「これが覇者の剣かぁ」
剣をしげしげと見つめながら、ダイが感嘆の声を漏らす。
「ほっほっほ、如何にも! それこそが伝説の剣――“覇者の剣”である」
そんなダイに満面の笑みを浮かべながら、ロモス王が誇らしげに答えた。
ザムザを倒した俺たちは、その褒美としてロモス王から“覇者の剣”を贈られることとなった。
もともと大会の賞品だったし、他の出場者が手も足も出なかったバケモノを倒したのだ。実質的には俺たちが優勝みたいなもんだろう。
それは誰の目にも明らかで、異を唱える者はいなかった。いや、むしろ「ぜひ持っていってくれ」という空気だった。
「“覇者の剣”は、以前ダイに授けた“覇者の冠”と同じく、オリハルコンでできておるんじゃ。オリハルコンは、永久不滅の金属と伝えられておる。これからの戦いでも、きっと大いに力を発揮することじゃろう」
その説明に、誰もが「へぇ~」「ほぉ~」と感嘆の声を漏らす。
いや、偽物なんですけどね。
本来なら、紋章アバンストラッシュの威力に耐えきれず、ボロボロになるはず。
そしてザムザから、「それは本物じゃない」と明かされるのが原作の流れ。でも、今回はその技を使っていないから、ザムザは何も言わずに塵となって消えた。
その時は深く考えず、「剣を手にすればダイが偽物だと気づくだろう」と高をくくっていたのだが――。
……全然気づく様子がないダイに、俺は若干の不安を覚えはじめていた。
「ど、どうだダイ。“覇者の剣”を手にした感想は?」
早く気づいてくれと言わんばかりに、俺はダイに問いかける。
「うん、よくわからないけど、すごいパワーを感じるよ。もしかしたら、紋章の力にも耐えられるかもしれない」
ダメだこれ。まるで疑ってない。
なぜだ、なぜ気づかない。
キミ、原作じゃポップの実家で武器の良し悪しについて語ってたよね? なら気づいてくれ。
――もしかして、ザムザのやつ、すり替えてなかったのか?
……いやいや、それはない。
ザムザがわざわざロモスに潜入した理由には、“覇者の剣”の大きなウエイトを占めていたに違いない。
もちろん、大会の参加者を生体実験に使うってのも目的だっただろうけど、それなら別に道ばたで人をさらえばいい。わざわざ大会に潜入する必要はない。
ならば、“覇者の剣”はやはり偽物だと考えて間違いない。
あー、そうか。そういうことか。わかったぞ、ダイが気づかない理由が。
原作でも、ザムザにアバンストラッシュを使った後、剣はボロボロになっていた。
でもよく考えてみれば――パプニカのナイフなんてストラッシュを放つ前に消滅、ヒュンケルの魔剣でさえも一撃で砕けた。
それなのに、“覇者の剣(偽)”はボロボロになりながらも形を保っていたのだ。
……あれ、むしろ異常じゃね?
きっと偽物とはいえ、相当な業物なんだ。下手すりゃ“鎧の魔剣”に匹敵するレベルの。
ならば、ダイが見抜けないのも無理はない。なにしろ、一流の剣には違いないのだから。
とはいえ――どうやってそれを気づかせる?
さすがに、「それ偽物じゃね?」なんて、ロモス王の目の前で言える勇気は俺にはない。
……どうしよう。
剣の話題で盛り上がるみんなを横目に、俺は一人、頭を悩ませていた。
+
「そういやぁ、トーヤの木刀って、妙に頑丈だよな」
両手を頭の後ろで組みながら、何とはなしにポップが呟く。
「そういえばそうだね。バランと戦った時も、木刀で真魔剛竜剣と打ち合ってたっけ」
その言葉に乗るように、ダイも頷いた。
その戦いを見ていないマァムは、黙ったまま、静かに目線だけこちらへ向けてくる。
「あー、まあな。木刀に闘気を流してるから、普通の武器よりはかなり頑丈なはずだよ」
”覇者の剣”をどう扱うかで頭を悩ませていた俺としては、あまり会話に加わりたくなかったが、水を向けられてしまえば仕方ない。
適当に話を合わせる。
「真魔剛竜剣って、伝説の武器なんでしょ? そんなの相手に木刀で渡り合えるなんて、やっぱりすごいわよね。それに、闘気を流しても武器が壊れたりしないなんて」
「ダイだって、紋章を使い始めた当初は剣が壊れたりしなかったんだろ? だったら、俺程度の闘気なら、込めたところで別に問題ないって」
「そうかな? 闘気の強さなら、俺とそこまで差があるとは思えないけど……」
「うーん、確かに。でも”凝”を使えば、それなりにダイに近い力は出せ――」
そこで俺は、はっとして言葉を飲み込んだ。
「「「ぎょう?」」」
三人が声を揃えて同じ言葉を繰り返す。
……やっちまったか。だが、まあいいか。別に隠し通すほどのものでもない。どうせ他の連中には真似できないし。
「仕方ない。これは俺が使ってる特殊な技術でな。教えてやってもいいけど、他言は控えてくれよ」
そう前置きして、俺は”念”について、ダイたちに説明することにした。
もちろん、系統だの習得率だのといった詳細には触れない。
あくまで、”念”とは闘気を自在に操る技術であり、基本となる〈纏〉〈練〉〈絶〉〈発〉の四大行と、その応用技が存在するという、最低限の話にとどめた。
彼らなら知識としてそれを受け取るだけで、自分流にアレンジして応用してしまうかもしれない。
そう期待しての説明だった。
そして、思いがけず話した”念”の存在が、”覇者の剣”が偽物であることに気づかせる――千載一遇のチャンスが転がり込んでくるのであった。