痛ぇわ。マジで痛ぇ。
……だって、左肩砕けてるんだもん。
肩を押さえたまま、しばらく動けずにいた。
この世界で骨折って、どうなるんだろう?
ホイミって、どこまで治せるんだ。さっきは足の痛みは消せたけど……。
「トーヤ、肩見せて。今、治すから」
ようやく泣き止んだマリンが、俺の肩を心配して呪文をかけようとする。
「治すって……マリン、魔法力もう残ってないだろ? さっき限界まで使ってたんじゃなかったっけ」
それともホイミは、消費MPが少ないから使えるとか?
そう考えていると、マリンが首から下げていたアクセサリーを取り出した。
「それは?」
「これ、“祈りの指輪”っていうの」
紐に通されたそれは、小さな指輪のように見えた。というか、間違いなく指輪だな。
マリンは紐から指輪を外して、自分の指にはめる。
「こうやって祈ると、魔法力が少しだけ回復するんだって。テムジン様からもらったの」
テムジンって誰やねん。
「何度か使うと壊れちゃうらしいんだけど……これはテムジン様が使ったあとの物だから、あと一回くらいは大丈夫だと思うの」
「いいのか? それってかなり高価なものなんじゃないのか?」
「うん。でも、こういうときに使うためのものだから――」
そう言ってマリンは目を閉じ、静かに祈りを捧げた。
すると指輪がほんのりと輝き、宝石の部分が淡く光ったあと、砕け散る。
あ、壊れた。
……もったいない。魔法力なんて、しばらく休めば戻るだろうに。
でも、マリンは壊れた指輪なんて気にせず、俺の肩にそっと手を添えた。
「ホイミ」
温かい光に包まれて、俺のダメージはみるみるうちに回復していく。
一分もしないうちに治療は終わり、試しに肩を動かしてみると、まるで痛みがなかった。
……魔法って、すげぇな。
+
町へ着くと、武装した大人たちがたくさんいた。
なんでも最近、この辺で凶悪なモンスターが出るようになったらしい。
それって、もしかしてグリズリーのことか? と思いつつ、俺はあまり気にせずマリンを送り届けることにした。
町に入ると、マリンは道に迷うことなくまっすぐ進んでいく。
「道が分かるなら、もう大丈夫だよな。ここで俺は帰るぜ」
「あ、待って! まだちゃんとお礼もしてないし、もう少しで――」
「いいって、礼なんて。俺もそれなりに楽しめたしさ」
正直言えば、俺はこの二日間をけっこう楽しんでいた。
この世界に来てから、初めて人と出会って、冒険っぽいこともした。
クマに襲われたり、肩を砕かれたりしてマジで痛かったけど、それも含めて――だ。
ついでに町の場所も把握できたしな。
まさに「ドラクエ」っぽいイベントだったぜ。
「ほら、早く帰って、みんなを安心させてやれよ。妹さんも、無事だといいな」
そう言って手を振ろうとしたが、マリンは納得いかない表情を浮かべていた。
「あ、そうだ。……その指輪、くれないか?」
マリンの首から下がっている、宝石のない“祈りの指輪”。
それを指さして、俺は続けた。
「こういうの、ちょうど欲しかったんだよ。ダメか?」
「う、ううん。……じゃあ、これあげるね」
「ああ、さんきゅー」
指輪を受け取り、今度こそ帰ろうと踵を返す。
「私、しばらくはこの町にいるから、絶対遊びに来てねー!」
マリンが手を振って見送ってくれる。
「おお、その時はまたどっか遊びに行こうぜー!」
それに手を振って応え、俺は町を後にした。
+
「さてっと……」
本当は、町で保護してもらう予定だった。
けど、やるべきことができた。――しばらくは、一人でじっくり修行だ。
町で保護されてたら、自由に動けなくなるしな。
それに、あんなクマにやられかけるようじゃ、この世界じゃ生きていけない。
少なくとも、あの程度の相手は一人で倒せるようになりたい。
「ま、気長にやるか。新しい発も思いついたし」
それに魔法も覚えなきゃな。
やり方は、また後でマリンにでも聞けばいいだろ。
指輪を無くさないように首から下げて、俺は小屋へと帰っていった。