた俺たちは、なんと大会に出場していたマァムと再会した。
彼女は予選を勝ち抜き、決勝進出メンバーに名を連ねていた。
だが、そこで予想外の展開が待っていた(俺は知ってる)。
いざ決勝が始まろうというその矢先、主催者ザムザの罠が発動。決勝進出の選手8名が、謎の装置により閉じ込められてしまったのだ!
──というか、むしろこっちが本番なんだよな。予選なげぇよ。
さらに追い打ちをかけるように、ザムザはロモス国王を呪文で始末しようとする。
それを、間一髪でダイが阻止。そしてそのまま戦闘が始まった。
紋章の力を発動したダイは、圧倒的な強さを見せつけた。
……だが、予想通りというか、竜の闘気は長くは保たなかった。エネルギー切れを起こしたのだ。
このままでは、ダイがザムザ(変身後)に喰われてしまう。
だから俺とポップ、それにチウの三人で、なんとか時間を稼ごうと飛び出した。
ポップの呪文やチウの体当たりなんかで、どうにか奮闘していた俺たち。
だが、ここで誤算があった。ザムザが――普通に強い。
っていうか、ダメージがすぐ回復するのが厄介すぎる。攻撃してもキリがない。
原作だとマァムが普通に戦ってたから、正直そこまで強いイメージはなかった。
でも、あれはマァムが“閃華裂光拳”とかいう、対ザムザ最適解みたいな技を持ってたからなんだ。
今はまだなんとか互角っぽく見えているけど、まともに一撃喰らえば、俺とてタダじゃ済まないだろう。
足元では、ダイが絶賛気絶中。ポップとチウもザムザにやられて満身創痍。戦線復帰は期待できない。
そんな中、俺はザムザの巨大なハサミを木刀で受け止め、なんとか踏ん張っていた。
だが、防戦一方で時間を稼げるほど、ザムザは甘くない。
俺は歯を食いしばり、木刀を握る手に力を込める。全力でハサミを押し返し、狙いすました一撃をザムザの顔面めがけて叩き込んだ。
「ぐあッ!」
ザムザは両目を抑えて蹲る。
しかし、こんなのもどうせすぐ回復する。
それでも、今この瞬間を逃すわけにはいかない。俺は立て続けに木刀での攻撃を繰り出した。
息つく暇もなく連打を浴びせ続けると、さすがのザムザも反撃の隙を見いだせず、翻弄されっぱなしになる。
攻撃を避け続けるより、こっちから仕掛けて動かせなくしておいた方が安全だ。
――トドメさしていいなら、霊丸で一撃なんだけどな……。
そんなジレンマを抱えつつも戦っていると、視界の隅で、ポップとチウが気絶したダイを抱えて安全な場所へ退避させているのが見えた。
……よし、これで少しは安心だ。
だが、マァムはまだ来ない。早くしてくれよ……!
そんな俺の切なる願いがようやく通じたのか、マァムたちを閉じ込めていた檻が、突如として砕け散った。
俺に押されながらも、ザムザは目の端でそれを捉え、信じられないといった顔を浮かべた。
砕けた檻の中から姿を現したマァムは、ザムザと戦う俺を見るや否や、すぐさま駆け寄ってきた。
「今度は私が戦うわ。あなたは下がってて」
ザムザを正面に捉えて構えるマァム。
その姿は凛々しく、そして静かな怒りに包まれていた。
俺の攻撃の手が止まった瞬間、ザムザは再びこちらへ向かってくる。
だが、マァムは迫る巨体をまるで恐れる様子もなく、華麗にステップでかわすと――光る拳を叩き込んだ。
「はあぁぁぁ、武神流閃華裂光拳!!」
「ぐはああぁっ!」
まともにボディに受けたザムザは叫び声を上げて数歩後退する。
そして自らの体に異変が起きていることに気付き、愕然とした。
「な、なぜだ……オレの不滅の肉体がっ!?」
その問いに答えるまでもなく、マァムは怒涛の追撃を仕掛けた。
その姿は鬼気迫るものがあり、生体実験を繰り返していたと語ったザムザへの怒りが滲んでいるようだった。
さて、そんなことは措いておこう。閃華裂光拳を見せたのならもう十分だ。このまま一気にケリをつける。
俺は木刀を握り直し、追撃の態勢に入った――その時だった。
「うっ!!」
「え?」
俺とマァムの手に、ヌルヌルとした粘液が絡みついた。……汚っ!
俺の反応を見て、ザムザは勝ち誇ったように口を歪める。
「ぐふふふ、その光る拳は素手でなければ使えまい。そして貴様もその武器がなければ戦えんであろう。その粘液はちょっとやそっとじゃ取れん、覚悟するがいいわッ!!」
ザムザの攻撃を、マァムはギリギリで躱しつつも、反撃の蹴りを的確に打ち込む。
だが、ザムザはそれすら意に介さず、相打ち覚悟で攻撃を繰り出してくる。
……ザムザにとっての捨て身はノーリスク・ハイリターンの最高の戦法だろうね。少々のダメージなど、すぐ回復してしまうし。
木刀を握れない俺も、マァムと同じく不利な状況。
――まあ、全然問題ないんですけどね。
俺はそっと「メラ」を唱えて粘液を焼き払い、再び木刀を握り直す。
「な、なんだとっ……! させるかッ!」
すかさずマァムの粘液も焼こうと、「メラ」を放つが、その炎はザムザの巨体に阻まれてしまう。
「ぐふふ、そうはさせんぞ。あの光る拳さえ封じてしまえば、貴様らなどどうとでもなるわ」
小癪な奴め。
チラリとダイの方を伺うと、意識は戻っているが、まだ戦える様子ではない。
本来なら、チウの回復アイテムを使ってからアバンストラッシュを決める流れだが……。
そんな俺の迷いをよそに、先に動いたのはマァムだった。
どこに隠していたのか、魔弾銃を取り出すと、迷いなくダイに向けて引き金を引く。
魔弾は見事に命中し、ベホイミの光がダイを包み込む。
「き、貴様、何を……!?」
続けてマァムは素早く弾倉を入れ替え、今度は自らの手に向かって撃った。
弾が着弾した瞬間、炎が燃え上がり、ザムザの粘液を焼き払っていく。
「――し、しまった!!」
「閃華裂光拳ッ!!!」
マァムの拳が、ザムザの腕を砕き落とす。
もちろん、その腕が再生することはなかった。
「ザムザァァ!!! ――うおおおおおぉぉぉ!!」
間髪入れずに、ダイが雄叫びを上げてザムザへと迫る。
すべての力を込めた渾身の拳。
その一撃は、ザムザの強靭な肉体すら容易く貫き、巨体の胸に大きな風穴を開けた。
「ど、どうだっ……!」
突き抜けたダイはそのまま地面を転がり、動かなくなったザムザを睨みつける。
一瞬の沈黙――そして、ザムザの体が軋むような不快な音をたてて崩れ落ちた。
その姿を、俺はなんとも言えない気持ちで見つめていた。